鬼種の郷で人物評を行ったり、幅広い知識で持って生業にアドバイスをする、現代で言うコンサルタントのような物を生業とする。 こと戦闘評に関しては口は悪いが正確と評判で郷の外から客が来る程である。 ########################### 「なるほどな、そういうやり方もあるんじゃなぁ。治水まで詳しいとは流石じゃの泥鬼」 今日は郷長殿との話し合いの日だ。郷の近くの暴れ川。その治め方について相談を受けていた。 似たような地質似たような地形で行われている治水工事について紹介し地元の工事との違い、そもそも氾濫の作物への影響や重要性を教示した。 郷長には、まあ郷の外の本を行商に頼んでもらったり世話になっているし、これも仕事だ手を抜くつもりはない。 「工事に関しては若集を集めればなんとかなりそうかの。感謝するぞ」 鬼種はもとより頑強で屈強な種族だ。目標を定めてやれば人力でも工事は早く進むだろう。 ……鬼種では当たり前の特性でも、同じ鬼種であるはずの私にはないものだ。 「考えもまとまったし儂は帰る。あぁそうじゃうちの孫なんじゃが、おぬしにまた戦闘評をしてほしいと言っておっての頼めるか?ついでに儂も……」 『……お孫さんの戦闘評価の件承ったわ。郷長はいい年なんだから辞めておきなさいよ。年寄りの冷や水になるわよ』 「えぇい!儂は生涯現役じゃ!まったく相変わらず口が悪いのぉ。それじゃ孫の件頼んだぞ泥鬼」 思うところがあったから、つい辛辣にしてしまったがそれでもこの程度なら許してくれるだろう。 私も大概甘えたところがある……。 後日、郷長の孫の戦闘評をしてやった。 戦闘評価は正確に辛口に忖度なし。それでもやってほしいという連中がたくさん来る。 私も、私でも扱える武術・体術・体の使いかた、それがないか古今東西のものを学んだ結果、評価とコーチングは一流なんて評価をもらっている。 ……私は仕事するたび心に澱が溜まっていた。 郷の皆も頼りにしてくれている。大型犬みたいにじゃれついてくるアイツは、壮鬼は叡智だ叡智だうるさいくらいだ。 だが、だが私は…… 鬼種として余りに貧弱だった。体躯は小さいし力はつかないし格闘センスもない。 それを揶揄する奴はもういない。壮鬼がボコボコにしたし、知識で郷に貢献できると結果を出し認めさせた。 それでも、他人の戦闘評価をしていると首をもたげる。 自分にはこんな力はない。羨ましい。鬼種として産まれたのになぜ私に力が無いのか。 皆気にするなというが私は……! ########################### 「我が友よどうした?体調が悪いのか、それとも食事が口に合わなかったか?」 『……いや別に。ちょっと仕事が忙しくてね』 「うむ、そうか。あまり無理をするなよ。君が倒れると我は悲しい」 『ふん!そんな顔してどうするのよ。アンタ明後日から何年かに一回の遠征なんでしょ』 「……うむ。我らが成人して数年、ちょうど前回の遠征が成人直前だったからな」 『しっかりしなさいよ。お役目なんでしょ。昔から役目を果たす!人々を護る!って言ってたじゃない』 「あぁ、そうだな。だが……」 『なによ?』 「我が友よ、何か最近……いや最近からでもないのかもしれないが……」 『……』 「なにか、悩んでいることがあれば……」 『……アンタ明後日から遠征なんでしょ。人の悩みなんて聞いてる場合なの?』 「……」 『まったくアンタの激励会のつもりでやってるのに湿気た顔しないでよ』 「……あぁ」 『私なら大丈夫よ。さあ改めて乾杯しましょう。遠征が無事に終わるように。お役目を無事はたせるように、壮鬼。ほら乾杯』 「あぁ、乾杯。泥鬼」 ########################### いつか心に降り積もった澱に耐えきれず、彼女は郷を飛び出す。 その先に待つものは……