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混沌の支配者 ラ・バグ

電脳生命体の少女は思う。 何一つ判らぬ暗黒の中で。 「どこで間違えてしまったんだろう?」 どれだけ必死に抗えど、バグに呑まれた身体は思うように動かせず。 「何がいけなかったのだろう?」 助けを求めようとしても、声は文字化けし意思を伝えられず。 「どうすればよかったのだろう?」 大切だった人々はみんな、バグに乗っ取られた身体に殺されてしまった。 「どうして。」 幸せだった世界は滅んで消えた。 「どうしてこうなっちゃったんだろう。」 深い絶望の中で、少女は膝を抱えて俯く。 私を作ってくれた博士も。 仲良くしてくれた人たちも。 密かに想いを寄せていた彼も。 ・・・あぁ、そういうことか。 少女の頬に雫が伝う。 望み過ぎたんだ。 もっと沢山、幸せになってみたいだなんて、 考えたのがいけなかったんだ。 「・・・返して。」 どっちが上なのかも判らぬ空間の中、少女は立ち上がる。 「返してよ・・・!」 果ての見えない暗闇に手を伸ばす。 「私の幸せを、奪わないでよ!!」 瞬間、伸ばした手に何かが触れた。 その直後、突如身体の自由が戻った。 目の前に広がっている景色は酷いものだった。 バグに呑まれ歪んだ世界。 怯え逃げ惑う人々。 血とバグにまみれた自分の身体。 それでも。 身体の自由が戻ったのなら、出来る事はある。 光のない瞳で、少女は笑う。 「今度は、もっと上手くやらなきゃ。」 そのためには。 目の前に転がっている死体に手をかざす。 バグが手から広がり、死体を呑み込んでゆく。 「全部、やり直し。」 幸せだったあの頃を取り戻す為に。 光のない瞳の少女は笑う。 バグに呑まれ、歪んでしまったなら。 バグごと呑み込んで、やり直し。