ネレフォリアは10~11歳ほどの外見をした少女で、細身で小柄な体つき。 その動きはまるで宙を跳ねるように軽やかで、走るでもなく歩くでもない、“ふわり”とした足取りが特徴的である。 淡く輝くピンク色の髪は肩先ほどまでの長さで、顔の横で小さく編み込まれた三つ編みが揺れる。風に踊るように広がる髪は、光の加減で虹色のような淡い輝きを帯びることもある。深い藍色の瞳は、星の光を閉じ込めたように澄んでおり、笑った時にはまるで夜空そのものが微笑んだような幻想さえ覚える。 服装は、白と淡い空色を基調にした軽やかなワンピース。所々に月を模した金具や装飾があしらわれており、ただの子供服に見えて実は神衣(しんい)である。足元にはしっかりとしたレザー製の白いブーツを履いており、汚れも傷も決してつかない。 普段のネレフォリアは、まるで神であることを忘れてしまったかのように、幼稚で自由奔放、そして無邪気な子どもそのものである。 好奇心が強く、お菓子が好きで、気になるものはすぐ触るし、つまらないことには簡単に飽きる。いたずら好きで、町の大人をからかっては子どもたちと一緒に笑っている。しかしその言動には悪意は一切なく、すべては「遊びたいから」「面白そうだから」という純粋な欲求から来るものだ。 だがその内面には、数百年にわたって世界と子どもたちの夢を守り続けてきた神としての覚悟がしっかりと根付いている。普段はまったく表に出さないが、ひとたび子どもたちの空想や笑顔が踏みにじられそうになると、彼女の人格は一変する。 その瞬間、表情からは感情が消え、声からは遊びの響きが失われる。彼女の目には、神としての威光と、静かな怒りが宿る。 ネレフォリアが生まれたのは、遠い昔、世界がまだ形を持ち始めた時代。 人々の“空想”が混沌の海に浮かぶ小島のようにぽつぽつと灯った頃、それらが世界の根を成すと直感した創造神が、空想という概念そのものを保護・統治する存在として彼女を生んだ。 その誕生は静かで、祝福と共に世界の深層に迎え入れられた。最初に彼女が聞いたのは、子どもたちの夢の声だった。小竜に乗って空を飛ぶ声、お菓子でできた家を作る声、見えない友だちと冒険する声。彼女はそれらを「とてもすてきだ」と思い、それを“絶対に壊させない”と心に誓った。 時は流れ、彼女は世界の一角「ナレリウスの丘」と呼ばれる町のはずれにある古い泉の近くに住みついた。そこは、子どもたちがよく遊びにくる隠れた場所で、ネレフォリアはまるでその一員のように混ざって遊んでいる。 しかし、彼女は“空想”の神。 この世界にとって空想とは時に混乱や歪みも生むため、それを狙って現れる“夢喰い”や“現実至上の魔獣”などの存在は絶えない。 ある日、町に突如として現れた混沌の魔物が、子どもたちの作った“空想の街”を踏み潰そうとしたとき、ネレフォリアはふざけることをやめた。 空気が沈黙し、彼女のワンピースが風もないのにふわりと揺れる。 「こわさせないよ。ここは、あたしのだいじな世界なんだから」 その声は静かで優しく、同時にどこまでも冷酷な宣言でもあった。 ネレフォリアの空想が世界を塗り替え、魔物は“存在してはならないもの”として塗り潰された。 こうして今日も、ネレフォリアは子どもたちと遊びながら、彼らの夢を何気なく守り続けている。 彼女の正体を本当に知る者は、神々の中でもほんの一握りしかいない。 それでもネレフォリアは、今日も笑う。 「ねえ、つぎは“雲のおうち”つくろうよ!」