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《 名も無き旅人 》

街角の、雪の降る日の午後だった。 いくつも光る街灯が、雪にはしゃぐ子を見守りながら、その橙色を路面に照らしている。 橋の上でゆったりと川を見つめていた私は、ふと気がついた。 「...」 気づいても語る気にはなれなかった。 第一語る相手がいなかったし、ただ白い欠片が落ちていくのを、ぼんやり眺めながら思索しているだけで私は満ち足りていたからだ。 灰色の向かい橋を、厚手の服を着た人々が過ぎ去っていくのがわかる。 ただ、先程の感覚が間違いでないということを確信するだけだったが。 手探ってみると、ポケットの中に見知らぬ鍵がある。 探り当てた鍵は街灯にあたり、金色に輝いた。 「...色は....」 それが金色では無いことはすぐにわかった。 該当の橙色が鈍い銀に反射して、そう見えただけだった。 ...でも、それで良かった。 空想物語が好きだった私は、その鍵が何かしらの神秘を持っているのではないかと疑い、鍵を空中で捻ってみる。 当然だが、何も開かない。 少し肩を落としたとき、背後から女性の声が聞こえた。 「何してるんですか?こんな所で。」 「あぁ...すまない。少し、休憩したくなって。」 「仕事疲れ?もう、今日はパーティーなんですから、早く。」 私は手を引かれて、街の方へ歩いていく。 望んでいた末尾。これは私が貪欲にも求めた終わり。 でも... 「すまない...私は、そっちへ行けない。」 「どうしても、ですか?」 それが完璧な終わりでないことは、アリスが教えてくれた。 後悔は何も生まないことは、ブランシュが教えてくれた。 何も恐れない勇気は、ノワールが教えてくれた。 決して諦めないことは、エリュが教えてくれた。 もし私が自分の物語にエンディングを綴るとしたら、それは今では無い。 「私はまだ、ここにいるべきじゃない。」 「...ふふっ。」 久しぶりに見た、彼女の笑顔。 「変わったんですね。」 「あぁ。」 「これだけかかって...すまない...。」 彼女は手を握り、私の目を覗き込んだ。 あいつと同じ目...透き通った目。 「行ってらっしゃい。」 物語の終わりは、誰かが決めることのできるものではない。 だが、私たちはそれまでの道のりを選ぶことは出来る。 「...行ってきます。」 鍵を回し、門を開く。 この先に何があるかなど、私は知らない。 でももし、選べない人がいるとしたら? そのときは私の出番だ。 振り返ると、街並みは消え、静かな白銀世界に、朝日が登り始めていた。 最大限の感謝と、祈りとともに。 「また、いつか、どこかで再会しよう。」 一滴の雪解け。 蒼と翠。 彼の物語に、まだエンディングは描かれていない。 【 名も無き旅人 】 《 救世のコメットブレイカー 》 彗星か... 俺は...あの「星の降った日」に友人たちと初めて出会った。 その出会いがなければ... 「AT」にも、「軌道宇宙ステーション」にもたどり着けなかった。 だが龍が生まれた日、俺はそれを後悔していた。 ...命は、その環境が当然だと思うほど... そして「自分しかいない」と思い込むほど、 危険な末路を辿ってしまう。 結果、あいつに...それだけじゃない。 全ての生命に迷惑をかけてしまった。 俺はこの道を戻ることは出来ない。 だから、進み続けるしかない。 ...だが、たまには甘美な思い出も、いい肴になる。 Δ︙「彗星の鍵」 「THE COMET BREAKER」の世界を開く鍵。 もう二度と使うことはないだろう。