心ここにあらず、どこか浮世離れした人。誰もが口を揃えてそうした印象の人物だと語るヘレン・プリムローズ(Helen Primrose)は、その実態を簡潔に述べるなら「自然と同化して生きる花のような存在」である。 ヘレンは工業街で育った。幼い頃から彼女を取り巻いていたのはモーターの駆動音とオイルの匂いだったが、そんな彼女を変えたのは、たまたま図書館で見つけた一冊の植物図鑑だった。機械が決して持つ事のない、色鮮やかな植物たちの姿を見るや否や、ヘレンは一瞬にしてその色彩に魅了された。 図鑑越しですらこんなにも美しく見えるのなら、実物はもっと凄いはずだと信じたヘレンは、まず街の中に残っている植物を探して回った。技術の発達に伴って人の手で土地は開拓され、元々あった『自然』はどんどん追いやられていったが、その中でも粘り強く根を張り続けた強き植物を見つけると、彼女は夢中になってそれを観察し続けた。 時が経つにつれて、ヘレンは街の外にある植物を探す旅へ出ようと考え始めた。彼女いわく「『外に出て、自分達の仲間を探して欲しい。そしてこの世の全ての人や生物達と、僕達の共存を!』とお花さんに言われたんです」との事だが、本当に花が喋ったのかどうかはもちろん定かでは無い。だが、彼女は本気で『人は、その気になれば植物と対話できる』と心から信じている。 その理由の一つが、彼女の使うツールである『ブルームインジェクター』の存在である。元々は軍用の拳銃であったが、同じ街に住む知人の陽気なメカニックが、とても面白い改造を施してヘレンに贈った物だ。極めて強力な活力剤を閉じ込めた極小のカプセルを種子に纏わせ、撃ち出す。着弾と同時にカプセルが割れ、種子が素早く吸収して即座に発芽する。 このツールにより、ヘレンは外で遭遇する危険に対処する事ができる。だが彼女にとって、自衛能力を得た事そのものはあまり重要では無く、植物の力で危険と戦う事で「植物さんと通じ合った、応えてくれた」と言う様な『植物との対話の成立』が実感できる点が最も大切だと言う。 そうしてヘレンは、まだ見ぬ種を探し求めてプラントハンターとしての活動を始め、今なお続けている。植物にも意思が宿り、お話できるのだと信じ切っている彼女にとっては、それは新しい友達を探す冒険に過ぎない。 通りかかった花に何度も話しかけたりする彼女の姿は、かなり不思議で不可解な光景に映るかもしれないが……ヘレンには本当に植物の声が聞こえているのかもしれない。植物に耳を澄ませ、優しく話しかければきっと言葉が返ってくるのだろう。…………多分。