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「青」の魔術師の記憶

「…リ…ちゃ…。ねぇ、……ちゃん!」 私はゆっくりと目を開ける。 ここ最近仕事が多かったからか、自分の机に突っ伏すように眠っていたらしい。 「あ、起きた起きた。フッ…世界の平和のために熱心に日々悪と戦っているのは偉いけど、自分の体も大事にした方がいいと思うぜ⭐」 「はいはい、気を付けるよ。」 「本当にー?その目は明らかに気を付けようとしてない目なんですけどそこんところどーなんですかねえー?」 …私の相棒はこういう時にだけ妙に勘が鋭い。コイツはこれまで私がどんなに巧妙な嘘をついても直感で見破ってくる。 いわゆる「野生の勘」というやつだろうか。ああ、コイツが人の皮を被った野生動物だと考えればこれまでの人間離れした怪力も説明できる。そう、例えばゴリr… 「ねぇ、今めちゃくちゃ失礼なこと考えてない?」 「…ソンナコトナイヨー。」 「こんな美少女をゴリラ扱いとか…フッ、さてはこの私の美貌に嫉妬したのかな?」 「そんなことより、自称美少女チビゴリラさんは私に何か用ですか?何も無いなら寝るけど。」 「誰がゴリラだよ。ま、そんな茶番は置いといて…」 彼女はそれまで隠すように後ろで握っていた拳を私に見せるように差し出してきた。 「…?何コレ?」 「プ、プレゼント…ほ、ほら。いつもなんだかんだ助けて貰ってるし…ね。」 …こんなことはこれまでにあっただろうか。 まず、今日はコイツが大好きなクリスマスなどをはじめとする行事では無かった…気がする。そのような行事についての知識が乏しい私でもそれはわかる。 …となれば、本当に言葉通りの日頃の感謝というやつだろうか?誰よりも意地っ張りで負けず嫌いなコイツが? 「ささ。手、出して。」 突然の事態に困惑する私を差し置いて彼女は握りしめた何かを私の手に押し込むように手渡した。 これは…何だろうか… 小さくて、丸い。 それでいて、すべすべしたさわり心地… これはまるで… 「どう?私が心を込めて拾ってきたダンゴムシの触り心地は!!」 「殴っていいよね?」 このチビゴリラに少しでもセンスのある贈り物を期待した私がバカだった。 うるさいぐらい高鳴る鼓動を落ち着かせるためにため息をつき、彼女に動揺を悟られないように表情を作り直す。 「とっとと元いた場所に返してきなさい。てか心を込めて拾うってパワーワードすぎるでしょ。」 「ごめんごめん、そう怒らないでよ!」 そう言うと彼女はポケットから小さな何かを取り出して差し出す。 「はーい、実はこっちが本命でーす。」 「何これ…指輪?」 私の手に渡されたのは小さな赤い宝石が埋め込まれた指輪。 明るい色をした宝石は、どこか目の前の彼女を彷彿とさせた。 「そう、指輪!どうなかなかおしゃれなやつでしょ。いいお値段したんだからね。」 「…今日、なんかの記念日だっけ?」 「私の相棒さんのお誕生日ですけど?」 …そういえばそうだった。 以前彼女に誕生日を聞かれた際に「そんなことはもう覚えてない」と答えたら、「じゃあ私たちが出会った日にしよう!」などと彼女が言っていたような気がする。 「じゃ、改めて。いつもありがとね!」 「…はいはい。」 私に向けられた彼女の太陽のような笑顔から、私は思わず目を背ける。 彼女の目に写る私はきっと文字通り誰かのため、誰もが手を取り合うような平和な世のために戦うヒーローにでも見えているのだろう。 だが、私は彼女のような理想は持ち合わせていない。私は「彼女と同じ理想を持つ者のふりをしている」だけの偽善者だ。 私にとってこの世はとても醜い。人の皮を被った「化物」が何食わぬ顔でうろつく世界を私は美しいとは思えない。 …私は昔からこの世界が嫌いだ。 …だけど 貴女がこの世を愛するというのなら… 貴女がこの世を救うというのなら… 私はよろこんで貴女と貴女の愛する物全てを守ろう たとえ、この命が消えることになっても…