かつて彼の栄光は大陸に轟いていた。あの日までは。 彼は大国バルハの騎士隊長としてその力を国のため振るい、数えきれない程の武功をあげ、しまいには1人で神すらも落とせるとまで言われるような生ける伝説となった。彼は容姿端麗で品行方正、誰からも尊敬され、慕われていた。 しかし、国王は彼の存在を良く思って居なかった。彼が国のため戦ったからこそ今のバルハがある事は紛れもない事実。騎士団全員でも足元に及ばない程に彼は強い事もまた事実であった。 王は欲深かった。王は建前では領土拡大によるバルハの更なる繁栄、本心は飽くなき欲望を満たすため近隣の大国ノルジアに戦争を仕掛ける方針だった。しかし、彼は王に反対する。 「どうかご無礼をお許しください。自分はこの国、バルハのために尽くします。ですが、民の生活は既に安定しています。それにバルハとノルジアはどちらも大国、ぶつかれば両国に甚大な損害が出るでしょう。そうなれば今の民の安定した暮らしは崩れます。王よ、今一度お考えを。」 彼の意見に王は頭を抱えた。彼の意見など無視したかったが、民は彼の味方をするだろう。彼をなんとか従わせる方法を探していたそんな時、王直属親衛隊隊長の魔術師、マルバンが王に囁く。 「それならば私が彼を服従させましょう。」 王はそれに乗り、彼への裏切りの計略を企てた。 ある日、彼は王から呼び出され、王宮にやってきた。彼は王宮の扉を開き、中に入る。入った瞬間に彼はこれまでの経験による直感で何か異様な雰囲気である事に気付く。 その時にはもう、全てが遅すぎた。 王宮自体が巨大な魔術の罠となっていたのだ。魔術の効果は強力な洗脳と自我の崩壊。王は彼を絶対服従の都合の良い兵器に作り変えようとしていたのだ。 彼は抗うが、マルバンの魔術は彼を上回り、彼は「バーサーカー」になってしまった。 王は彼の件について戦死したと偽装し、揉み消した。彼の訃報に涙を流す民を見て国王は静かに笑う。 王は手始めに、支配に従わない近隣の小国クリフズを滅ぼす事を彼に命じた。 彼は破壊の限りを尽くし、クリフズの民を蹂躙した。女子供であっても切り裂き、潰し、原型を留めない程ぐちゃぐちゃにした。 その姿に、彼の栄光も矜持も正義も何も残っては居なかった。 王は素晴らしい結果を見せたバーサーカーに満足した様子だった。王はバーサーカーを王宮の地下に閉じ込め、必要な時に全てを蹂躙する破壊兵器として、自らの安全を守る盾として使うつもりだった。 だがしかし、その夜、事件が起きる。バルハに謎の少女が現れ、破壊の限りを尽くした。彼女の破壊は王宮にまで届き、王はバーサーカーの拘束を解き、少女の殺害を命じる。 バーサーカーは動かず。王は苛立ちを募らせる。しばらくしてようやく動いたバーサーカーに罵詈雑言を浴びせる王だったが、一瞬にしてその表情が凍りつく。 彼が喋ったのだ。 「貴様…よくも…よくも…殺しやる…」と。 王は何か言おうとしたが次の瞬間には挽肉と化していた。 彼はここで完全に怒りに飲まれてしまった。 そうしてバルハは滅び、バーサーカーとなった彼は脱走し、姿を消した。 火の手が上がり、少女に破壊されゆく王国を城壁からマルバンが見下ろす。 マルバンの高笑いと民の阿鼻叫喚が暗い夜に響いていた。