7月9日 正義感が強く、公安組織で働いていた霧峰は「政府には闇があり、それらは秘密裏に廃墟で行われている」と聞き、正義感が後押しし、それを確かめたくなった。 廃墟をくまなく探して回ったが、それら全てはただの廃墟。何かそれらしい物もなく1ヶ月近い時が過ぎたため、次探索する廃墟が何も無ければ政府の人間が多くいる場所へ突撃しようと思っていたが、その翌日の8月4日に訪れた場所で彼の人生における1つ目の「崖」が訪れる。 _どう落ちても人生は落ちる。良い方にも悪い方にも転がり落ちる可能性のある運命の崖に、霧峰 朱司は近づいていた。 8月4日 「何だよ…ここ。」 霧峰の目には、培養ポッドの中で謎の液体に漬けられている少女が大勢いた。足元には自分が独自に改造したガントレットによって倒れた研究員がいる。 ここのことを聞き出そうにも、加減をしなかったためかどう揺さぶっても起きる気配はなかった。 「はぁ……自分で探るしかない…か。」 ため息をつきながら少し頭を掻き、奥へと進んでいく。 水溜まりを勢いよく踏んだような足音、培養ポッドから聞こえる電子音。それら全てがこの時の霧峰には意味のわからない物質への恐怖として頭に残った。 頭がおかしくなりそうな音の中に、1つだけ…ガラスにヒビが入るような音が背後から聞こえた。 その音は次第に強く、どんどんガラスが耐えられなくなっていくような… その音の元に霧峰は視線を向ける。 「___ッ!?」 その視線の先には意味のわからない異形の化け物が目の前まで迫ってきていた。 その怪物の全体を見ようと少し後ずさりし、周りを見渡した。 「……はぁ?」 恐怖と驚きのあまり間抜けな声を漏らす霧峰。他のポッドの中に居る裸の少女達は、よく見ると霧峰に威嚇している目の前の異形の化け物と類似する箇所が多く見らた。気持ち悪い形の牙、気色悪い肌の斑点、不快な10本指など。 唖然としていた霧峰の肩を、異形の化け物は噛みちぎった。 「__ッ!!?!がァぁぁあああ!?!?!?!?」 公安時代でも味わったことの無い痛み。自分がもがいて左手を動かそうとしても、動いている感覚すらもうしない。目の前には自分の腕を咥えた怪物。 「ぅううぅッ!!!が……ぁああああ!!!」 痛みに悶え、言葉にならない悲鳴を上げながら必死の一撃を異形の化け物に放つ。 とてつもない勢いで異形の化け物は壁に打ち付けられ、その衝撃で異形の化け物は全身がバラバラに砕け散った。 「ッ…なんなんだよ……ここは…………!」 「ふざけんな……ふざ………けんなよ………」 恐怖が怒りに変わっていく。こうなった元凶を潰したい。人を弄ぶクソ野郎を自らの手で誅を下したい。できる限りの苦痛を味あわせてから、殺してやる。 「あっ」 ふと周囲を見回す。 化け物を殺した振動で割れたポッドの中に入っていた他の化け物が姿を現した。 「意味…わかんねぇ…………意味わかんねぇ!意味わかんねぇ!意味わかんねぇ!」 吐き捨てるように同じ言葉を連呼し、霧峰はその場から背を向けて走り出す。 そして霧峰はそのまま持ち前の身体能力を活かして化け物の群れと距離を離し、ポッドもない別の区間に入り込んだ。 「………」 何も言えないが、気づいた。何故かぽつんとここに置かれたポッドの中に居る少女だけは他の化け物と違って何かが変わっている様子が見られない。 「…こいつがあの化け物になっていないのは政府が求めた力がコイツにあるのか…もしくは逆で、こいつが変異していないのは完全なイレギュラーなのか……」 他にも可能性はあるだろうが、今の霧峰にはこのふたつしか思い浮かばなかった。 だったらこいつをとりあえず解放するべきじゃないのか? 「でも。」 助けたくない。こんな気味の悪い怪物と同族の可能性がある女の子は、俺は助ける気になれない。今は脱出だけで精一杯なのに、その脱出すら女の子1人抱えてちゃ難しくなる。 「悪いけど、お前はここで置いていく。別のやつが解放してくれるのを………!?」 目が合った。ポッドの中の、青髪で可愛らしい少女が俺に目線を合わせてくる。俺を見つめてくる。だが体は動いていない。その少女の目は、霧峰には助けを求めているように見えた。 ______________ 霧峰は気がついた時には既に少女を背負っていた。その分速力は落ち、化け物に追いつかれてきていた。 わからない帰り道、増していく脅威。無くなった左腕。 「クソッ……なんなんだよ!お前らはなんなんだよ!!!」 逃げて振り向きながらこう言う霧峰の顔は既に不安と絶望で染まっている。 「がブォっ!?」 つまづき、転んだ。慣れないおんぶで体制を崩したのだろう。痛い。左腕があった部分を床に強打し、必死こいて止血した場所から少し血が溢れてしまうほどには刺激的だった。 助けたはいいが動かない少女、手負いの自分…せっかく救ったのに共倒れという絶望的な最期を迎えようとしていた。 「………ぅあ……」 転んだ衝撃で目覚めたのか、謎の呻き声を上げる少女。そして霧峰は気づく。 「口から…光の粒…?」 その光の粒が泡に変貌し、その泡が凝縮されてビームのようになって化け物を切り裂く。 「……こいつはこいつで……意味わかんねぇ化け物じゃねえか………」 霧峰は呆れ気味にそう言い放ち、立ち上がる。 いつの間にか肩が生えており、その原因が抱えている少女が口から漏れ出ているエネルギーに触れ続けたからというのはすぐ想像できた。 抱えて逃げる間、道を今自分が抱えている少女が開いてくれている。そして来た道を辿り、外に出る。 ______________ 圏外から通信が戻ったスマホを確認する。そしてそのスマホはいつにも増して通知が止まない。 「………は?」 指名手配。何故か霧峰が指名手配されていたという情報を公安の友人づてで教えられていた。 その友人によれば25分前にはもう指名手配されていたらしい。25分前はちょうど、研究員を殴り倒していた時と同刻だ。 霧峰は自分が犯罪をしたという心当たりは一つもないが、指名手配される心当たりはあった。 ____あの施設だ。 政府に関する機関で闇があるのなら、そりゃあどうにか抹消しに来るだろうと来る前も霧峰は思っていた。 「……クソ………にしても早すぎるだろうが………」 吐き捨てるように暴言を吐く。そして裸で気絶した女の子を背負い、霧峰は限界集落で名の知れている辺境の地の町に駆け込んだ。流石に裸の女の子を担いだり連れ回すのは気が引けるので、田舎の服屋にでも寄って服を買ってやろうと思った。 「あー………ところで…お前って喋れるのか?」 「……ぁ?………ぅ…あ……………?」 この返答だけでもう大体理解ができた。全ての記憶が研究過程で消されているのだろう。そのため、喋り方や言葉に関する事柄も記憶として判断され、消されているんだ。 「仕方ない……か。」 霧峰は決意した。ここまでしてこの少女で何かしようとしていた政府の思惑に逆らい、この少女を政府の敵に育ててやると。 ___________ 「って事があったんです。」 手を腰に当て、自慢げな顔とポーズをする夏目。 「……聞いてますか?リョースケさん。」 話しかけているはずの男性は反応しない。ヘッドホンから音漏れするぐらいの爆音でゴリゴリにアニソンを聞いている。そしてその男性はスマホをいじって曲を変え、うっせぇわで意思表明をする。 「〜♪」 「その爆音で私の声が聞こえてるんですか…耳がいいのか悪いのか……」 「……それにしても、やっぱり先輩はネーミングセンスが欠片もない人ですよね。8月、夏の4日に出会ったからって『夏目 四葉』だなんて。もうちょっと捻ったりしてくれても良かったのに…………」 ため息をつく夏目。そして、外で戦う霧峰を普段あまり見せないような笑顔で見つめた。 今日も彼女らはこの世界で窮屈に暮らす。お互いが恋仲に発展する可能性すら考えず、目の前の脅威を払い除け、生きるための生活を続けていく。 ______ 夏目 四葉(20) 身長:157cm 体重:乙女に体重は聞くものじゃないですよ。 好きな食べ物:ビーフジャーキー 嫌いな食べ物:小さくて丸っこい物全般 好きな人:だから、そういう質問を乙女にするのはやめた方が身のためですよ……… 嫌いな人:個人主義、利己的な人