かつて「物ノ怪喰らいの剣豪」と呼ばれるほど優れた剣術をもった刀使い。ある妖との戦闘で呪いの傷を負い、みるみる衰弱していった。ヘイハチは現役の戦士を引退し、師範として次世代の踏み台となることを決断する。 とある日…ヘイハチは、純粋な戦闘力では既に自身を越える一番弟子と手合わせしていた。その時である。劣勢に立たされた瞬間、傷跡と共に刻まれた呪いの気配が一時的に和らぐのを感じた。そして衰えたはずの身が素早く動き、弟子の一本を取ったのである。格上の相手とも対等に渡り合うまで、呪いによる衰弱を覆す技術【竜騰】を習得した瞬間であった。 技術ではまだまだヘイハチに敵わない弟子達にとって、師が衰弱を克服し始めたことは、立ちはだかる壁がより高く迫り上がり始めたことを意味していた。刀の道を進む者としては喜ばしい限りなのだが…剣豪の力を取り戻し始めたこの男を─未だ全盛期に遠く及ばぬとはいえど─片田舎の道場に師として置いていくにはあまりにも惜しい。弟子達は師範以外の道を提案した。始めはヘイハチも乗り気でなかったが、最終的に候補として冒険者が挙がった辺りで、ヘイハチはふと、かつての自身が護り抜いた人々の顔を思い出す。 「弟子達の言う通り…まだ戦から身を引くには早いのかもしれぬな」 この力を極めれば、いつかは忌まわしき呪いを完全に振り払い──そしてまた、数多の命を救えるようになるかもしれない。ヘイハチは冒険者として、ここに新たな旅立ちを決意したのであった。