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【模倣する被験体】実験用ホムンクルス

以下:博士の助手と新人研究員  博士が「実験」と称した残虐的な行為の数々を目の当たりにして、新人研究員の心は限界を感じていた。  かつては博士を尊敬していた。彼の研究所で働くのがの夢だった。  しかし、尊敬はやがて畏怖へと姿を変えた。博士は極めて優れた研究者であったが、人として決して欠落してはいけない『何か』が初めから備わっていないようだった。  震えるその姿に助手は背後から近づき、彼の頬に自販機で購入した冷たい飲み物を押し当てた。 「やぁ、きみはまだ人の心なんて残しているのかい?」  新人研究員は、やけに親しみやすい性格をした助手の事が心底不気味で仕方なかった。常に穏やかだが、心ここに在らずといったようだった。 それはまるで魂の無い空の器が博士の口調を模して、人間の真似事をしているように見える。先程焼却処分された、ホムンクルスのように。 以下、新人研究員の問い(Q)対して助手の回答(A) Q:皆この惨状をなんとも思わないのか A:あぁ、よく聞かれるよ。別に皆平気だよ。平気じゃなかった研究者が何人か飛び降りたことは残念だったけど。(飲み物に口をつける) Q:博士が何を思っているのか理解できない A:多分君が思っているより単純な人だよ。多分この国でもトップクラスに純粋な人なんじゃないかな。純粋に自分の研究を愛し、愛する者(研究)のためならなんだってしてしまうだけさ。 Q:(貰った飲み物を口にする)博士はホムンクルスについてどう思っているのか A:きみは博士の論文は全部読んだんだってね?国の命令で最近はホムンクルスのことばっかり書かされてるけど、本来の博士の研究分野は新薬の研究さ。その副産物に過ぎないホムンクルスの方が注目されてることは面白くないみたいだね。 Q:この実験を始めたきっかけ A:些細な事だったんだ。私が食べていたチョコレートにホムンクルスが興味を示してね。食べる姿を見せたら模倣して食べ始めたんだ。何日後かにその子は崩壊しちゃったんだけどね。(飲み物を半分ほど飲み終える) Q:この実験の目的は何か A:さぁ?国の命令だから私にわからないな。博士ですらわからないかも。あからさまにやる気ないでしょ。でも、軍事的な事にでも使われそうだね。 Q:国のためなら許される行為なのか。 A:許しなんて乞うつもりはないさ。博士も私もいつかは報いを受けるかもしれないね。それに……(飲み終えた空の容器をゴミ箱に捨てる) 助手は静かに口を開く。 「私の祖国でも、同じような実験をしてやがったんだ……孤児院から引き取った子どもの遺伝子を……無理矢理書き換えて」 表情は見えなかった。だがその声は怒りに満ちていた。新人研究員は、人間の真似事をする空になった器ではなく、本当の助手に初めて出会った気がした。