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【天地返しの羅刹女】壮鬼(ソウキ)

いいか我が友よ。 我は今より君を打倒し、その身に巣食う悪しきモノを君から切り離す。 君を生かして取り戻し、共に贖罪を果たさん。 ……できっこない、と? 否、否である。 我が友よ。いつか君は我をキラキラしていると言ってくれたな。 君が憧れたキラキラがどれほど強いか、いま君に示そう。 少なくとも今の、泥だらけの君には負けないと証明して見せよう。 いざや!悪縁断ち切るべし!我が友を救わん! ########################### 壮鬼は郷の守護を任せられている一族に生まれた女の鬼であった。体躯のいい父と母、兄と姉。幼き頃から鍛え教える最高の師。幼いながら恵まれた環境にいると漠然と解っていた。そのうえで自らを鍛え高めることが好きな、そんな子供だった。 父が母が兄が姉が言っていた。我らは郷の守護。弱きを、幼い者を老いた者病んだ者を闘えぬものら守る郷の盾であると。壮鬼は心と体を磨き育っていた。 幼い頃のある日。一人の鬼が複数人に虐められてるのを見かけた。稚気な正義感で取りあえず複数人側をボコボコにし虐められていた鬼を助けた。 自分と年が近いだろうか。幼いとしても尚、体躯の小さい、言っては失礼だが貧弱な鬼の少女だった。しかしその瞳には輝く知性と勝気な光を湛えていた。 「もう少しで言い負かしてやるところだったのに……でもありがとう」 これが体躯の小さな鬼の少女、泥鬼との出会いだった。 泥鬼は皮肉屋な、しかし心優しく確りと知性を持った少女だった。壮鬼も知らないような知識をたくさん持ち、また活用できる知恵を持っていた。自分の知らない事を沢山知っている泥鬼を気に入った壮鬼は泥鬼を連れまわすようになった。おしゃべりをしたり家の書庫で一緒に本を読んだり、遊んだり、共に成長していった。 友達だというと顔を背け恥ずかしがる小さな友人が好ましかった。 唯一訓練だけは共にできなかった。泥鬼がついてこれる訓練ではなかったし、一族の使命として壮鬼も訓練を中身を泥鬼に合わせるわけにはいかない。泥鬼の申し訳なさそうな,悔しそうな顔をよく覚えている。 身体が弱い泥鬼だが、それを補って余りある叡智の持ち主だと壮鬼は知っていた。壮鬼が郷を守り、泥鬼が郷を発展させる。二人ならそれができると信じていた。 二人は大人になった。壮鬼は無窮無双と呼ばれるまでに身体と技を磨き上げた。泥鬼は小さいままだったが、その知識でもって郷の皆に助言を求められる生業をしていた。 時間が合えば二人で食事をしたり出かけたり この時間がずっと続くのだと思っていた。 ある日、壮鬼は遠征に向かうことになった。数年に一度山に入り魔物の間引きをするのだ。 一ヶ月の山狩りから戻ると事件が起きていた。泥鬼は手紙を残し消えていた。手紙には鬼種であるのに力のない自分の長年の苦悩、壮鬼が羨ましかったと書き連ねられていた。 気が付いていなかった。否、目を背けていたのかもしれない。自分が迎えに、話に行かなければならない。 壮鬼は家族の引き留めを聞かずに郷を飛び出した。初めて一族の掟を破った。それでも自分が行かねばならない。そう思った。 一ヶ月の差があれど自分と泥鬼との身体能力の差を考えればすぐに追いつけると考え、そう考える自分を殴りつけたくなった。 その後一ヶ月が経ち二ヶ月が経ち……泥鬼を見つけることはできなかった。まさか、と最悪の事態がよぎるようになった頃。ある噂を聞くようになる。 泥をまき散らし能力を奪う角の生えた怪物の話。見た目を聞くと泥鬼に違いないと安堵した。しかし同時に不審に思う。泥鬼はそのようなことをする者ではない。 泥鬼が襲った村を訪ね確信を得た。 神か魔かいずれかの強い気配が泥鬼の気配とともに残っている。 泥鬼はナニカに悪縁を結ばされ支配されていると。 助け出さねばならない。そして彼女を追い詰めてしまった自分も共に贖罪を果たせねばなるまい。 壮鬼は泥鬼を探すのと並行して神魔滅却の業を会得するべく修行を行った。 全ては友を救うために。