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ルビィ・コーラルハート/🐉🍰甘味を愛する竜の王女

このお城の入口はこちらですよ! 【紅玉の城】入口へ▶https://ai-battle.alphabrend.com/battle/77ffc90a-503e-451d-b0aa-9d1e93753603 別世界のチーズの、幼い時の姿ですね! https://ai-battle.alphabrend.com/battle/2490e2d7-0170-4e93-a2da-bb318635d826  ──あったかもしれない姿、そのひとつ。  もしも人の王ではなく竜の王の子として生まれていたならば、絶世の魔法の才を持つこととなっていただろう。  回復魔法は臓器の再生すら可能とし、永遠の守護の聖域を創り出し、竜の放つ元素の息吹たるブレスは尽くを吹き飛ばす。  最も特筆すべきは光魔法だ。ウルティマホーリーは絶大な威力を誇るが、ルビィはその制御を誤ったことは一度も無い。力を完全に掌握している証左と言える。  そんな彼女だが、食いしん坊なところは一切変わっていない……どころか、体格が大きいからか、食事の後に満腹になっているところを見た者は一人もいないという……  人との交流もあり、治療やお手伝いの対価として甘味を提供してもらっている。本竜曰く「ケーキがあればなんでも頑張れちゃいます!」  【女神様はケーキがお好き】  冒険者たちは茂みを掻き分けて道無き道を進む。傾斜は緩やかとはいえ、山を登るのは体力も精神力も削られる。  「行って帰るだけの任務が、こんなに気が重いなんてな……」  その内の一人がそんな風に独り言ちた。  彼らの任務は、山で目撃されたという未知のドラゴンを調査することだった。  「中腹から頂上にかけて目撃情報アリ、だとよ。範囲が広すぎるっつーの」  三人組の冒険者はいずれも鍛え上げられた肉体と淀みなく流れる魔力を持ち、油断も隙もないが緊張して強ばってもいなかった。  間違いなく一流の冒険者たちだが、それでも愚痴は出る。ドラゴンというのはもれなく人を超えた存在であり、成熟したドラゴンなど人の手に負えるものではない。  調査をするだけでも生命の危険が伴う、依頼としては最悪の部類だった。  「待て、何かおかしい」  「おかしいっても、あんたにしか分かんねえよ……」  「分かるはずだ。先程から、“私たちの魔力が増えている”」  「「……」」  それは異常な現象だった。  本来魔力というものは、生物が活動している間に回復する量よりも消費する量の方が多い。特にこの三人組は隠密や探知の魔法を使っていたので、魔力が減りこそすれ、増えることはありえないのだ。  「異常現象だ、即座に帰還し……」  『我の眠りを妨げる者は誰だ?』  悪寒。世界そのものが牙を剥いたような、そんな恐怖だった。  翠玉の如き瞳は瞳孔が縦に開いており、捕食者の眼差しを思わせた。鮮やかな黄の鱗は艶やかで埃ひとつもついていない。  雄大な翼が緩やかに拡がっていく。  なぜこのような存在を見逃したのか──冒険者たちはその疑問に対する答えを、朧気ながらに理解した。  このドラゴンは自然そのものなのだ。力がひとところに集まって見えているが、本質的には木や大地、空や海と同じモノ。  エレメンタルドラゴン──伝説の存在。  『汝ら、何者だ?』  「あ……」  これには一流の冒険者たちも開いた口が塞がらなかった。何も返答が無いと、ドラゴンも困ったような雰囲気を出し始める。  『……あのな、ドラゴンが気持ちよく眠ってるところに急に来て、何も言わずに……』  『……こ……ぉ…ら……………ぁぁぁあっ!チーズ、何をしているんですかあああ!』  地を砕く轟音とともに、コーラルピンクの鮮烈な色彩が飛び込んできた。  ドラゴンだった。冒険者たちはエレメンタルドラゴンの迫力を前にして恐れおののいていたが、その圧すら上回るものを感じた。  紅玉の如き瞳は先の黄竜よりも柔らかい雰囲気を持ち、体の一部を覆う毛皮は宝石サンゴを溶かして染めたかのような美しさ。  何より彼らを恐れさせたのは、その魔力だった。  『いだあっ?!オイ、おいらは何もしてねえよ!こいつらが勝手に来ただけだ!』  『あら?珍しいこともあるんですね』  黄竜を自然とするならば、紅竜は限り無い天だった。推し量ることすらできない。  『初めまして、わたしはルビィといいます。あなたたちは、冒険者ですか?』  「あ、ああ……そうです、冒険者です……この山でドラゴンを見たと聞いて調査に……」  ルビィと名乗ったドラゴンは、少し考えるようにして目を瞑った。  『チーズが見つかるというのは考えにくいですね。わたしはここには一度しか来ていませんし……』  『見間違えかもしんないぞ?』  『ドラゴンと見間違えるような大きな魔物がいるのなら、大問題です。しかし、ここの魔物についてはわたしたちよりも冒険者の方が詳しいでしょう』  そう言ってルビィは紅玉の双眸を見開く。  『ここで会ったのも何かの縁です。わたしたちのお力をお貸ししましょう』  冒険者たちはたっぷり十秒は沈黙し、段々とルビィの言葉を理解し始めた。  「……ええと、それはつまり私たちの探している魔物か……ドラゴンを探すのを手伝ってくださるということで?」  魔力が増える異常に気がついた冒険者が、ルビィにそう尋ねた。  『その通りです。今代の竜王陛下の方針は和平。ドラゴンと他種族との争いを避けて、共栄を目指しています。ですからもしも野良のドラゴンが暴れようとしているならば、わたしはそれを止めなければならないのです』  冒険者たちは揃って顔を見合わせた。  『なあルビィ、こいつらこんな話持って帰っても信じて貰えないだろうな〜みたいな顔してるぜ?』  チーズがそう言うと、三人の肩が跳ね上がる。  『ふふん、そういうと思って!じゃーん、こんなものを用意してあります!』  ルビィが取り出したのは、宝石サンゴを加工して作られた笛だった。  『これを偉い方々に見せれば、全てが解決します!わたしたちの助けが必要になったら、その笛をピュピューっと吹いてくださいね。では!』  そう言うとルビィは飛び去ってしまった。  残された冒険者たちとチーズは、急なルビィの退散に唖然とした。  『オイ、おいらを置いてくなよ〜!』  チーズは翼をはためかせると、疾風の如く飛び出していった。  「なんだったんだ……」  ──  「──以上が報告になります。こちらがドラゴンに渡された笛です」  「……ご苦労。君たちが嘘をつくはずもないが、中々に信じ難いことだな」  艶のある木材張りの床と壁が落ち着いた雰囲気を漂わせる、ギルドマスターの部屋。  その主たるギルドマスター、ヴィリンは白髪の上に手を置き、唸りながら考え込んでいた。  「ううむ、この笛……どこかで見た覚えがあるな。なんだったか」  ヴィリンは笛を持ち上げて、覗き込むようにしている。  そう、あれは確かギルドマスター就任の時。極秘文書に記された、最重要伝達事項の一つ……  「……確か、この魔道具で調べるのだったか」  小さな箱型の魔道具の中に、笛をそっと入れた。もしこの笛が極秘に足る品物であれば、魔道具が反応するようになっている。  心の準備をする暇も無く、変化はすぐに訪れた。  同時に、ヴィリンの記憶が帰ってきた。  ──もしもこの魔道具が反応する笛を発見したならば、即座に王宮まで伝達すること。さもなければ貴方の命はありません。  「はうあっ!きゅ、急用を思い出した!君たち、報酬は後で倍額を支払おう!私は成さなければならんことがあるので、お先に失礼する!」  ヴィリンは外套を引っ掴んで笛と魔道具を抱え、部屋から出ていってしまった。  残された冒険者たちは何が何だか分からないまま、帰路に着くのだった。  ──  昼下がりの王宮は騒然としていた。ここにいる者はその存在を知る者ばかりなのだ。  「ドラゴンの使者からの友好の証……古くから伝わっていた伝承の品が、今まさに我らの目の前にある」  ヴィリンは謁見の間にて、最敬礼の姿勢を取り続けていた。  玉座に座すのはこの王国の王だった。力強さを感じさせる瞳は、常に笛を見据えている。  「ドラゴンの統治者が現竜王に代替わりしてから、密かに人と竜の間で交友が結ばれていた。その証こそ、この笛だ……ついに、我が国にも……」  ヴィリンはそろそろ最敬礼の姿勢がつらくなっていた。昔は冒険者だったとはいえ、老いには勝てない。  軋む体に鞭を打ちながら、王の話を聞き続ける。  「ただし、この笛で竜族に助力を頼むのは限られた状況のみだ。その状況とは……」  「で、伝令!パンキータ山にて、地竜が現れました!近隣の村を襲いながら、都市に向かっているとのことです!」  玉座の間の大扉が跳ねるように開き、急使が叫びながら入室する。  「パンキータ山……?!」  ヴィリンはその地名に聞き覚えがあった。まさしく冒険者たちが調査していた山の名前であった。  「地竜だと?!」  「どうする、今この国には竜を倒せるような戦力は……」  「竜殺し殿に依頼を……」  静謐だった玉座の間が、あっという間に騒がしくなった。この国は小国であり、地竜を倒せる戦力など到底存在しようはずがない。  「静まれい!!」  王が一喝する。その場をすぐさま沈黙が支配した。  「普段ならば損害を覚悟しなければならない大事だ。しかし、何たる僥倖か。この笛で竜族に頼むことが許される助力とは、他種族に害をなす竜族への制裁なのだ」  王はそう言って、笛を吹く。木管楽器とも金管楽器とも違った甲高い音色が響き渡る。ヴィリンは笛から魔力の波が放たれるのを感じ取った。  『はーい、どうしましたか?』  天が覆いかぶさってきたように感じた。魔力の圧に、体が押さえつけられるような感覚だ。  窓から覗く紅玉に射竦められて、誰も声を発することができない。  「ち、地竜が我々の村を襲い、都市にまで攻め入ろうとしているのです。どうかお力を貸していただけないでしょうか?我々にできることであれば、お望みにお応え致します」  『そういうことなら、わたしがぱぱっと綺麗に解決しましょう!沢山の甘味を用意して待っていて下さい!』  紅き竜は飛び立ち、人々は魔力の圧から解放された。深く息を吸い込み、落ち着きが戻ると口々に安堵の声を漏らす。  「ああ!死んだものかと思った……」  「あれはただのドラゴンなどではないだろう、一体どのような地位にある方なのか……?」  ──  『ルビィ、また甘いものを頼んだのか?これ以上太ったら……』  『こんなに飛び回ってるんですから、食べた分は痩せるに決まってます!』  『……これ以上は言わないでおくぜ……』  二柱のドラゴンが空を裂いて飛ぶ。方や黄色の艶やかな鱗と翠玉の瞳、方やコーラルピンクの毛皮と紅玉の瞳。  『あ、あれですね!全く、暴れん坊さんには困ったものです!』  地上で暴れている地竜を発見する二柱。  ぷんぷん怒っているルビィに対して、チーズは不安げな視線を向けた。  『ルビィがやるとやりすぎそうだから、おいらが止めてくるぜ……』  急降下するチーズ。地面との激突寸前で翼を広げ、急制動。  『おーい、止まらないと凍らせるぞー?』  「ガアアアアッ!」  『んん?念話もできないっていうか、意思が無い……?まあいいや、【グレイシャルブレス】!』  チーズの口の辺りに魔力が集まり、地竜に凍てつく氷の元素の息吹が吹きつけられる。  しかし、凍ったのは地竜の体表のみでその歩みを止めることができなかったようだ。  『おっかしいな、レジストできないくらいには魔力込めたんだけど……げっ、都市が近いじゃん!』  ドラゴンの技や魔法は大規模なものが多く、周囲に気を配ると戦闘で取れる手段が大幅に減ってしまうのだった。  チーズはどうしたものかと考えながら地竜に蹴りを入れる。  『おおい!これ以上やるなら手加減できないぞ?!ッ、危ねー!』  地竜はチーズの脚を噛み砕こうとしたが、その試みは空振りに終わった。  どうやら地竜は完全に理性を失っているらしい。  『チーズ、離れてくださーい!【サンクチュアリ】、【ルベライト・ブレス】!』  都市に輝く光の障壁が貼られ、地竜に紅く光る炎の元素の息吹が吹きつけられた。  体表はいくらか焦げて動きもぎこちないが、地竜は未だに健在だった。  『わあ、かちかちですね!』  『おい、巻き込まれるところだったぞ!?』  『ブレスを放てる最後のタイミングだったので、焦っちゃいました!』  人々の不安げな表情も読み取れるほどに都市が近い。ブレスはもう放つことができないだろう。  「グゥオオオオオオッ!!」  地竜が体を持ち上げ、都市の城壁に脚を叩きつけんとする。  『やべえっ!』  『【ウルティマホーリー】』  地竜に光が降り注ぐ。光圧によって地竜は地に伏し、城壁が壊されることはなかった。  その魔法の絶大な威力に反して、光が圧し潰した範囲は極僅か。地竜だけを正確に制圧し、光は消え去った。  『【リジェネレイト】。これで一件落着……とは言えないかもしれませんね。どうして地竜はあんなにも暴れていたのでしょう?』  ボロボロになった地竜に癒しの魔法がかけられ、火傷も裂傷も塞がった。  「……おお……!俺たち、助かったぞ!」  「あの竜のお方が聖なる光で私たちを助けてくださったんだわ!」  「女神様だ!万歳!万歳!」  都市の人々が割れんばかりの声でルビィを褒め称える。  『えへへっ!わたし、褒められてます!』  『おいらも頑張ったんだけどな……』  『ケーキ以外の食べ物なら好きなだけ分けてあげますね!』  『いや、そういうのじゃなくてさ……』  ──  人々は目を丸くしてその異様な光景を見守っていた。  紅竜が口を一切汚さず、食べ物を少しも零さずに用意した甘味を食していく様子は、数時間は続いている。  『このスポンジケーキ、ふんわり感が尋常じゃないですね!こっちはクリームの濃厚さが最高です!』  「……あの、竜のお方……」  『ルビィでいいですよ?』  「ええと、ルビィ様、今回の件で正式な交友関係を発表するという話が上がっているのですが……」  ルビィはケーキを一つ飲み込むと、うんうん頷いてから話し始める。  『今回の地竜の暴走は、間違いなく悪意のある魔法によるものです。それが竜か人か、或いは別の何者の仕業なのかは分かりません』  また一つケーキを口に運んでから、しかし、と区切って続ける。  『こうした危機に立ち向かうための、竜と人との交友です。わたしたちは良き友、良き隣人です。これを広く知らしめて、共に力を合わせる意向を宣言いたします』  一瞬しんと静まり返って、集まった人々から声がワッと沸き上がった。  『このケーキおいしいですね……チーズにも分けてあげようかな』  そんな中でも、ルビィはケーキに夢中になるばかりであった。