ログイン

「獣」の魔女の記憶…

深夜、つい先程まで「化物」が深々と座っていた椅子に彼女は座り、ヤツの机引き出しを引っ掻き回していた。 「ったく、せめて机の中ぐらいちゃんと整理して欲しいな。これじゃお目当ての書類が見つかるまでどのくらいかかるか…」 「「獣」の魔女」はある対犯罪組織の支部に闇夜に紛れ密かに忍び込んでいた。 「「獣」の魔女」と名を変えてからこの建物に訪れるのは果たして何年ぶりか。あの日以来ここには来ていないから、二~三年は経過しただろうか。 「おっ、ようやく見つけた。組織の奴らは次から整理整頓を心がける管理監を探すべきだね。」 お目当てのモノを見つけた私は一枚の書類を引っ張り出す。そこにはかつて、組織に所属していた頃の自分についての情報がびっしりと書かれていた。 生まれてから今に至るまで、関わった人間や解決した事件、そして私の人生を変えることになった「二つの事件」についても。 今この世を生きている人間の中で私がかつての「青の魔術師」だと知る者はいない。しかし、この書類が存在する限りそれも時間の問題だろう。私が関わった過去の事件を探られることは私の魔術を知られることに繋がる恐れがある。そんなことになれば面倒事は避けられないし、何より自身の過去を探られることは気分が悪い。  ポケットからライターを取り出し、手にした書類に火をつける。燃えてゆく書類を眺めながら私は過去の思い出に浸る。 常に自由奔放なアイツに振り回される日々は以外にもそこまで悪いものでは無かった。むしろ「とても楽しかった」。 …今覚えば、あの数年間だけは私の呪われた人生の中で唯一幸せを感じた瞬間だったのかもしれない。しかし、あの幸せな時間は二度と帰ってこない。正義感に溢れ心優しいアイツが死に、死ぬべきだった私だけがこうして今も生きている。 この世はアイツのような純粋で無垢な善人から次々と死んでゆき、私や「化物」どものような「悪人」だけが生き残るようにできている。 この世に溢れ変える「化物」どもを私がいくら始末してもキリがない。私が「化物」を一匹始末している間に罪無き人間が利用されて惨めに死んで行く。 …頭が痛くなってきた。アイツのことを思い出すといつもこうだ。 私は手にしたライターで煙草に火をつけて口に咥え、大きく息を吸って煙を肺に送り込む。気分が悪いときにはコレに限る。幼少期から未成年喫煙を咎める人間が私の周りに存在しなかったこともあり、昔からコレは私のお気に入りの嗜好品だ。 もっとも、どっかの誰かさんに、 「未成年喫煙?いっけないんだァー!」 とか散々騒がれた後に 「…ねぇ、さすがに心配だよ?」 と本気で言われて一時期キッパリと禁煙していたこともあったが、今はさすがにコレがないとやっていけない。 「…ハッ、思い出に浸るのもそろそろ終わりにするか。」 書類は焼いた。「化物」も回収した。 ならば悪人である私がもうここに残り続ける理由も無い。 自らに言い聞かせるように呟くと私は煙草を机に押し付け、火を消した。 施設内に何者かが侵入したと見られるその日。支部を管理する対魔術犯罪科管理監がその日から行方不明となり、のちに裏で犯罪組織と繋がっていたことが発覚したのは別の話。