わたしはお母さんとお父さんから愛というものをもらえなかった。 ずっと前から大きい声で叱られ、失敗をすれば高いところに縛られて、暗いところに閉じ込められて、毎日痛くて苦しいのは当たり前。 そういう毎日を続けてきたものだからいつの日にか〝わたし〟がなくなってしまった。 みんなには〝名前〟があるらしい。お父さんとお母さんからの最初のおくりもの。わたしには無いもの。皆にとって当たり前なもの。わたしはそれすら貰えない。わたしは誰からもそれを呼んでもらえない。 名前があるってどんな気持ちなんだろう。わたしにはもう分かることはできないと思う。 そして今日、寒くて真っ白なお外にお母さんとお父さんはわたしを捨てた。 こんな酷いことをされていても、ひとりがこわかった。でも呼んでも泣いてもお母さんとお父さんは二度とこっちを見てくれなかった。 『役立たず』だから『わたしのせい』だから『いらない子』だから『どこにもいけない』から。 わたしは、捨てられた。 寒さが苦しくて小さくなって泣いているうちにだんだん涙も止まった。 寒い。 「…」 寒いなぁ… おててとあしの感覚がなくなってきてる。 でもきっと誰も助けてくれないのかな。 わたしには誰も目を向けてくれなかったから。 もうお空も真っ黒で周りには人がいない。 それでも雪は容赦なく降り積もっていく。 わたしは死んじゃうのかな。 いいや。 寒くて暗いここは…どこにも居場所がないわたしにはきっとお似合いかな。 「嬢ちゃん、こんなところでどうした?一人か?」 …人…? 「…」 「あなたは、だれ…?」 優しい声。かけられたこともないような。わたしを思いやってくれているのがすぐにわかった。 「役人の阿実恭一。嬢ちゃん、名は?」 「わたしは…」 言葉がつかえて声が出ない。 「…ないの」 ようやく出た声は雪のように脆く小さいものだった。 「無いのか…」 「じゃあどうだ?今名前をもらうっていうのは」 「…」 追いつかないままわたしは頷く。 「…そうだなぁ…『リノ』なんてどうだ?」 「…!」 「リノ…?」 わたしはその人から〝名前〟をもらった。 心の奥がどこかあったかくなるのを感じた。 「親は…まあ名前が無いんじゃいないよな…」 「リノ、俺の家に来るか?寒いし腹減ってるだろ?」 「俺はお前を見捨てれない。」 その人…キョウイチさんはわたしに手を差し伸べる。 「…うん」 わたしは大きくあったかい手をとった。