目が覚めると、目の前には少女がいた どうやら俺は地面に横たわっているようだ 心配そうに俺を見つめるその顔は、先ほどまで泣き腫らしていたかのようだった 「ロボットさん、大丈夫?」 少女は問う 改めて見れば、少女は全身煤だらけで怪我をしているようだった にも関わらずこちらのことを気にかけている 「解答:演算能力、異常なし。ハードウェアを自己診断中……異常あり。脚部のアクチュエータに重大な損傷あり。修理の必要がある」 少女は俺の言葉に混乱する しかしどうにか一部の言葉は理解したようだ 「脚が悪い……のね?今直すね」 と足を引きずりながらどこかへ行ってしまった その間に俺は任務を思い出す 俺は、いや俺たちの部隊は侵攻作戦中だった 対象はレジスタンスのリーダー、及びその家族 俺は輸送車に乗って移動していたが、どうやらその途中で襲撃にあったようだ 対象の特徴は、銀髪の…… 「んしょ……ごめんなさい遅くなって。少し身体をいじるね」 と、どこからか工具箱を持ってきた少女が帰ってくる 「構わない。しかし修理をするなら防護服の着用を推奨する」 「え……どうして?」 「私の動力源はフュージョンコア。被曝の可能性は限りなく低いが、規定により着用を推奨せよとのマニュアルに沿うためだ」 少女は俺の言葉の半分も理解していなかったようだが、構わず修理を始めた 覚束無いその修理“もどき”は、おそらくだれかの見よう見まねでやっていることだろう 案の定、脚の一部を分解したところで少女は固まってしまった 「露出している部分に折れている部品はないか?」 「えっと……うん、いくつかある」 「新しいパーツに交換すればいい」 「わかった……けど、それはどこにあるの?」 周囲を見渡せば、俺たちを運んでいた輸送車が見つかる 転倒して炎上もしているが、予備があるとすればあそこだ 「あそこにあるのね」 「危険だ」 俺の視線に目ざとく気づいた少女の、その言葉の意図に気づいた俺はすかさず止める 「大丈夫。もうここはどこも燃えているから」 そういって彼女は走ろうとする どうやら自身の足の怪我を忘れていたようで転んでしまった しかし泣くのでもなく、心配ないよとでも言いたげな笑顔をこちらに向ける そのまま足を引きずって車輌のほうに向かっていった ほどなくして少女は戻ってくる ジュラルミンケースをひとつ持ってきたようだ 「たぶん、これはあなたのだと思うけど合ってる?」 「肯定。予備パーツ及び修理道具とマニュアルが内包されている」 「よかった……あなたのその番号と同じだから、これかなって思ったの」 聡い子だ、と思った 専用の道具とマニュアルを見ながら、すいすいと修理を始める 「……ロボットさん、あなたも一人ぼっちなの?」 「……不明。通信に応答はなく、近辺にも味方の反応はなし」 「そっか……。私は、目が覚めたらみんないなくなっちゃってて」 「黒く焦げた人形はたくさんあったけど、パパやママ、友達は見つからなくて」 どっか行っちゃったのかな、と呟く少女 しかしあれだけ頭が回る子だ。人形が何であるか、今はどういう状況か、薄々勘づいているだろう。もしかしたら俺の正体も…… 「……んしょ……これで大丈夫、かな。どう?」 そう問われ再度自己診断をする 動力は問題なく伝わっているようだ 答える代わりに立ち上がって見せた 「……やった……!良くなったんだね」 と少女は屈託のない笑顔を見せる 「……っと、うわぁ」 少女を立ち上がるが、よろけてしまい転びそうになる それを俺は片手で受け止める すっぽりと手に収まりそうなほど華奢な少女 煤だらけ、怪我だらけだが嬉しそうに笑う笑顔 所々焦げてしまった銀髪 間違いない、彼女は対象の家族だ 今なら捻り潰すことは造作もなく行える 「……ロボットさん?」 動かなくなった俺をまた心配そうに見る少女 「もしかして、まだどこか悪いの?」 「否定。あなたの扱いを模索していた」 「え……私?」 「あなたの望みはなんだ?」 そう問えば少女は真剣に考え始めた うーんうーんと唸っては、答えが出なかったようで困った顔をこちらに向ける 大方、わがままどころか些細な自身の要求すらしてこなかった子なのだろう 「分かった。ではあなたの家族を探そう。見つかるまで、何があっても私があなたを守る」 数年後 アリーサたちは旅をしている あてもなく街から街へ、草原へ山へ海へ、とまるで目的もあって無いような場所だが、行く先々でアリーサは色々な表情を見せてくれる 旅の途中で聞いてみたことがある 「アリーサ、この旅の目的は家族を探すことだろう?そこにはいないと思うが」、と 彼女は答えた 「家族はもう見つかったよ」、と 「今は一緒に、いつまでもどこまでも、一緒にいたいんだ」、と 俺は彼女に手を差し伸べる 「ここからは険しい道だから、おいで」 彼女は無言で、しかし嬉しそうに手を取る そのままアリーサを肩に乗せ、再び歩き出す 人から見れば歪かもしれないこの関係 しかしアリーサは、いや俺も胸を張って言えるだろう 『私たちは家族だ』、と