ある所に、1人の少女がいた。 その少女に身寄りはなく、みっともなく裏路地で塵を漁る様な仔であった。 少女は親がいない理由を知っていた。 それは過去の、夜のこと。少しの間散歩に出ると出て行った両親がちょいと長く帰ってこなかったので、いつも2人の寄っていた道を辿ってみた。 そこで、赤い池を作り倒れた父と複数の男に寄られている母を見た。 少女は恐怖に震えた。 見つかれば、同じ様になるだろうという幼心ながら確信を得たのだ。 その時から少女は、夜を忌むようになった。 夜を恐れる様になった。 夜を…憎むようになった。 そうして数年後、軒下で意地汚く生きてきた少女は立派な復讐者となり、夜のアルテヌスに降りてきた。 黒いフードに鴉のようなマスクを被り、アルテヌスの夜、闇に紛れ悪を行う者どもを斬り始めた。証拠なぞ残らなかった。目撃者なぞいなかった。 しかし偶然にも、その現場に居合わせてしまった一般市民が1人いた。 復讐者は一般人なんて興味がないかのように一瞥したのちにすぐさま闇に再び溶け込んでしまった。 その頃からだろうか。アルテヌスの街に、「夜闇に紛れる深淵が、悪を喰らう」と噂されるようになったのは━━━ 復讐者は闇に潜む深淵となった。 それから幾年、夜の間に悪を借り続けた。 そんなとき、復讐者は出会った。 自分と同じように、且つ自分より美しい手法で夜の秩序を保とうとしている者を。 「…ぁ、んた…なにや、やっえるの…?」 復讐者は問う。 久々に開けた口は、信じられないほどか細い声しか出せなかった。 「あぁ…ああ!貴方様はもしや、深淵(オリジン)様でありますか!?」 少女は驚いた。 まるで慕っているかのような口ぶりに。 自分に会えた事が、名誉かのような振る舞いに、 「おっと、これは失礼。説明不足でしたな。」 良く見えないが、男であろうその存在は 被っていた帽子を手に取り、深々と礼をした。 そうしてから淡々と、語り始めた。 「夜の闇に溶け込み、悪を次々に刈り落としていく貴方様に尊敬の念を抱き…貴方様と同じ様に、悪を断罪する者達が現れたのです。そんな者達がいつの間にやら寄り集まってできた、夜の均衡を正す…『闇狩』と名付けられた組織が完成いたしました。」 「ばか…な、ぉ?」 自然と、そう口に出ていた。 宗教教祖じみたことをするつもりはないと、 そう言いたかっただけなのに。 「そう仰るのも、仕方がないでしょう…私たちもなぜ貴方様がこの行動を起こしているのかは分かりませんし、それと同じ様なものです。」 こうして述べられている言葉が、 真実である確信は持てるだろうか。 暴れ回った私を処しにきた王宮の使いじゃない保証は、何処にあるだろうか。 自然と、獲物を握る手に力が入った。 「しかし、それでも、行動を起こさずに只待ちぼうけて居るだけでは行けないと、私の様な者達はそう感化されたのです!」 「…じゃあ、てぃ、じゃ…ない、の?」 震える声で応える。 恐ろしい。幸せな生活を享受できてきたでろう目の前の存在が、自ら闇へ飛び込んできたという事が。 復讐者は、それがひたすらに恐ろしかった。 「勿論ですとも!あぁ…貴方様の、意のままに…!」 そうして、その存在は闇へ溶け込んでいった。 復讐者は、歓喜した? 復讐者は畏怖した? 復讐者は呆けた。 暫くの間、その暗闇で思考を続けた後、復讐者も同じ様に、闇に溶けていった…