最初はナイフの能力者だった。 ナイフを生成し、発射する。シンプルだが強力な能力。少女は異能研究寮のスターだった。 警察に協力して遭難救助活動をしたこともあった。ナイフは繊細に飛び、蔦や葉を切り裂いた。 少女は幸せだった。 ある日起こった異変。異様なまでの吐き気。いくら吐いても治まらなかった。 研究者による診断で、胃が異常に張っていることがわかった。常に少し食べ過ぎたかのような状態になっている。そして吐いたらその分だけ、胃に補充される。 意味が分からない。悪夢だった。 すぐに新たな異能の一種と結論付けられ、研究が始まった。 元々ナイフの方も論理的に説明できていないのだ。研究が進むはずもなく、何の対処もできずに時は流れた。 あれだけ繊細にできていたナイフのコントロールも、今や素人のナイフ投げ程度であった。 寮の仲間はもちろん、みんなの見る目が変わった。憧れなんてない、憐れみの目。少女は涙を流したが、その涙が嘔吐によるものなのか哀しみによるものなのかわからなかった。 口に吸引器をつけながら鎮静剤で眠る日々。活発で自信家だった少女は、もはや外出を嫌っていた。 寝て起きて、機関に研究されるだけの毎日。 ある日少女は部屋を抜け出し、廊下を汚しながらフラフラと外へ出た。 ぴっちり張った満月の夜。足跡を残しながら逃げた、少女の行先は─────