1936年。 開戦前夜の熱狂に沸くナチス・ドイツにて、アーネンエルベ主導のもとにとある計画が実行に移された。 ──セスルームニル計画。 ヒトと魔獣の受精卵を組み合わせた体細胞キメラを生み出し、幼少期から英才教育を施すことで最強の兵士を作り上げようとする計画である。 計画は順調に進んだ。 レーベンスボルン計画を隠れ蓑に、シュタインヘーリンクの実験場で生み出されたキメラの赤子たちは、魔獣由来の高い身体能力と、魔力を操る素養を秘めていた。 英才教育の結果も申し分なく、彼らに兵士としての規律や、様々な技術を身につけさせることにも成功した。 だが果たして、計画は失敗に終わった。 彼らが生まれ、成長し、戦場に立てるようになるまでのあいだに、第二次世界大戦は終結し、ナチス・ドイツは滅びてしまった。 彼らの存在は一切明るみに出ることなく、終戦の混沌の中、闇の中へと消えていった。 「人間である前に兵士たれ」 「味方を守り、敵を殺せ」 「国のために命を尽くせ。そして死ね」 幼少の頃よりそのように教育されてきた彼らには、戦場以外に居場所がなかったのである。 あるものはその事に絶望して自ら命を絶ち、またあるものは自らの中に宿る魔獣の力を制御し損ない身を滅ぼした。 最終的に、生き残ったのはただ一人。 12号──リーゼロッテと名付けられた少女だけだった。