白濁とした世界に俺はいた。 「ここは……?」 先程まで幼馴染の瑞稀を止める事に必死だった筈……、つまり此処はあの世___ッ!? えっ?、俺死んだの……!? 「く〜、やっぱ俺じゃあ力不足だったかー」 ぶつかる瞬間に見せた瑞稀の歪み切った表情を思い出す、たしかにアレは人間の為せる顔ではなかった…… だけどよ……、 すごく悲しそうでもあったんだ……。 「そんな表情、俺は見たくなかった………」 だから俺は……、 命を賭しても止めたかった、あいつの苦しみを少しでも受け止めたかったんだがな………。 「まぁ、さすがに無理があったか……」 そう言って俺は頭を掻く、この状況は仕方がない……遺書ぐらい書く時間が欲しかったが、まぁ受け入れるとしよ___! 「瑞稀……ッッ!!?」 瑞稀がいた、うずくまっている。 しかし、その背中は明らかに普段よりも小さく見えた。 「瑞稀……」 幼い頃の瑞稀である、一人で泣いていた。 俺は手を伸ばした、その小さな背に向けて手を伸ばそうとしたのだ。 ___ハッ! 背後からの気配、反射的に俺は振り向くとそこには普段よく見知っている瑞稀が佇んでいた。再び正面を見てみた時には幼い頃の瑞稀は消えていた、仕方なく俺は瑞稀の方に振り返った。 「えーとよ、なんていうか瑞稀……」 上手く言葉が出てこない、代わりに声が聞こえてくる。 「フウタロー、私は……弱いね」 「何バカな事を言ってんだ、お前は……!」 「違うの!、私は未熟で!、ただ我儘なだけの子供ッ!、気に入らなければ他者を簡単に傷つける害悪な存在!」 「あのな瑞稀、それは__ッ!」 「フウタローを傷つけた!、あの女の子にすごく嫉妬した!、そして二人を傷つけた!、そんな私なんて……私なんて大キラ___ッ!?」 ___ギュッ! 「ふぇ………!?」 理由は上手く説明できない、だが俺は瑞稀を抱きしめていた。 「そんな事……、そんなこと言うなよ!」 無意識のうちに発していた言葉、俺はこうも呟いた。 「俺はバカで不器用だから他人より恥じてばかりの人生だ!、だけどよ瑞稀!、そんな俺を見捨てずにお前は呆れながらも毎回助けてくれたんだ!、たまに殴られる事もあるけどさ…!、瑞稀のそういう所も嫌いにはなれない自分がいる!、いつもお前は笑って!、笑いながら何度でも俺を揶揄ってはダメな俺の側でいつも励まそうとお前はしてくれてた!、だからな……!、だからこそ俺は不器用ながらに今日まで笑って生きて来れたんだ!、だからさ………だからお前は昔から本当に強くてカッコいい俺にとっての___ッ!!」 "___ヒーローなんだよッ!!" 「フウ……タロー………」 「俺は昔からお前に憧れてた!、お前みたいに強くなりたいと何度も願って努力した!、こんな俺では力になれないかもしれんが、どうか……どうか………」 言葉に詰まった、しかし瑞稀はそんな俺を強く抱きしめた。 「ほんと……不器用な男だね、非モテのフウタローは……」 俺の胸元に顔を埋めて瑞稀は呟いていた。 「じゃあフウタロー、最後に質問……」 「あぁ、いいぜ……?」 「私が君の事を好きだとしたら、君は恋人になってくれたかな?」 んっ?、こい…びと……恋人ッ!? 「な、なななな!?、へっ……ッ!!?」 驚きのあまり抱きしめていた瑞稀の体から両腕が離れた、心臓がドキドキとして鳴り止まない……!? 「ちょっと!、そんなに驚かれたら私だって傷つくんだからね!、これでも一応は女の子だし……」 「あ、あぁ…悪いな瑞稀」 でも___、 「それには答えられない…!、俺はあの少女に恋をした……いわゆる一目惚れってやつだ!、だからお前とは___!」 瑞稀は人差し指でフウタローの唇を閉じた。 「みなまで言わなくていい、私……知ってたからさ」 ふっ、と諦めのついた表情……、 瑞稀は数歩、後ろへと下がった。 「お、おい……?」 「だから、フウタロー……」 瑞稀は少し悲しみの含んだ表情を見せるが、それは一瞬にして消え去った。 「私、待ってるから…!、君が私のことを好きになるまで待ってるから!、だから……それまでは君達の旅路を応援するね…!」 「おいおい、それは………いや、そうだな……その時になるまで俺の側で待っててくれよな、瑞稀」 「ふふっ、いいよ……だって、私はとても強いからね!、だから___」 いつまでも待ってる、永遠に待ってる、貴方達が二人幸せに人生を添い遂げて……生まれ変わったとしても……、この約束をもし君が忘れてしまってたとしても……、 私はずっと君のことを待ってるから___! だって、私は強い……! 君の憧れた、強くてカッコいいヒーローなんだからね……! 「だから、私は君達の側でずっと待ってるから……浮気しちゃダメだよフウタロー!、女の子の恨みは怖いんだぞ〜!、もしあの子を悲しませるような事があったら問答無用で私が全力で君を殴り倒しに行くからさ!」 「ひえっ!?、肝に銘じておきます……!」 「じゃあ、ばいばい……フウタロー」 んっ……? 「お、おい瑞稀…!」 俺は咄嗟に手を伸ばす、幼馴染へと手を伸ばす。 「また……、会えるといいね」 そう言って、瑞稀は静かに目を閉じた___。 「瑞稀___ッ!?」 背後に見えた物影、あのムカデが瑞稀を喰らおうと姿を現したのだ……!? 俺は駆け出した、気づいた時には既に駆け出していたのである。 ___ドッ…! 「フウタロー……っ!?」 瑞稀を押し退けた、それは一瞬の出来事であった。 「ムカデ野郎!、喰うなら俺を食って地獄の沙汰まで腹下してろ馬鹿野郎……ッ!!」 ___ドシュッ! ムカデの触覚が俺を貫く感覚、意識は急速に薄れて視界は暗転を始めていた。 「フウタロー……!?、ねぇフウタロー……!」 瑞稀の叫ぶ声、悪いな瑞稀……最後まで俺はお前を悲しませてばかりだったな。 俺、山田風太郎は瞳を閉じた。 暗い暗い物語の終幕に、眩いばかりの輝きがある事を願って静かに目を閉じたのである。 https://ai-battler.com/character/9a75fa66-ec1a-490f-b60f-6602010af620