自動人形とは…俗にゴーレムとも呼ばれ、登録された主人となる者を命尽きるまで守り警戒し戦う素材と魔力の塊である。一般的に魔物よりも知能を持たず、命令を遂行するだけの名の通りの人形だが、そのゴーレムに知能をつける方法が存在する。 それは…人型もしくはそれに類似した身体を設計し、強度のある核を心臓の代わりの位置に、大量の魔力を注いだ脳味噌のような模型を頭にはめ込むという技量と地道な努力を求められる難題極まる方法だ。これ以外にも一つあるが…あれが国に目をつけられて危ないから誰も使わない。 ────────────── ノルヴァス国とある地下施設にて、暗い空間で一人の小柄な男がゴーレム作りに励んでいる。作られているゴーレムはとても背が高く、男の2倍以上もあるほどだ。 「くそっギルドの奴らめ…おれがチビだからって馬鹿にしてきやがってよぉ…こいつで絶対見返してやるぅ!」 ペタペタと慣れた手つきで粘土のような素材を貼っていく。 ゴーレムの体つきは筋肉もないし胸もない。なんなら顔のパーツの一つすらもない。まだ男らしいとも女らしいとも言えないラインで、ノッペリとしている。 「出来た…!残す作業は一つ。完成が楽しみだ!」 一応一般人がやろうとしたらずぶの初心者なら1年。知見があるものでも半年はかかる作業を、おれは1ヶ月程度で終わらせている。冒険者ギルドでゴーレム諸々についておれに敵う者はもはやギルドマスター位だと満場一致でいわれるほどだ。自慢ではないが、此の分野に関しては得意と言えるだろう。 「はぁーーぁぁあ。疲れたな…。流石に切り詰めすぎたか…」 狭く暗い部屋にずっと引き籠もって作業を休まず続けてきたおれは、久々に外に出てみようと思い立った。 善は急げ、だ。思い立ったが吉日だったか? まあともかく…おれは一度ゴーレム作成は休んで、外出することにした。 ────────── ギィッ、と閉まっていた扉が開かれる。 中からは先ほどの男が出てくる。 一ヶ月ぶりの日光。一ヶ月ぶりの喧騒。 一ヶ月前は当たり前で鬱陶しかったこの人だかりも、今はどことなく感動を誘ってくる。泣かないけど 町中を歩いているとふと、ゴーレムの素材で資金が尽きかけていることを思い出した。ギルドなら今日のうちにある程度稼げるだろうと思い、早速向かうことにした。 移動後、ギルドの門を開ける。 一ヶ月ぶりのおれの登場で場が少ししんと静まり返った。が、直に盛り上がり始めた。おれで賭け事をしていたらしく、大男たちの間で金が行き交っている。人の心踏みにじっといてさらに賭け事とは…情はないのか? 「んで、この間は何やってたんだよゴーレムマスターさまぁ?」 ベロベロによっている男がだる絡みを仕掛けてくる。めんど そもそもなんだゴーレムマスターって… 「お前らを見返す準備さ!今に見てろよ!」 声を張って威嚇するように言う。 それを聞いて大男どもは… 「だっはははは!wwお前がかぁ?w」 笑い転げた。 確かに前と肉体的な部分ではなんにも変わっていない。 でも俺が用意してるのは俺自身の事じゃない。 「じゃあ俺はもう行くから。」 まだ笑っている男どもを尻目に依頼の貼ってあるボードへ足を運ぶ。 数時間程度で終わって尚且つ報酬金の高いものがいいんだが… 「素材納品、討伐依頼、護衛任務…まあ素材でいいか…」 受付へ行き、そこの受付嬢に依頼書を手渡す。 今回の依頼の素材は近くの森の魔物のものだ。なのになんでか報酬金が高めに設定されている。 「はい!手続き完了しました!」 「ありがとうございま」 うぉっすっげぇスタイル… 「す…。」 背が高くてボディラインが美しい。それでいてデ… いやいや…変なことを考えるのはよそう。 おれは足早にその場を去ろうとし。たらまた初めの酔っ払いに絡まれてしまった。コイツ本当に鬱陶しい…。 「なんだぁゴレマスゥお前さんあの受付嬢に見惚れてたよなー?俺様が意気地なしのお前に代わって恋心を伝えてやろうか?w」 「はぁ…うるせぇ。早くどいてくれ。」 「そんな硬いこと言わずn「サモン」 杖を振り上げ、口ずさむ。 その瞬間、床からゴーレムが生えて大男を取り囲んだ。 大男は少し表情を硬くして言葉を放つ 「わかったわかった…だからコイツらをしまってくれや…」 「…」 ゴーレムを置いて、ギルドを後にした。 「ちょっ!?ちょっと待ってくれよ!ゴーレ厶しまってくれよイムー!!!」 魔法で召喚したゴーレムは一分一秒、常に使用者の魔力を食い続ける。やがて使用者の魔力が底を尽きると崩れて消える。しかしおれのゴーレムはそんなことは起きない。おれの魔力量は、他より多いから。 ─────────── 依頼を済ませ地下施設に帰る。 まあまあな貯蓄ができた。 「受付嬢さん…綺麗だったな…」 邪な考えが思考の隅をよぎる。 いけないいけない…こんな事を考えていては。 このあと魔込めの儀式するというのに… 「集中しろッ。集中…」 魔込めの儀式とは、頭の中の自動人形の形を魔力で込めることにより体現する理想を現実にしたい凶人どもが聞いたら喜び過ぎて気絶しそうな儀式のことだ。大量の魔力の注入が必要だが、長い時間をかけて分割で入れることも出来る。 おれはどんな姿にしようかな…初めの方は筋骨隆々の大男を想像していたが…「魔物などこの私にお任せください御主人!ぬぅああぁぁぁぁあああ!」……この暑苦しいのにほぼ毎日付き纏われるのかおれ…?うん辞めだ辞め。愛嬌があって側に付かれても悪い気にならない姿を考えよう。 愛嬌と言ったらやはり女性の姿か…ギルドの奴(アイツ)らに見られたら変なこと言われそうだが…むさ苦しいおっさんが年中付き纏うよりか幾分かマシだ。 おれが地味だしある程度は目立ってもいいか。綺麗な色…というよりかは好きな色…青色か。でも目に水色を使うのはなしだから…髪を水色に、目を青色にするか。 「じゃあ、始めるか!」 そういうとおれは、人形の素体に向かって魔力を注ぎ始めた。 ───────────── 「はぁ…はぁっ、ふぅーっ…疲れ…た…。」 長い時間をかけて分割だのさっきは言っていたが、どちらかといったら分割のほうが一般的な方法だ。おれみたいにまともに一回でやろうとすると気を失うくらいの魔力を使わなきゃいけないからだ。 「だけど…やーっと完成したぁー!」 特徴を復唱しよう。 身長がだいたい2mくらいあって水色の髪で青い目でき…まあとりあえず男ならある程度は理想的な造形になったんじゃないかな… 「よし、じゃあ…動いてもいいぞ…!」 ゴーレムの瞳が下にいるおれの方向を向く。 なんか緊張するな… 「御主人…様?御主人様…!!」 ゴーレムが初の一歩を踏み出し「うぉーあぁああ!?」 ゴーレムが突然めちゃくちゃな速度で俺に抱きついてきた 「うぉー…?それが私の名前、ですか…?」 状況がまるで飲み込めない…!でも名前つけるならもっといい名前つけたいんだけど!? 「素敵…!素敵、ですね…!」 「えっちょっまっムグッ!?」 人形を胸の内に抱えるみたいな体勢に…! やわ…じゃなくて!呼吸できない…?!苦しい…!死ぬ…! 「ムグッムググッ!!」 ゴーレム…うぉーの腕を叩く やべぇほんとに死んじまうッ…! 「あっ…!すいません、御主人…」 ようやっと拘束から解放され、安堵で深く息を継ぐ。 「ふぅー…。大丈夫大丈夫!気にしないで!」 まあ普通に辛かったケド… 「次から気をつけてくれればいいから!これから、頼むゼ!うぉー!」 「はい…!任せて、ください…!御主人様…!」 ──────── うぉーの性能確認のため一日休んで冒険者ギルドに再び足を運ぶ。 その最中、うぉーの事を不思議に思った何人かが声をかけてくる。 一応おれは、これでもA級程度の実力を持ち合わせていて顔がそこそこ広い。 「なあイムちゃん、そこのでっかい子は?少し前まではいなかったよね?」 「こいつはうぉー。俺が作ったゴーレムだよ。」 会話の中のなにかの単語が理解できなかったのか、うぉーが小首を傾げる。 「イム、ちゃん?」 「ああ、それはおれの名前だよ。イム。イム・ドミニスってんだ」 「イム…素敵な、響き…。」 うぉーの簡単な説明を、その後にも何人か繰り返し話す。 正直ちょっと面倒くさい… その後やっとこさギルド着いたおれたちは、魔境の扉を開く…。 比較的ゆっくり開けたからか、ギィィイイ…という重々しい音がギルドの喧騒の中にこだまする。 「誰かと思ったら、ゴレマスか。」「でも、隣の可愛い子ちゃんは誰だ?」 「スゲェいい体してんな…」「ゴレマスの従姉妹か?もしや…婚約相手…!?」 …好きかって言いやがるな。 うぉーがおれなんかの彼女だの婚約相手だの言われて気を悪くしなければいいんだが…なんかソワソワしだしたし。 早いとこ抜け出したほうがいいだろうな…。 「今日の依頼は…ふむ。なあうぉー、こんなのはどうだ?」 「私はそれで、いいですよ…。イム様…。」 さっそく、受付嬢のいるカウンターへ依頼を持って行く。 うぉーの性能が今から楽しみで仕方がないな! 無意識に小躍りしてしまう。 「はい!受付完了しました!…あの~、そちらの女性は…?」 ギルドに入ってからはなかった質問が出てきて少し驚いた。ここまできたらもはや来ないものとまで思っていた。 「うぉーはおれ「嫁、です。」 「「「「「え?」」」」」 「…うぉー?」 「「「「「「「「「「えぇーーー!?!?!?」」」」」」」」」」 …………………… このあと結構な時間もみくちゃにされた挙句「お前にあんな綺麗な人がつくと思ってんのかふざけるな」みたいな文句というか野次というかを延々飛ばされた。うぉーはゴーレムです。とちゃんと真実を伝えたらある程度の人数は解散してくれたが残ったやつが厄介でさらに時間を食われた。うぉーがふざけて言った、もしくは冒険者たちの小声の内容に反応したという事でようやっtと全員の拘束から解放された。 「今度からイタズラの内容は程々にしてくれよ?うぉー」 冗談交じりで軽くそう注意するとうぉーは俯いて口が固くなってしまった。 こりゃ狩りの前にうぉーを慰めないとな…