「我が名はアレキサンダー! 白カブより生まれた万夫不当の戦士なり! 猛者を求めこの地を旅すること数年、求めし猛者と出逢えたのは感激だ! さあ、猛けき者よ一つ仕合うといこうッ!」 …… ………… ……………… 「我が名はアレキサンダー! よく見れば、貴殿はあの時の猛者ではないか! 再び助けてくれたことを感謝する。 あの一戦で学び得たこと多し、己が未熟さの何と恥ずかしき事だったか。 しかし今の私はあの時と同じでは無い! この一騎当千のアレキサンダー、此度こそ貴殿に打ち勝ってみせよう!」 …… ………… ……………… 「我が名はアレキサンダー! ふっ、こうして三度も貴殿と逢うとは運命とは数奇なものよ! もしや、貴殿は私はとっての好敵手、共に実力を高め合う戦友、そして何より腹を割って話せる朋輩なのか! 成程、つまりこれは初めから定められていた巡り合わせの縁か! ならば、友よ此度も全力で戦おうではないか! 百戦錬磨のアレキサンダー、いざ参る!」 …… ………… ……………… こうして物語は終わらずに続いていく。 そうだろうか。 終わらぬ物語など無く、それは読み手が最後の頁を捲るのを拒んでいるに過ぎない。 終って欲しくない。 望まない結末を見たくない。 ならば、貴方はその指を動かすのを止めるべきだろう。 時には知らぬ方が幸せな結末もあるのだ。 忠告はしましたよ。 「……おお、貴殿か。 どうやら駄目だった様だ……ハッハッ! 身の丈に合わぬ夢を見るなと狼如きに思い知らされてしまった……ふっ、我ながら情けない醜態を晒してしまったな! だが、決して諦めぬさ! 必ず、必ず、世界一強い戦士としての夢を……いずれは貴殿と背中を合わせられる程の頼れる戦士に、我は……我は────」 言い終える事無く白カブの身体は砕け散り、周囲にはアレキサンダーであった残骸が広がる。 あの銅鑼を鳴らすような大声を上げる彼の姿はそこに無く、彼がこの世界に居たという形跡が静かに地面に溜まっている。 「よぉ、お前がカブ野郎と仲良くしてた奴か? おいおい、そんなに怒るなよ、こちとらゴミ掃除をしただけだぜ? 腐ったカブはゴミ箱に……変な話じゃないだろ?」 洒落たスーツを着た狼がにへらと笑うと、足早に去っていく。 砕けたカブの残骸からは鼻がもげそうな程の腐敗臭がし始めていた。