全年齢対象版(こちらを討伐した場合でも先に進めます。) https://ai-battler.com/battle/70479782-0d7f-4ef5-b2c2-d973adef7790 『全知の秘法』:術者が自身の問いかけの答えを「必ず」「即座に」、知ることができるようになる魔術。効果は永続。ここで得た答えは例えこの魔術によって撤回しようとしたとしても覆ることはない。強力な自己強化に類する魔術。予言を可能にし未来を確定しうるとして開発後すぐに禁術に指定された。(マリア・フルルドリス編『魔術宝典』第三改訂版より抜粋) 全知の秘法が開発された世界に残された文献によると「ドラゴンは何故実際に存在するのか」のような答えのない問いにすら答えを与え世界をそれに合わせて捻じ曲げる性質、例えば先の問いを立てた時にドラゴンを顕現させてしまうような性質があったらしいことが判明した。だが、この魔術は開発された世界線で起こった大厄災によって失伝して久しくその詳細は不明となっている。(アリス・ルーズベルト編『魔術宝典』第四改訂版より抜粋) ーーー ねえ、アリス。君はいつまで夢を見ているんだい? 『どうしてあの子にとっての一番は永遠に私であり続けるの?』 この問いの答えは、あの日確かに与えられた。今更どうすることもできない。以下に記録するのは私の記憶の断片であり、私のとある世界に対する懺悔である。 ーーー あの日のことはよく覚えている。御伽の国にしては珍しく雪が降った日だった。魔女の世界に久々の侵入者がやってきた次の日、魔女はアリスを玉座の間に呼んでいた。確かにその日の彼女はどこか貧相でいつもよりつまらなく見えた。それでもその美しさは変わらなかったが。 ーーー 私は君の為に箱庭を作った。私達を殺すはずだった人も救うはずだった人もみんな等しく変えてしまった。塀の上のゆで卵に。破り捨てられる1枚のカードに。あるいは、私たちの家族みたいに。それで、今も私は君を守り続けている。例え君が私のことをなんとも思っていなくたってね。冗談だよ。君が私に何の感情も抱かないわけがないことくらいわかるさ。 守らなくてもいいって?まあ、それもわかっている。君をこの世界の神にしたのも、君を永遠に歳も取らず死ぬこともない体にしたのも全て私だ。今更それを変えることは例え筆者にだってできやしない。それとも何だ、もう死にたくなったかい?冗談だろう? なぜ、君をここに呼んだかって? ・・・、さて、何故だろうね? 何だい?そんな怯えた顔して。 まさか、私が君を殺すと思っているのかい?それはできないよ。いくら私の力が強くても与えられた答えを覆すことはできないから。君も知っているだろう? さて、アリス。久しぶりにおしゃべりでもしようか。 君は私をどう思っているんだい? 「最愛の人」、か。・・・、ありがとう。 ところでアリス、私に他の嘘はついていないよね?本当はお客さんが来たことを私に教えず匿っている、とか。 やっぱり君は嘘つきだよ。他の世界からのお客さんはみんな私達の敵だって言っておいたじゃないか。確かに君に彼らの「処理」の仕方を黙っていたのは悪かった。でも彼らは私達の敵なんだ。何かあったときに君を守れるのは私だけなんだよ? ・・・、ねえ、アリス? どうしてそんなに私に嘘をつくんだい? そうか。馬鹿だなあ、君は。私に嘘なんてつける訳がないのに。この期におよんで誤魔化せると思っているとは。少し、お仕置きしないと駄目かな? 『アリス、君の耳はどうしてそんなに大きいの?』 「やめて」?今更そんなこと言っても遅いよ。私を、私だけを見るんじゃなかったのか!ねえ!君ごときが、私がいなければ何もできない人形ごときが、私に逆らって良いと思っているのか! 『君の目は、君の手はどうしてそんなに大きいの!?』 おっと、私としたことが。一度にやるつもりはなかったんだ。すまないね。だが・・・。ふふ、顔だけ少女の狼とは、その格好、笑えるよ。さてと、変形の痛みでのたうち回っているところ悪いが最後の質問だ。 『アリス。君の口は、どうしてそんなに大きいの?』 ーーー 最後の問いの反響が消えていく。アリスへの罰は済んだ。痛みに耐えかね床に伸び震えている狼を尻目に魔女は虚空に問う。 『アリスが匿ったこの世界の敵の首を刎ねた剣はどこにあるの?』 その剣は、魔女の手の中にあった。 存在しないはずの記憶の中に侵入者の首を刎ねた音が響く。確かにあったその残響は目の前の狼を否応なしに意識させ、彼女はだんだんと取り返しのつかないことをしたことに気づき始めたようだった。 ここで玉座の間の外に目を向けてみよう。そこには一人の少女が居た。少女はことの顛末をしっかりと最後まで見ていたようで興奮した様子で早口に独り言を捲し立てていた。傍目から見てもとても愛らしかったように覚えている。 ーーー ああ、良いものを見ました。とても、良いものを。これは記念となる物が必要になります。そう、今日までのことの記録になるような物が・・・。 そうだ、良いことを思いつきました。彼女に擬えて私も一つ本を書いてみましょう。そうですね、童話風が良いでしょうか。彼女も好きでしたし。 『大厄災の起こった世界のマリアとアリス、2人の間に何があったのかを最初から最後まで童話風にまとめた本が私の手の中にあるのは何故でしょう?』 ・・・、趣味のいい装丁ですこと。やはり『全知の秘法』とは素晴らしい。しかし、私達の事だけなのにここまで分厚くなるとは、ずいぶん長生きしたものです。なるほど、シャープな書体もなかなか・・・。おっと悪い癖ですね、長々と本を眺めまわして。本は読まれるためにあるのですからいい加減読み始めなければいけません。さてと、 「昔々あるところに、2人の女の子がおりました・・・。」 ーーー 昔々あるところに、2人の女の子がおりました。1人の子は寂しがり、もう1人の子は夢みがち。どちらも美しい金髪で、彼女達はいつも一緒に遊んでいました。 ある日、寂しがりの女の子は言いました。自分は何でもできるかもしれないと。その子はその日、旅人だという魔法使いのお姉さんにとある魔術が書かれた魔導書をもらったのです。彼女は夢みがちな女の子を喜ばせたい一心でそこに書いてある魔術をすぐに覚えました。世界に質問して答えを貰うというその魔術の力は極めて強い物でした。 その日、寂しがりの女の子は魔術に教えられて美味しいお菓子を作りました。彼女は魔術が出す答えのままに美味しいミルクティーを淹れました。夢みがちな女の子はただ喜ぶだけでした。 寂しがりの女の子は何でもやりました。苦手な魔術も練習するようになりました。夢みがちな女の子が望むものを何でも用意しようとしたのです。やがて彼女は山のようなお菓子を用意するためにただでお菓子を手に入れる魔法を学びました。世界で一番の宝石を用意するために初めて人に杖を向けました。秘密基地のお城を作るために一つの街の人々全員に協力してもらったこともありました。そうして寂しがりな女の子のおかげて遍く物を手に入れた後、夢みがちな女の子は新しい友達をねだりました。 魔女と呼ばれるようになった寂しがりの女の子は夢みがちな女の子の願いを叶えてあげたいと強く思いました。だから彼女は一生懸命考えて、学んだ魔術に教わって、彼女の事をよく知っている男の子に頭を貸してもらい夢みがちな女の子が大好きな動く人形を一つ完成させました。 人形が連れてこられた次の日、夢みがちな女の子は元気がないようでした。その日、女の子は魔女を見つけるや否や昨日いなくなった彼女の想い人を探し出すよう頼みました。その言葉に魔女はびっくりしたのです。魔女は彼のことを女の子のただの知り合いだと思っていたから・・・。 魔女は女の子の隠し事を許しませんでした。何故彼女が想い人がいることを話してくれなかったのか理解しようともしませんでした。魔女は女の子が永遠に魔女の友達であってほしいと心から思っていました。なにより、彼女の一番は自分でなければ嫌だと強く思ったのです。 「私が彼の代わりになるにはどうしたらいいの?」 魔女は問いました。あの子の思い人のことを世界から消してしまえばいいと答は言いました。 「あの子の想い人を世界から消すにはどうしたらいいの?」 魔女は問いました。魔女が世界を支配すればいいと答は囁きました。 「世界を支配するってそんなの、どうするのよ!?」 魔女は問いました。そんなことは簡単だと答は嘯きました。 答に従って魔女は問いました。 「もし私が・・・、いや、違う。問い方は、こうだ。」 『私がこの世界の筆者なのは何故?』 その晩、世界は筆者の筆によって塗り潰されました。都市はお菓子の街へと変わり、遍く人類の遺産は全て彼女の目を奪わぬように陳な言葉遊びと子供騙しのおもちゃへと塗り替えられました。どんどんと塗り変わっていく世界に慌てた人々はその厄災を何とか止めようとしたのです。ある人々は杖をとりました。その次の瞬間誰にも元に戻せないくらいに粉微塵になってしまうとも知らずに。ある人々は逃げ出そうとしました。自分たちがいつのまにか絵札となってありもしない宙を目指して永遠に飛ぶことになるとも知らずに。魔女を知る何人かは何とか魔女を説得しようとしました。しかし既に答えは出ていたのです。もはや彼女は止まることができなかったのです。彼らは魔女の目の前で美しい狼に変えられてしまいました。その間、女の子はただ魔女に捕まえられて怯えていました。その怯えにすらも魔女は気づかないようで、ただ、災禍の中で狂気的な笑みを振り撒いていた。そうして世界はあまりに理不尽に、あまりに簡単に、全てが美しい御伽話へと生まれ変わってしまいました。捻れた御伽は今もこの夜空のどこかに燦然と輝いているのでしょう。魔女と女の子だけをその地表に残したまま・・・。 ーーー ここまで読んで彼女は一旦本を閉じた。魔女の慟哭が聞こえたからだ。「窓の外」を見る。今だに憔悴しきった魔女がはっきりと見える。少女は永遠に狼のままだ。もう2度と魔女の前に現れることはない。たった一度の激情で少女を永遠に失ってしまった魔女は、その事を認めようとせず虚空に問いかけ続けていた。その時の魔女の青ざめた顔、潤んだ瞳、彼女はそれを確かに目に焼き付けた。こんな陳腐な童話にせずとも彼女があの日の魔女のことを忘れることはなかったのだろう。自惚れと言われればそれまでだが、本当に、本当にあの日の魔女は美しかった。 「アリス・・・、君はあの日の私を見て、何を考えていたんだい?」 答はきっとすぐに分かる。 ーーー ねえ、マリア? 貴方はいつまで私の事を考えてくれるのでしょう? 貴方が突然『全知の秘法』を禁術に指定しようとしたあの日、私は貴方の目を盗んでこの魔術を使いました。私には貴方が何を恐れているのかわからなかったから。そして、私達の傑作が世に出ることもなく抹消されることはとても悔しいことだったから。それにあの時は知りたいこともあったんです。 「マリアに、私以上の天才に、私の大切な幼馴染に、永遠に私のことを考え続けさせるには、私はどうしたら良いのでしょう?」 『全知』を得た私は真っ先にそう問いました。その答はあまりに迂遠で、始めのうちは私も半信半疑だったのを覚えています。しかし『全知の秘法』の力は本当に素晴らしかった。世界線を分岐させずに過去に転移する手段も、過去の貴方がこの魔術を知って私のために使い出すようにする調整法も全て完璧に分かるとは。貴方の暴走に巻き込まれることも覚悟していましたがその前に崩壊する世界を抜け出して、その世界に絶対にバレない覗き窓をつける手段すら提示してもらえるとは思ってもいませんでしたよ。何より素晴らしいのは、私が一切の干渉をやめても世界が答通りに進行していったこと。貴方が『大厄災』世界線の私を狼に変えるところまで的中させるとは、さすが私達の作った魔術といった所ですかね。その素晴らしさ故にこちら側の世界に来てから早急にこの魔術を失伝扱いにした訳ですけれど。万に一つも私たちの邪魔をされては困りますから。今なら私達の魔術を禁術に指定しようとした貴方の気持ちがわかりますよ。今更言ってもどうしようもないことですが。 ところで、私は貴方がこの程度で終わるとは思えないのです。 私以外に唯一『全知の秘法』を持っている貴方ならば、この魔術のもう一人の開発者である貴方ならば、『大厄災』から抜け出せるに違いありません。定められた答えもきっと覆せるでしょう。ですから私はその日が来るまで貴方をずっと見守っています。もし貴方がこちら側へこれたなら、また2人で遊びましょう? ねえ、マリア。一番大事な私の永遠。 私はその日を心待ちにしています。 ーーー ここまで記録して、私は記憶の転記水晶を頭部から外す。 『どうしてあの子にとっての一番は永遠に私であり続けるの?』 あの問いの答は確かに完璧に与えられた。あまりに破滅的なその答に、それが覆せないという絶望に、私はあの魔術を禁術に指定した。それがなんの役にも立たない事を知りつつも。そうして今は次元の狭間に立ち彼女を救う手立てを探っている。 今回も彼女の1番は永遠に私であり続けるのだろう。もはや打てる手は打ち尽くした。過去に戻って旅の魔術師を排除しようとしても、そもそもこの魔術の開発者たる私達を抹消しようとしても、あるいは『大厄災』を引き起こす前の私達を殺そうとしても、全ては無駄に終わった。それでも、仮に不可能だとしても私は彼女を救いたい。何千年かかっても、私は彼女を救わなければならない。瞳は狂気を孕み、私はゆらりと椅子から立ち上がる。数百年分の記憶が詰まった転記水晶を鞄に押し込む。朦朧とする頭で次の手を考える。 『今、ここが『全知の秘宝』が開発される前日の私の自室なのは何故?』 世界が歪む、その刹那、不意に思い立って私は虚空に問う。 ねえ、アリス。君はいつまで夢を見ているんだい?