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【復讐の灼眼】ヨアンナ

少し、とある国の話をしようか。 その国は、かつては強大な帝国だった。 広大な領土を誇り、周囲の諸民族を征服し、属領として従えていた。 帝国は「民族平等」を掲げ、その理念を誇っていた。 名目上は、確かにそうだった。 だが、現実には碧眼の支配民族が、政治・軍事・言語・文化──すべての分野で頂点に君臨していた。 帝国が力に満ちていた時代、それは問題にならなかった。 だが、帝国が衰え、圧政が民を苦しめるようになると、各地で独立運動と反乱が噴き上がった。 炎は瞬く間に帝国全土を焼き尽くし、長く続いた“栄光の時代”は崩れ去った。 帝国が滅びたあと、支配階級だった碧眼の民族は、一つの共和国を築いた。 旧帝国の残骸の上に、平等と再生の名のもとに。 共和国の国民の大半は碧眼の民であったが、彼らの周囲には、なお多くの少数民族、灼眼、銀眼、黒眼、翠眼たちが暮らしていた。 共和国は再び「真の平等」を掲げた。 完全ではなかったが、かつての帝国よりは、幾分か穏やかな時代が訪れるかのように思われた。 国旗には、青い空の下に五本の線──赤、白、青、黒、緑──が描かれていた。 それは“五族協和”の象徴だった。 その国の者たちは信じていた。 これが平和への唯一の道だ、と。 だが、そこに大戦が訪れた。 碧眼の共和国はその渦に巻き込まれた。 しかし、碧眼は戦わなかった。 では、誰──いや何が戦場に送られたのか? それは、灼眼、銀眼、黒眼、翠眼だった。 それらは蔑まれ、囚われ、最前線へと駆り立てられた。 戦争が終わったとき、多くのそれらは亡くなった。 その国は犠牲者をほとんど出さなかった。 死んだのは"兵士"ではなく"軍馬"だから。 やがて、数少ない“軍馬”たちが帰還した。 それらはわずかに希望を抱いていた。 だが、碧眼の者たちは変わらなかった。 そして、ある夜。 一人の灼眼の軍馬が、上官を殺した。 それが、すべての始まりだった。 復讐の狼煙は、高く燃え上がった。 それを止める者はいなかった。 碧眼の国に、もはや“兵士”などいなかったから。 戦場で戦ったのは、“軍馬”だけだったから。 そのの炎は、燃え広がる。 碧の海が血の海へと染まるまで。 彼彼女らが、手に入れるまで──