___何も無かった。 私は、それを肯定する。 ___何も無かった……。 私は、そう否定したのだ。 ___何も……、無かっ…、た……、、、 ………否、私はそんな私自身を否定した。 「___何も無かった」 打倒者、彼女の額に翳した手、否定者はそう呟いた。 打倒者、私はそれを否定する。 打倒者、私はその名を否定する。 打倒者、私はその存在を否定する。 打倒者、私はそんな過去を否定する。 打倒者、私はこれら全てを否定しよう。 「あぁ、何も無かった___、、、」 否定者は、そう呟いた。 打倒者の夢の中、彼女は瞳を開ける。 ___んっ、私……、、、 肉体を這うしがらみを見た、魂を縛る役割を認識した、私を逃がさない己の名を思い出した。 ___私は……?、打倒者……、、、 ふと思考する、しかし___ ___違う、、、 私は否定する、それを否定したのである。 ___私は、誰だっけ……?? ふと耳を澄ませる。 ___詩……ッ!、目を覚ませ…ッ!! 誰かに呼ばれた、それはどこか懐かしい声である。 ___ふう…、たろー……?? ふと私は己の言葉を反芻する。 ___否、その者の呼び名は……! 「お兄ちゃん…………」 "山田 詩(やまだ うた)"という少女は目を覚ました、無意識のうちに呟いた言葉をボヤけた視界であやふやに思考する。 ふと、最初に視界に映り込んだ女性の顔、少女は直感的に呟いていた。 「お母…、さん……?」 しかし、その女性は小さく微笑むとそれを否定した。 「すまないが……、人違いだよ」 否定者は、そう否定したのであった。 「まぁ、その代わりにお前の兄が見舞いに来ているぞ」 そう言って否定者は退いた、そして映り込んだ男の顔、私は知っている……その人は…、、、 「よ…、ヨオ! 元気にしてたか…?」 「___っ!?、お兄ちゃん…!」 詩という少女は嬉しそうに呟いた、嬉しさのあまりベッドから起き上がろうとするが、全身に備え付けられた医療器具が邪魔して立ち上がれない。 「___何……、これ……??」 困惑した表情、自分自身の置かれた状況を今更になって認識したのだ。 「おっと、もう…それらは必要ないだろう」 否定者の声、その途端に詩の肉体に通されたチューブ、その束が弾かれたように次々に音を立てて外れていく。 ___バチバチバチ……! 加えて、否定者の伸びた指先、それが詩の胸部に静かに触れた。そして、触れられた際に生じた微かな痛み。咄嗟に見下ろすと、乱れた病院服の隙間から覗かせた胸から腹部にかけてに大きく残された痛々しいまでの手術痕。詩は、微かに困惑した表情を浮かべ、次に不安を含んだ顔で否定者の方を見上げた。 しかし、そんな様子の詩に否定者は優しく微笑んでみせた。触れた指先が静かに傷口を撫でていく。そして、こう呟いた。 「___何も無かった。」 詩の肉体から急速に痛みが引いていく。少女は目を輝かせた、まるで魔法だ。それは一瞬、過ぎた刹那、傷口が瞬く間に消え去ってしまったのだ。 少女は歓喜した。 「すごい!すごい!、もう一回やって…!」 そんな反応に否定者は笑ってみせた。 「すまない、これは一回限りの魔法なんだ」 そう言って詩の頭を撫でた、少しくすぐったい。 「それでは、私と少年は失礼するとしよう。それから、今日の朝早くにでも退院できるといいな」 そう言って否定者はフウタローの肩を掴まえた。 「少年、妹に先に言っておきたい事はあるか…?」 「えっ!、俺?……んー…、それじゃあ詩!、朝早くに迎えに来るから睡眠はしっかりとな!」 そう言ってフウタローは自身の"妹"に対して微笑んだ、そんな様子に詩は笑った。 「うん!、じゃあね…お兄ちゃん!、それから素敵な魔法使いさんもバイバイ!」 詩は元気よく手を振った、そんな様子に応えるように否定者も小さく手を振ってみせる。 そして、呟いた。 「___何も無かった。」 視界から消えた兄と魔法使いの姿、やっぱりあの人は魔法使いなんだ!、と確信した詩はウキウキとした気持ちでベッドの布団を被り直したのであった。 打倒者、〇〇者、##者…………。