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初心者向けダンジョン

 私の心は空白だ……  灰の空、白濁とした視界、まるで夢の中に居るような、そんな感覚……  しかし、これは現実で、私は門番として相手を待つ。  彩られた世界へと飛び立つ初心者を迎える為に、試練を与える為に、私はここで待ち続ける。  「あぁ〜〜〜、暇ぁー」  背伸びする、コキリッと鳴った。  変わらぬ日々、灰色の風景。  この門の向こう側には彩られた世界が広がっている。希望も、夢も、甘酸っぱい日々も、全てが存在する。  「ふふっ、私には関係ない話だけどね〜」  固く閉ざされた門を撫でる。  無機質で、冷たくて、残酷で、  私は少し笑う、疲れたように笑う。  それから何日が過ぎたか、一人の挑戦者がやってきた。  見た目はそうだな……、まだ何も分からず彷徨う小動物、表情は少し不安気だ。しかし、手には確かな"武器"が握られていた、将来は有望だろう。  そして私は、  いつもこう言うのだ……  「おっ、初心者だ!」  何回も呟いた同じ台詞、毎回のように何度も驚いた表情を浮かべ、朗らかに明るく挑戦者へと歩み寄るのだ。  「君、初心者だよね!、いいね!いいね!」  両手を振って相手と言葉を交わす、少し大袈裟にはしゃいで見せる。  「よし!、話は分かった!、君は今から私と戦う、そして勝ったら後ろの門を通れる、分かった?」  相手は武器を構えた、私は笑う、明るく笑う。  ーーヒュ……ッ!  私の胸元を掠めた一撃、冷や汗、引き攣った笑顔。  "この子、できる!"  相手と距離を取る、相手は初心者、経験値の差が私にはある。タイミングさえ掴めば、対処できる。  私の拳が頬を穿つ、腹、胸、顎へと駆け上る連撃、足を掠めて転ばせては頭部を蹴り上げる。  私は門番、挑戦者の行く手を阻む灰色の番人である。  息を整える、再び相手から距離を取る、いつスキルを放つのか、効果は?、範囲は?、弱点は?  私の全てが相手を凝視する。  「すごいですね!、初心者の方とは思えない程に動きが素晴らしいです!」  口先からお世話半分、警戒半分、私は見つめる、立ち上がる相手を凝視する。  相手が武器を捨てた。  間違いない、これは……!  "スキルの開放"  突風が頬を抉る、私の脳内では警報が鳴り響く。  ‥‥‥手遅れである。  目を覚ました、痛みを感じる前に気絶していたらしい。結局のところ、相手のスキルは分からなかった。  「いててて……んっ、あれ?、君まだいたの?」  目の前に相手がいた、少し恥ずかしく照れ笑いする。  「カッコ悪いところ、見せちゃなぁ……ははは」  照れ隠しに頬を掻く、激痛で悶えた。  「あっ、だだだ大丈夫……門番は不死身だし、ダメージも相手が居なくなると自動的に回復するから」  慌てる相手を落ち着かせようとする私も、今思えば慌てていたのだろう。せめて年上らしく振る舞いたかった。  「だから、君が門をくぐれば私は元通り、君は君で新たな冒険の始まりだよ!」  私は立ち上がり、相手を門まで押しやる、開いている門、色のある世界が相手を待っている。  しかし、相手は立ち止まる。  「えっ?、私は行かないのかって?」  相手に手を引かれる、私は何かを思い出す。  「ごめん、私は行けないんだ……。」  ただ笑う、泣かないように笑顔で、  「君を見送るよ、それが私にできる最後の役割だ!」  ちゃんと笑えただろうか、相手は少し寂しそうにこちらを見返す。  あぁ、そうか……あの時か……。  昔々、何百年も昔に私を連れ出そうとしてくれた子を思い出した。最後に再会を誓い合ってから現在に至るまで、再会は果たされていない。  「ふふっ、君は優しいんだね!」  相手の頭を撫でる、きっと私なんか忘れる程にたくさんの人々と出会って、きっと偉大な冒険譚を残すであろう君を、今は少しだけ私の色で染める。  ーートンッ……!  「またね!」  背中を押した、相手は突飛な事に驚いて転びそうになる。閉じていく門、私は笑顔で相手を見送る。  閉じかけた門、相手が何かを叫んだ。  閉じた門、私は門を撫でる。  誰もいない、灰の空、私は一人もう一度呟いた。  「またね……」  頬が熱い、溢れた涙が伝う……  門はまだ、開かない。 https://ai-battler.com/battle/1b228897-7377-4487-ab83-b8e1d2a60379