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樹海の狂気 フィラグナ

神秘に満ちた広大な樹海。そこは一度迷い込めば脱出は困難ともいわれる魔境でもある。 そんな危険な樹海に挑んだのが一人の冒険者だった。 入念な準備と決死の覚悟のもと、探索に乗り出す。 踏み込んでしばらくすると、不気味な獣のような唸り声。生い茂る樹々や蔦が行く手を阻む。 足を取られつつもそれを掻き分け奥へ進むと、やがて深い霧に包まれた。 霧が晴れるのを待つしかない、と冒険者は考えるが、霧が濃くなるにつれて焦りと恐怖が心を支配するようになり、何かに操られるように霧の奥へと足を進める。 霧の中は思ったより開けた場所のように感じた。今まで行く手を遮ってきた木や茂みも無く、スムーズに足が進む。 しばらく歩くと霧は薄まり、視界が少し晴れてきた。 すると、ふと目の前に現れたのは、古びた廃墟のような建物だった。 蔦が絡まり、長らく放置されていたかのような外観。 何かの研究施設のような感じもした。 何故こんな樹海の中に…? その時、後ろから何者かの視線を感じた。 誰かに見られている、そして奇妙で不可解な感覚。 危険を察知するも、あまりの得体の知れない恐怖で身体が硬直して動けなくなる。 次第に頭の中にノイズが流れ込んでくる。 闇がうねるような、赤黒い樹々の根が脳に根付き、幹からは不気味な形状の何かが芽吹く。 耐えられないその感覚に頭を抱えうずくまる。 そして聞こえてきたのは。 「弱者としての運命を受け入れるがいいですの」 そこで意識は途絶えた。 意識を失った冒険者は樹海の入り口で発見される。 命に別状は無く、一日も休めば元気になった。 しかしこれを期に、冒険者の心の奥底には奇妙な「もの」が生まれていた。 それは、黒く枯れた弱々しい残骸に芽吹く、醜く曲がりくねった生命の木だった。 『大樹海の記録』