構築魔法について 設計図と材料があれば瞬時に物を築ける魔法 魔法陣の書かれた設計図と魔力があれば魔法すらも構築できる 戦え。逃げろ。守れ。 奴隷に転落したこの少女はお前にしか守れない。 お前には何でも築ける設計図があるんだから。 目を覚ますと木造の天井が視界に映った。 今泊まっている宿はマニュス山脈の麓にある宿だ。 ここから北に山脈を越えて国境沿いの"大聖堂(カテドラル)"を目指す予定だ。 大聖堂で神聖魔術をかけてもらうのが目的。あまり人を頼りたくないが生憎、俺は神聖魔術を使えない。 「……うーん」 色々と考えていると隣で寝ていたウルヴァが目を覚ました。 「おはようございます…ご主人様………」 「あぁ、おはようウルヴァ」 お互いに挨拶をした後、ウルヴァの服を着せ替えた。 彼女はくらりくらりと左右に揺れながらも宿の一階へと下りていく俺についてきた この宿の一階はちょっとした飲食ができるようになっている。 俺の姿が見えた途端、他の宿に泊まっていた奴らはこちらを見ながら、ヒソヒソと小声で話しだした。 「あの悪人面の魔法使い、奴隷を連れてるぞ」 「うわっ、本当だ。あんなに小さい子を…可哀想に」 その言葉はナイフのように俺に向かってきたがそんぐらいの雑言はスラリと避けれる。 「ご主人様…」 「気にするな。さ、何か好きな物を頼め」 ウルヴァは心配した顔つきでこちらを見てきたがあまり彼女に悲しい目に遭わせたくない。だからあえてスルーする。 「で、ではマニュス風サンドイッチでお願いします…」 「貧民のパスタ1つ」 そう注文して十数分後、頼んだ料理が届いた。 「わぁ…おいしそう…」 目を輝かせながらウルヴァが呟いた。 マニュス風というのはキャベツの漬物とタレで味をつけた鶏肉を使ったこと土地伝統の料理だ。 「おまたせしました。ではごゆっくり」 俺の前には貧民のパスタが躍り出た。 まるで金貨のように輝くチーズと卵が使われたシンプルな味付けだが隠し味のニンニクが効いてて、美味しさが引き立っているのがいい。 「やっぱり美味いな…」 こんなに美味しいが値段は比較的安い。 飯を食べ終えて机に料金を置いてから、宿を後にしようとした。 だが、扉の前に他の宿泊者が現れ、道を塞いだ。 「お、お前みたいな魔法使いは死んでしまえばいい!」 「奴隷の子をこちらに引き渡せ。さもないと痛い目見るぞ」 やっぱりか。奴隷を雇ってる=その奴隷に強制労働や強制結婚などをやろうとしているということ。 だが、 「俺達を邪魔する奴は…」 許さない。 まず兜を被った男が出てきて斧を振り上げた。 が、俺は即座に壁を構築して防衛した。 次に細みの魔法使いが出てきて風魔術で風の刃を飛ばしてきた。 それも同じように構築した壁で防衛した。 そして次に現れたのが 「神の導きにより癒やされたまえ。『神聖魔術』、『回復陣』」 その途端、奴の周囲に円が現れ兜の男と魔法使いの傷が無くなった。 神官だ。 「奴隷を使うような愚行、一度懲らしめて、罪を悔い改めさせるしかないようですね」 「クソッ、喰らえ!」 俺は即座に構築した剣で、攻撃したが奴の傷は瞬く間に無くなった。 その刹那、 「死ねやオラァァ!」 腹に鋭く重い刃が入った。 その刃が兜の奴の斧ということに気付いてからは遅かった。 「ご主人様!」 ウルヴァが視界に入った。 ポロポロと大粒の涙を落としている。 「安心しな、嬢ちゃん。リヒター神官と俺たちについてこれば安全だ」 「ささ、行きましょう」 細みと兜の話し声が聞こえた。 血が止まらない。 痛い、痛い痛い痛い。 また裏切られるのか? ウルヴァもあの貴族と同じなのか? 「嫌だっ!」 ウルヴァの声が聞こえた 「ご主人様は!私をひろってくれた!それまで酷い目に遭っていたのにご主人様は優しくしてくれた!」 そうか、 「おいしいご飯をくれて!可愛い服をくれて!楽しい物もくれた!」 良かった。 裏切ってなんていなかった。 「私はご主人様を裏切りたくない!」 ありがとう。 「そうですか。」 リヒターは言った。 「貴女も彼と同じ悪魔ですか」 バキッ! 音が響き、目に見えたのはリヒターはウルヴァを殴る光景だった。 「うっ!」 再びリヒターはウルヴァを殴った。 何度も何度も確認するように。 「そ、そろそろ辞めたほうがいんじゃないですか?」 他二人が止めようとしたがリヒターは聞いていないようだった。 やめろよ!やめてくれよ! 声にならない声が心の中で反響した。 あんな奴ら、殺してやる! 殺して、その腹綿引き裂いて親にでも食わせてやる! 生きている間に目玉をえぐり取って苦しめてやる! 「諦…めないで…」 ウルヴァの声が聞こえた。 そうだ。 復讐のためじゃない。ウルヴァを助け出すことが第一だ。 やっと気づいた。 だがどうしようもできない。 その瞬間俺の持っていた一冊の本が光りだした。 本をめくると1つのページに魔法陣が描いてあった。 その時、魔法陣をどう使ったらよいのか分かった。 「構築魔法!」 「ガオナァ・エンゲル!」 リヒター達は驚いた顔をしたが大きく変わっていることは無いことに気付いて笑いだした。 「最後の最後にハッタリですか。面白い」 リヒターはウルヴァを殴る手を止めた。 その時、俺は唱えた。 「『神聖魔法』、『回復陣』!」 再び彼らは驚いた顔をした 「なぜ、それが使えるのですか!?」 リヒターは焦った顔ような驚いたような顔で問いかけてきた。 「なぁに、俺は魔法陣に描いてあった魔法を構築しただけだ」 「そしてお前の魔術を奪った」 俺はウルヴァを抱き寄せ、回復陣の中に入った。 すぐさま傷が無くなっていく。 「ガオナァ・エンゲル」、それは相手の魔術、魔法を奪う魔法だった。 その後リヒター達は足早に逃げて行った。 「いやぁありがとうございます!彼等は自分達が聖職者だとか言って金を払わずに泊まっていたんですよ」 ここの宿主がそう言った。 「お礼として一泊分と料理の料金を無料にさせて下さい。あと何か、好きな料理をいくつか頼んで下さい。勿論、料金はいりません」 手厚い対応だ。 「ケーキを…私と…ご主人様にも!」 ウルヴァがそう答えた。 「おい、俺は要らない…まあ偶にはいいか」 苦笑しながらウルヴァに言った。