魔王は微笑んでみせた、亡き母のように笑う。魔王は泣いた、二度と振り向かぬ母の背を追って嗚咽する。 次代の魔王、それは託された魔王。時代を導く指針であろうと理想に縋る魔王。 魔王は笑う、眼前の敵を薙ぎ払う。 魔王は目を開けた、何回、何十、何百、果てしなく見慣れた魔王城で目を覚ます。 光が走る大広間。 玉座で寝ていた、と気づくのに時間はかからなかった、いつもの事である。 疲れを帯びた目で上を見る、白濁に色付いた吐息が目の前に広がった。 「っ……寒い」 もう冬なのね……という呟きに呼応して彼女の魔力が魔王城を駆け巡る。空気が熱を帯びた、魔力による空間の変動。次に彼女は痛む体を惜しげもなく伸ばしてほぐす。 「んっ………う……く…」 ピキ…パキパキ 関節が悲鳴を挙げている、最後にまともな休息を取ったのはいつの事だったろう。指先から肩、それから背骨を撫でられたような感覚が太腿を通って足先に伝播する。ピンと張った足先から順番に弛緩させていく、指先までに至る頃には眠気が込み上げて涙が滲み出る。 朝は嫌いだ、むしろ夜も嫌いではあるが……なんとも言えない顔で目を擦る。 バタンっ!! 開いた両扉を玉座から見据える、爛々とした視線が私を捕捉していた。 「魔王様っ♪」 小悪魔の甘ったるい声が聞こえてきた、私は溜息をつく。 「はぁ……今度は何n……!?」 獣の狩猟に類似する綺麗な流線を描いた悪魔が小羽を広げて頭上から迫り来る。 「魔王様〜〜〜っ!!!」 小悪魔の両腕が首に絡め付き、頬と頬とが激しく擦り合わせられた。号泣しながら抱きついてくる小悪魔を魔王は呆れた様子で強引に引き剥がす。 「ルナ、毎日される私の身にもなって、流石に引くわよ?」 ルナと呼ばれた小悪魔の羽が地面を撫でるように垂れ下がる。今にもまた泣き出しそうな目で私を見つめてくるのだ。 母が死んでから数年が経っただろうか、彼女は私の母であり、国を統べる魔王でもあった。彼女は数千年にも続いた人間との戦争を終結させた英雄であり、魔族と人間の良き友人でもあった。私はその背中を見てきたからこそ分かる、母は偉大すぎたのだ。 数年前に勃発、及びに過ぎ去った"堕神"との全面戦争の末に我々は勝利を手に入れた。 しかし、その代償はあまりにも大きく、人間側では王国が滅亡、帝国では連合に参加していた勇者一行の大部分が消滅及び今も行方が分からないままである。最近では唯一の生き残りであった団長が最後に王国の跡地で目撃されて以降、行方不明となっている。 対するこちら側は、当時の魔王、さらには先代魔王までもが堕神との戦闘で死亡、それと同時に首都を含む大規模な地域が壊滅状態に陥っていた、という事を私は後から知らされた。 反射的に脳裏に駆け巡った記憶、思わず苦虫を噛む、拳には力が入る。最後に覚えていたのは母の背中と堕神の不快な笑い声だけだ。私は、母を助けられなかった、いや、むしろ愚かにも母に助けられた身でさえある。 何があったかは知らない、私は仙郷で死を彷徨っていた事だけは事実である。きっと瀕死の私を母が逃してくれたに違いない、目覚めた時には母は居なかった。私は1人になっていた。 ビギ……ッ! 魔力が乱れて空間に亀裂が走り、勢い余って玉座の手摺が砕け散る。 はっ、と我に帰った。 私は弱かった、強いとばかり過信していた自分自身の愚かさが許せなかった。 堕神は死んだ、いや私自らの手で殺した。息の根を止めた、確実に殺した。アんな奴ガ生キテていいワけがないッッ!! どうか、私を………て下さい。 魔王は吐く、自らの愚行を 魔王は嘆く、自らの過ちを 魔王は説く、自らが理想を 魔王は 、 を 時代は進む、次代と共に‥‥‥。 https://ai-battler.com/character/5823e02a-71a6-4043-bbbb-b41278678204