焼ける空に、朝日が昇りゆく。 だが、響く鈍い音は一度たりとも止むことはない。 ここは終焉へ向かう戦場だから。 ... ....... ____「早く起きなさい、星渡り。」 地面に落ちた男は目を覚まし、周辺を見渡す。 広がるのはあたり一帯の荒野、そして爆発の痕跡。 遠くにはいくつかの光弾が飛翔し、空はオレンジの煙に覆われている。 絶え間ない爆発音の中で、彼女の声だけが聞き取れた。 「戦うことはできる?」 赤い目をした彼女は臨戦態勢を崩さずこちらに目を向ける。 僅かだが、その眼には諦観が見て取れた。 「貴様は......人間か?」 「残念なことにね。」 直後、複数の光弾がこちらに着弾し、周辺が土煙に包まれる。 煙が晴れたころ、遠くに複数の影が見えた。 隻腕の異形、十字架を背負った肉塊、楽器を奏でる化け物...... 距離はそう遠くない。 あと数分もすれば、戦闘になることは明らかだった。 「......やはり、」 「吸血鬼がこの世界でもっともジェントルでグレートな種族である、と、久しぶりに外に出て改めて認識できた…」 初老の男はつぶやいた。 「吸血鬼こそが高貴であり、それ以外はすべて醜いものだ。」 「あんまり夢見ないほうがいいわよ。」 彼女の言葉に、男は一瞬憤りを覚える。 だが、わずかな違和感があった。 男はこれまで、人類を最も侮蔑していた。 吸血鬼以上に優れたものなど存在しないと。 そう思いながら生きてきた。 だが彼女の反応は、さも自らもそうであるかのように...... 「人類を毛嫌い」しているかのようだった。 「君は......」 「この戦場では、一度殺されても生き返ることができる。」 彼女は言葉を遮った。 「もし貴方が望むのなら、私達の場所に連れていくことができるわ。」 「龍の星、ミズガルズにね。」 「下等種族に従うつもりなど......」 「もし来ないのなら、あなたは生き返ることもできずにここで死ぬことになる。」 「ここは異世界の戦場よ。時さえも信用できない。」 彼女の発言には耳を疑ったが、どうやら本当のようだった。 嘘をついているようには思えない。 「なら、行くとしよう。」 「私の名はダンディ・ペペロンチーノ。」 「以後お見知りおきを…」 「名前なんていらないわ。」 複数の敵が接近し、既にはっきりと見える位置に来ていることがわかる。 「始めましょう。」 構えから即座に飛び出した彼女に続き、男も戦闘を始めた。 「......ところで」 「吸血鬼なら日光で死ぬはずだけど。」 「私ほどのグレートな吸血鬼にもなると、日光やニンニク程度で撃退することは不可能なのだよ。」