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アンネ・クランプフィード/かわいいかわいいアクマちゃん

「西の森にかわいい少女がいる。」 今となってはどこから流れたかも分からない噂が周辺の街村に流れた。 それから暫くして、行方不明者が出た。 どこかへ出掛けたきり、帰ってこないという。 日が経つにつれ、1人、また1人と増えていった。 しがない個人ジャーナリストたる私は、あの噂が怪しいと感じ、ネタの収集も兼ねて西の森へ向かうことにした。 用心のため銀の剣を携えて。 西の森は木々の間隔が狭く、昼間でも薄暗いことが多い。 昼飯時に森に着いた私は、珍しいキノコや突然変異の動物などをカメラに収めつつ、目的の少女を探し歩いていた。 しかし、夕方になりさらに薄暗さが増しても見つかりはしなかった。 噂は噂か…などと思い帰ろうとした時、目の前が開けた。 その一帯だけ木々の葉が落ちていたのだ。 不思議に思い、カメラを構える私。 「ねぇおにいさん。」 後ろから声を掛けられた。 振り向くとかわいい少女が立っていた。 深い森に相応しくない黒いヒラヒラのスカート、金髪に赤いリボン。 彼女が噂の少女だろうか。そんな気がする。 どうしたんだお嬢ちゃん、こんな森で。 多少警戒感を上げながら私は聞く。 「アンネね、お友達になってくれる人を探してるんだ〜」 …だとしたら街にでも行った方が手っ取り早いよ。 「でも森にもにんげんさん来てくれるんだよ?おにいさんも来てくれたし!」 私は少し違和感を覚える。 (…にんげんさん…?) そんな疑念を掻き消すように、彼女は言った。 「ね、おにいさん、アンネとお友達になって?」 …この時に逃げれば、まだ助かったのかもしれない。 しかし私はジャーナリストとして、彼女をもっと知り記事にしようと思ってしまった… あぁ、いいよ。 そのまま彼女と少し話をしていた。 しかし、話しているうちに違和感は増し、私の脳は警告を発していた。 そろそろ暗いし、記録もとれた。帰って記事を書くか…と思ったその時、彼女は言った。 「私ね、おなかすいたの❤」 彼女の瞳が紅く輝く。 ただならぬ雰囲気に危険を察知した私は後退る。 「どこ行くの?」 何故だか脚が重くなる。 今更になって怖くなった。 私は銀の剣で彼女を斬り捨てて逃げようと考え、剣に手を掛け、鞘から抜こうとした。 …が、抜けなかった。 見ると、なんと私の銀の剣は鞘ごとぐにゃぐにゃにひしゃげていた。 「お友達に痛いのはメッ、だよ?❤」 彼女は怒ったように頬を膨らませてみせる。 驚き焦った私は、何か対抗できる策は無いかと思考をめぐらせていた。 その瞬間…彼女が眼前から消えていた。 「ね、キミのこと喰べていい?❤」 突如背後から囁く声がする。いつの間にか背後を取られ、抱きつかれていた。 「痛くしないから❤」 …足が動かない。いや、動かしたくなイ…? 口を開くも声は出ず、呻き声のようなものが漏れるのみ。 「若くて美味しそう❤」 彼女の言葉に私の思考は洗脳されたように乱されていく。 彼女の血肉とならなケレば… 「じゃ、いただきます❤」 背後から声が聞こえる。 正気を失った私はされるがまま。首筋にかわいい牙がたてられる。 カプッ ─ッ!? 噛まれる瞬間小さな痛みが走る。 それが私の正気を呼び戻した。 驚く彼女の力が一瞬弱まる。 力任せに少女を振り解き、走り出す。 …腕力自体はあまり強くないようだった。 「あーん、失敗しちゃったぁ…」 「でも…うふふ、またいつか会おうね❤」 (二度と会うもんか。) …心の中で悪態をつきつつ、私は必死に走った。 どこをどう走ったのかも定かでは無いが、どうにか村に辿り着いた。 既に深夜であったが、私は彼女の危険性を説かなければならないと思い、各家の戸を叩いた。 しかし、伝えようとする度に心臓が鷲掴みにされる感覚に陥り、遂にそれは叶わなかった。 深夜に叩き起された住人たちは、私を怪訝な目で見つめ、寝床に戻って行った。 混乱しつつも家に帰り服を脱ぐと、噛まれた首筋から左胸にかけて、消えぬ紋様が妖しく刻まれていた。 呪いのようなものだろうか。 数日もすると私は変人扱いされ始め、孤立し、家に引きこもることが増えてきた。 更には紋様が疼き始め、思考が彼女の事に支配されていった。 考えないようにすればするほど、彼女に染まっていった。 もう、私はダメかもしれない。 あぁ、あの彼女に会いに行かなければこんな事には…! あァ…かわいいかわいい彼女に会イに行かナキャ…! ─とある男の手記