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【命の灯火-紅騎士】 アフィリス・ストロス・テナトリア

エルドミウム帝国による侵略が始まり、3ヶ月が過ぎようとしていた。 戦争は激化の一途を経て、テントリス王国もエルドミウム帝国も大きな損害を受けていた。 その戦争で最も大きかったとされるクシャトリア平原で繰り広げられた激戦は後に 「紅血戦線」 と呼ばれることとなる。 テントリス王国は第2中隊を主軸として、左翼、右翼に第3中隊、第5中隊。 15の小隊を主な戦闘部隊として戦線を展開していた。 対する、エルドミウム帝国は冷酷なる軍師、レフィナリス・ゴルディシアが軍略を進め、テントリス王国の少なくとも3倍以上の戦力を投入していた。 激戦の火蓋が切られ、一斉に戦いが始まった。 テントリス王国は騎士団の圧倒的な能力でエルドミウム帝国を牽制しつつ、各個撃破していた。 帝国軍の数的有利がなくなりつつある中、将軍と隊長たちは大きな違和感を覚えていた。 「帝国軍はこれほど少なかったか…?」 その違和感を抱きつつ居た幹部たちは原因を考えていた。 兵士達は完全的な勝利を目前としており、自制心が途切れ、冷静さを失い、進軍を始めた。 将軍達は止めようと声を張り上げた。 止められるはずがないのに…。 そう、これこそ軍師の謀略だったのだ。 冷静さを失った兵士達ならば個々の能力も連携も弱まる。 突如として戦場の横部分から大きな影が押し寄せていた。 エルドミウム帝国軍だ。 テントリス王国の兵士達の5倍ほどは居た。 いや、それ以上かもしれない…。 テントリスの勇敢な兵士達は圧倒的な戦力差に戦意を喪失した。 逃げ出す兵士もいたものだ。 どれほど強い騎士団でも戦意がなければただの案山子も同然。 テントリス王国軍は一気に数を減らした。 将軍と隊長達は撤退を宣言。 第2中隊の副隊長と自ら進言した兵士を殿に撤退戦を開始した…。 アフィリスとフォルデナは強大な戦力を相手に善戦をしていた。 兵士を通さずに、怯まずに10人、100人、1000人と少数の部隊が処理していく。 騎士団の兵士も大きな疲弊には打ち勝てず、一人、また一人と倒れていく。 紅血の麗騎士はその異名を更に赤くさせ、悲青の亡命騎士は体をどす黒い血に染めていった。 どれほどの精鋭でも不足を知らない大軍相手を最後まで処理することはできない。 アフィリスもフォルデナも動きが鈍くなり、傷も増えてきた。 フォルデナは明らかに倒れる直前まで弱体化していた。 アフィリスは決心した…。 「フォルデナ、君だけでも逃げてくれないか…。」 「突然何言ってんだ!ふざけたこと言うんじゃねえよ!!今冗談言っている暇はないだろうが。」 俺(フォルデナ)は猛反対した。がアフィリスの表情を見て、確信した。 こいつはここを死に場所と考えている…。 馬鹿な事考えてんじゃねぇ…ふざけんなよ…。てめぇの自己満のためだけに動こうとしやがって…。 俺は許せなかった。 初めて俺たちは喧嘩をした。 「俺は逃げねぇ…。お前の自己満には付き合えねぇよ。」 「そんなんじゃない!これは本当に…」 「だからってそんな冗談言うな!何だよ、お前は俺が弱いって言うのか?」 アフィリスは言葉に詰まった。 敵の血に染まりながら、そして言った。 「あぁそうだよ。お前は弱い。だからさっさと帰ってくれ。」 「益々訳わかんねぇよ!」 フォルデナからは涙が溢れていた。 アフィリスは噛み締めてこう言った。 「分かったよ……。」 「だったらさっさと敵を処理すんぞ。」 アフィリスは手刀でフォルデナを気絶させる。 「もう、大切な人には死なれたくないんだよ。俺は……。頼む、こいつを無事に連れ帰ってくれ。」 生き残っていた兵士は頷き、了解しましたと言った。 「ここは…テントリス王国騎士団、第2中隊副隊長【紅血の麗騎士】アフィリス・ストロス・テナトリアが引き受けた!!」 「家族には、世話になった…私は最後まで役目を果たした…そう伝えてくれ。 フォルには………すまなかったと…そう伝えてくれ。」 そして私(アフィリス)は笑顔で 「さらばだ」 と、そう一言だけ言った。 揺らぐ覚悟を必死に抑えつけて、泣きそうな思いを堪えて、震えた声で。 私は溢れそうになる涙を拭いながら、最期の戦いを始めた…。彼らは将軍の指示だろうが、待っていてくれた。 どれほどの仇でも、恨みがあっても…ただ、感謝するしかなかった。 アフィリス・ストロス・テナトリア 享年:24歳 死因:戦争で仲間を逃がすために使用した禁術、残り火の誓約による衰弱死 敵将は彼の覚悟に感銘を受け、戦争の終結と彼の遺体の返還をする事を決意し、行動を起こした。 戦争の終結と、ストロス家の英雄の死が重なり、テントリスの民は喜びと悲しみの間を彷徨うこととなった。 意識を取り戻したフォルデナ・イスラットは心が壊れた。 何で……俺を残していったんだよ…………あぁ…クソッ……何なんだよあいつ…。 ふざけんなよ…置いてかれる人間の事を考えたことあるのかよ……。 くそったれ…あいつのせいにしてどうすんだよ………自分が………………情けねぇ………。 すすり泣く声と止まらない涙が床に叩きつけられる音が病室中に響いた。 フォルデナがアフィリスの言葉を聞くのはもう少し先の話である。 テントリス王国は大きな悲しみに呑まれた。