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(赤谷の悪夢) ハウンド

ある者は問う。"何人、撃ち殺した?" 「数えていない」 壁に持たれ、無愛想に呟く低い声。彼は決まってそう答えるのだ。 数などどうでもいい。称号など…どうでもいい。 ただ、テロリスト共を…奴らを殺す事で、1人でも多く仲間を救えるなら… 死んだ彼らの声が収まるなら… 奴らへの鉄槌を神に代わって下し続ける。 ───────​───────​─────── カリフォルニアの農家生まれ。幼い頃から畑仕事や狩猟の経験を積む。 ▪️父親:ベトナム戦争に従軍。右腕の後遺症を抱えながら、息子を強い男に成長させるべく銃の扱い方やサバイバル術を叩き込む。 ▪️母親:カトリック系の信者。清らかで優しい心を、道徳心を育ませよう、と週末には教会に連れたり、聖書の音読を共にする。赤毛や優しさは母親譲り。母親特性のミートパイは絶品 父から良く言われた。余計な敵は作るな、と。しかし、厳しくも優しい父が初めて俺達を厳しく叱責した時がある。 弟が虐められた時だ。弟、ニックは顔がボコボコになり、哀れな子犬のような表情で俺の隣に座っていた。 「戦い方を知らない者は兎になる。戦い方を知る悪党は狐になる。しかし、両方を知る者は番犬になる。」 反抗を許さない、とばかりに…父が愛用していたベルトが片手に握られていたのをよく覚えている。 だから俺は、実行に移した。 「番犬は兎を守り、狐は好物の兎を"狩る"。弟をイジメたあの野郎をどうしたんだ?」 俺は答えたさ。 「倒したよ」 どうやって? 「素手」 その時、父は誇らしそうだった。 ​───────​───────​─────── 俺には叔母が居る。父の姉だ。叔母は父に似て…厳しく、それでいて父より温情な性格だった。 いつもゲンコツを食らっていたよ。今となれば、悪い気はしない。 だが、昔の俺は違った。思春期という言葉で正当化はできないが、あの時の俺はグレていた。過剰な暴力、そして人間関係。家族関係。弱者に手を出すような奴らは殴り倒してきたよ。母親から教えられたカトリックすら、昔の俺にとっては…疑い、そして居ない存在だった。キリストが…神が居るのなら、何故、悪党どもにバチが当たらないんだ? 若気の至りという奴だろうか、厳格に管理された家庭から逃げ出すように、元々、理学者志望だった学問を放棄し、友人との遊びに深け、逃げるように狩猟に走る。 楽しかった。あの時が。けれど友人関係で揉め事を起こし、俺は留置所送りになった。叔母からのゲンコツは免れなかったよ。母親にも、もう一度、清き心がなんだのと言いながら、教会に連れられたよ。 正直、気乗りはしなかったが…ある女と出会った。引っ越して来た自分より1つ下の女で、気さくに陽気に話しかけてくるような奴だった。何を恥ずかしがってるのか、俺は無愛想にも接してしまった。けれど、あっちは執拗いくらいに俺に付きまとうんだ。そのお陰か、俺も徐々に彼女と話せるようになった。 よく、彼女とは家族ぐるみの付き合いをした。母親は水商売をしているらしく。暴力を振るってくる事があるらしい。だから、俺たちの家が避難所になった。 ついでに、勉学も教えてくれ…なんて言うから、俺は彼女に簡単な数学を教えたよ。そのおかげで、勉学がまた楽しく感じるようになった。将来の夢を聞かれた時は…前々から思っていた、理学者になる夢を語った。専攻は物理。キラキラとした目で俺を見てくるものだから、つい、笑ってしまう。可愛いと思ってしまう。 逆に彼女は、喫茶店を経営する夢を語ってくれた。けれど、家にお金が無いから…と言って諦めているような表情だった。咄嗟に口から出た言葉が、俺が立派な物理学者になって支援する…という言葉。無意識だった、嬉しそうな彼女を見て何故か嬉しくなった。 どうやら俺は彼女に恋をしているらしい。