「よし、いいぞ!残りの頭は二つ!このまま一気に畳みかける!」 幸田奏は竜の業火によって燃え盛る戦場を駆け抜ける。 時折飛んでくる火球を紙一重でかわし、次々と飛び掛かってくる「獣」を携帯式スピーカーから放つ爆音で吹き飛ばしながら彼は竜の元に走る。 このスピーカーは奏本人が開発した爆音とそれによる衝撃波を放つ小型の戦闘用スピーカーだ。ただの作曲家である奏自身がある程度の戦闘を行えるようにと開発したものであるが、至近距離で命中させれば人程度ならば大きく吹き飛ばし、しばらくの間聴覚にもダメージを与えられる優れものである。 現在竜の頭のうち一つの破壊に成功したが喜んでいる暇はない。魔女は予想外の奇襲による初撃を受けて動揺している。しかし、この機会を逃せばヤツを撃破することはできない。一刻も早く第二、第三の頭を狙う必要がある。 「だから急がないと、な!」 突っ込んでくる牛のような見た目をした「獣」の上を飛び越え、大群で襲い掛かる羽虫型の「獣」をもう一度爆音で吹き飛ばす。 「よし!このまま突っ切る!」 竜の元まであと数十メートルの距離まで迫る。 スピーカーの爆音攻撃は強力だが有効射程が短い。せめて数メートルの距離まで肉薄する必要がある。 この間も準備を進めている「彼女ら」のためにもこの一撃は必ず成功させなければならない。 その瞬間、奏の気配に気が付いたのか魔女がこちらを振り返り、奏に向けて業火を放つ。 「うおおおおお!」 咄嗟にスピーカーから放った爆音で業火を相殺すると同時に、予め所持していたもう一つの小型スピーカーのスイッチを押し、魔女に向けて勢いよく投擲する。 スピーカーは魔女の放った炎の隙間をすり抜けるように空を切って飛んでいったスピーカーは 「さあ!耳の穴かっぽじって良ーく聞いておけよ?なんてったって今回の曲は!」 「「空のお客さん」にも聞いて貰うからなぁ!」 魔女の目前で炸裂した。 _____________________________________________________________ 「また面倒なことを…ッ!」 零距離で炸裂した爆音をまともに受けて吹き飛ばされた魔女は何とか空中で体制を立て直す。 頭の中で響く耳鳴りに舌打ちをしながら思考を巡らせる。 先ほどの奇襲により竜の頭の一角を落とされ、そのおかげで今はこうして軽い脳震盪を味わう羽目になっている。 だが竜の頭はまだ二つ残っている。 三頭竜の頭が一つでも機能している邪竜の中に溢れんばかりに貯め込まれた悪性を使えばこの状況から立て直すことなど容易い。 幸いなことにこの腹立たしい耳鳴りも治りつつある。これが治り次第竜の再生を… 「…?」 刹那、彼女に無数の衝撃が降り注いだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「みんなついてきてる?」 地上から響いた「合図」を受け、上空に浮かぶ艦隊の一つから彗星の如く発艦した白狐族の亜人であるリュール・スノーホワイトは白い髪と狐の尻尾をなびかせながら共に発艦した仲間たちに問いかける。 「居るよ〜」 「大丈夫!」 「おるよ〜!」 彼女の跡に続き白猫種の亜人であるリオレ、赤褐犬種のリーヴル、そして黒狼種のミアが続く。 「そしたら、作戦の再確認!」 「まずリューにゃが【閃光のように】でまず穴を開ける」 「その後にうちが【消えるのは言葉だけ】で貫通した場所の開口部を広げる」 「その後にリーヴがそこに突撃、穴を広げて」 「僕かそこに【パボ】を突っ込んで、【青い傷】で中身をえぐって」 「最後に私の【スーパーノヴァ】で吹き飛ばす、いいね?」 「もちろん」 「うん!」 「行けるよ!」 仲間たちを横目にリュールは目の前の巨大な竜に目を向ける。本体である魔女が協力者の「奇襲攻撃の合図」によって行動不能に陥っているからか。もしくは本来三つあるはずの頭のうち一つが破壊されているからか、竜がこちらに気が付く様子はない。 「よし!あの子たちの為に突破口を開くよ!」 「了解!」 「らじゃ!」 「うい!」 「そしたら…行くよ!」 「【閃光のように】」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ようやく彼女は煌めく物の正体が分かった、それは正確に邪竜の頭を正確に打ち抜いた【光】であった。 「クッ…この光線はッ!?」 三頭竜に目をやると先の一撃によりあらゆる攻撃を跳ね返すはずの皮膚に深刻な傷が付けられていた。そして被弾前と比べ邪竜の再生が誰が見てもわかるほど鈍くなっているのを見て彼女は一つの結論を導き出した。 「【悪性】とは真逆の力か…!」 攻撃が放たれた方向を見ると一人の狐耳の付いた白髪の少女が一枚の板の様な機械に乗って高速でこちらに飛来してくる。 「よし貫通した!次ミア!!」 そう言いながらリュールはミアに向けて手を振る。 「分かった!行ってくる!」 そう言ってミアは黒髪と狼の耳をなびかせながら素早く龍の頭に接近する 「行くよ!【消えるのは言葉だけ】!」 間髪入れずに三頭竜に攻撃が放たれる。 それは例えるなら三日月のような斬撃、光波のようだった。 傷口に命中したそれは少しした地点で炸裂、開口部を広げそれは人ひとり分の大きさまで広がった。 「…あぁ、やっぱり。相性は最悪だね。」 この三日月の斬撃も先程の光線と同様に光を帯びていた。彼女らの放つ光が悪性で構成された三頭竜の皮膚を貫き、確実に深刻なダメージを与えてくる。 「おしゃー!!きたー!!!」 リーヴルは順調に龍の頭に攻撃を加えた二人を見てテンションが上がりまくってるのが分かる程にその赤褐色の犬の尻尾を振っていた。 「無理はしないでよ!リーヴル!」 「分かってる!!ミアは心配性だよねえ!」 そう言って反重力ユニットの速度を上げ、邪龍に一気に接近したリーヴルは 「うぉぉぉりゃぁ!!!」 反重力飛行ユニットから邪龍の頭に飛びかかり、先程開いた傷口に入り 「【ドーギードッグスイート】!!!」 傷口の内壁を殴り、傷口を広げる、その力強い打撃に何処か懐かしさを感じるが、違うものだと一瞬だけ獣の魔女は思うのであった、がそんなことを考える暇はなく、あっという間に傷口は大きめの着ぐるみが一つ入るぐらいまで広がった、この打撃には光を帯びているような感覚はなかったが、先程の2連続によって戻りはやはり鈍い。 「そんなもんでいいよ!リーヴ!」 殴ることに全力を注いでいたリーヴルがその声の方向を見るれば薄紫の髪と猫耳が目に入る。 「リオレ!!飛び移るからお願い!!」 「はいよ〜」 リーヴルの飛んだ方向にすぐさま反重力飛行ユニットを動かし、言葉の少ないものの完璧な連携を見せる。 「あとは…」 「僕の【パボ】と【青い傷】だね〜」 そう言うと彼女は右手を振りかざし、何処からかでた紫色の猫の着ぐるみが傷口に飛びつく、そしてその着ぐるみは治りつつあった傷口に入り込んだ 「こんなもの…!」 しかしそれには毒と、やはり光が詰まったような感覚を覚える、再生によりその着ぐるみを包んだ 「いまだね【青い傷】」 その時、突如として内部が爆発したかのように邪龍の頭が肥大化する、反対側の開口部から青い炎を噴き出しながら 「なっ…!」 「リューにゃ!いけるかい!」 「もちろん!」 「[これは紛れもなく私達の軌跡]」 はるか上空に膨大な量の光が集まるのを感じる。もしもこの光が先程の光線と同等。いや、それ以上のものだとしたら? 「クッ…再生が間に合わない…!」 刹那、「獣」の魔女は1人の少女と目が合った。 白い髪、美しくなびく狐の耳、そして 優しく、けれど彼女に対しては厳しく向けられた水色の見とれてしまうような美しい目を。 「ッ…」 息が詰まる。 思考が鈍る。 そして、一手遅れる。 それがこの結果だろう。 「[私達の物語は終わらない]」 「【スーパーノヴァ】!!!!」 数多の光の束がはるか宇宙から降り注ぐ、それは例えるならば光の柱のようであった その光はただでさえ攻撃で薄く、大きくなっていた邪龍の頭の一つをいとも簡単に、跡形もなく吹き飛ばしたのであった。 「よし、あの子たちに後は期待だね」 「他の隊の救助に向かうよ!」 「了解!」 「おっけー」 「わがった!」 《BBGCB特別選抜隊第1期【Stars The Future】》、二つ目の頭への攻撃成功! 後に夜空の星々のようなこの攻撃はとある作曲家の手によって一つの曲となり、現代だけでなく後世にも伝わっていったのはまた別のお話…