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【S級獣人冒険者】ソフラン

753年、様々な精鋭がギルド協会に召集がかけられた。 「終末獣の分身体が例の「魔境の洞窟」から漏れ出たとのことだ。これが意味する事はわかるかな?剣王。」 ギルドの偉い人は会議室の隅の壁にもたれてぼうっとしていた金髪の青年に話を振る。 「あ、はい…順当に考えれば終末獣が溢れるほどに増殖したか、獲物を求めて上まで上がってきたか…ですよね。そして…」 剣王、アイザック・フォスカリが顎に手を当てて考えるような動作をしながらそう答え、続けようとすると別の人間が遮り、続ける。 「そして魔境の洞窟には終末獣に力で打ち勝てる燃滑獣や水臨龍もいる、生態系が瓦解したとは考えられない…だよな?剣王。」 「ああ。そうだね。それに…僕が分身体を一匹討伐した時も…」 「はいはい、聞いてねえから黙ってろ。剣王の家系のお坊ちゃん。」 「……」 剣王は少し困惑した様子を見せて、また壁にもたれかかる。 「ね〜、まだイスは残ってるんだからあ…座ったら〜?」 犬の耳が生えた、華奢な体の獣人が壁にもたれている剣王に隣の椅子を差し出す。 「あ、まだ椅子が余ってたんだね…でも遠慮しておくよ、ソフランさん。」 「君は戦力として大事なんだからさ〜?ちゃんと座って温存しないとダメだよ〜」 その様子に苛立った中年男性が口を挟む。 「テメェ、その温室育ちで俺ら冒険者の苦しみなんて知らねえぬるま湯野郎なんかにいい思いさせて何になるんだよ!?」 「席が空いてるのに座らせないのはさ〜?意味が無いと思うんだよね〜。」 「ッ!意味がなくても俺たちの騎士道の誇りを無下にしやがる野郎なんだぞ!?座らせる価値なんて…… 凄まじく険悪な雰囲気だった会議室の雰囲気が、獣人の女性が激昂している中年男性に向けて腕を振り上げた衝撃波で無に帰した。 中年男性はあまりの衝撃で壁に打ち付けられ、座っていた椅子や机が粉々になる。 そのまま何も無かったかのように獣人の女性はギルド協会の偉い人に顔を向け、真面目な声色で話を振る。 「…それで?その終末獣の話に呼ばれてるのが、探索より戦闘が得意な冒険者に剣王…そしてクエストの掲示板も見たけど、ボクたちに出されたこの意味不明の緊急クエストと位置が同じ。 向こうのクエスト依頼文には「戦闘が得意な人が優先的に受注して欲しい」とまで書いてたよね。」 「これってさ。要するに「終末獣を討伐しよう」って事なんじゃないの?」 その言葉を聞き、周囲の人間は戸惑いの声を上げる。偉い人は少し下を向いて黙り、しばらくすると口を開いた。 「ああ、その通りだ…今討伐しなければ、遥か昔の伝承にある「終末の日」が訪れる。今討伐しなければ駄目なんだ。今まで先送りにしてきた我々の判断が奴らを肥大化させてしまっていた……!」 周囲は困惑し、周りを見回す。ほぼ全ての人間が不安そうな顔をしているが、ただ数人だけは平然としていた。 「あれを複数体となると…まあ、時間次第かな…?」 「ボクは精霊さんの数次第かな〜」 「ふふ…腕が鳴りますわね…」 「ンまぁ、ヨユ〜だわな。」 _________ そして終末獣との戦闘が始まり、召集をかけられていた人間のうち半分ほどが終末獣に食い荒らされており、戦力は瓦解していた。 クエストを受注していた人間は終末獣を見た瞬間に逃げ果せてしまったから、本来協会の人間が想定した数より遥かに少ない人数での討伐となってしまった。 「う〜わ〜……数が多すぎるよお〜……終末獣のマナが多くて、野良精霊たちが惹かれて多くやって来てくれてるのが救いかな〜…」 ソフランはそうブツブツと喋りながら一振りで何百と終末獣の分身体を弾け飛ばすが、残った終末獣が分身し、せっかく開けた隙間を全て一瞬で埋められてしまった。 「ッ!ソフランさん!!」 後ろに迫っていた数千匹の終末獣に気づいていなかったソフランを剣王が庇うように後ろへ飛び出し、何度も斬撃を発動させて終末獣を何百と打ち倒す。 「君はもうボロボロなんだから、ボクに任せて後ろに退いてくれても良かったんだよ〜?」 「ソフランさんも後ろに気が付かなくなってるぐらい疲弊してるじゃないですか…」 「だとしても…こんな所に大勢をすぐ処理できる人が2人集まっちゃってるのは良くないよ〜?だから……」 そう言うとソフランは剣王の首根っこを掴み、ほぼ壊滅状態にあるという場所へ投げ飛ばす。 「人名優先だよ〜!無理だと思ったらすぐ退いてね〜!」 「わかりました、ソフランさん!」 お互いが大声を掛け合い、互いの戦闘に戻る。 「これでこっちはボク1人…安心して好き勝手できるかな…」 そう言い放つと剣を振りかぶり、一撃を放つ。大地が割れ、列を成していた終末獣の群れが衝撃波で大量に死滅する。 「この隙に後退するかな〜…」 そう言って後ろを向くと、先程まで気づかなかった爆発音が鳴っていることに気づく。 「まだこっち側でも誰か戦ってるの…?」 音の鳴るほうへ向かうソフラン。そこには剣王に似た女性がいた。 「ッ!?」 その女性は反射的に真後ろから現れたソフランに杖を向け、そのまま火炎魔法を放った。 ソフランはそれを完璧に防ぎ、言葉を発する。 「わ、待って待って〜。ボクも終末獣と戦ってるんだから〜。」 「え゛っ……ごめんねいきなり魔法ぶっぱなして……」 少女は謝りながら近づく終末獣すべてに火球を放ち、1人で終末獣相手と均衡を保っていた。 「おお〜、綺麗な花火みたいだね〜」 「んなこと言ってないで手伝ってよ!?」 かなり焦った様子でソフランに少女は目を向けるが、ソフランは少女の後ろに座って休憩し始めた。 「君一人でも突破はされてないみたいだし〜…汗もかいてないから、余裕なんじゃない?」 「ん〜…まあそうですけど!」 「君がいれば突破されることはない訳だし、どうする?ボクと一緒に数を減らしちゃおっか〜。」 「名案!早速やりましょ!」 そう言うとソフランは少女を担ぎ、少女は全方位無差別に炎魔法を放つ固定砲台と化した。 そしてソフランも剣を振り回して数を着々と減らしていく。均衡を1人で保てる少女と、数千匹を同時に撃破できるソフランが合わされば、確実に数は減る。 「獣人さん!あと多分150匹ぐらいだよ!」 「残念なことに走ってるときに足にぶつかられて…足が折れちゃったから走れないんだ〜……剣をここから振っても10匹倒すのが限界…」 「あたしも無理して連射するから!2人でこの化け物を終わらせよう!」 少女は必死に魔法を放つが、ソフランは走っている途中も「時間」を気にしていた。 「いや、その必要はないと思うな〜」 「え、なんで 少女が口を開こうとすると、残って集まっていた終末獣が爆音と共に青白い光に飲み込まれて消えていく。その光の向こうを見ると、血だらけな剣王がそこに立っていた。 「おお〜、流石に剣王は派手だね〜。傲慢の剣の一振りはやっぱりスゴいな〜」 「げ、アイザック……」 背負っている少女は嫌そうな顔を見せ、ソフランの髪で目が合う前に顔を隠す。 「ん〜?どうしたの?疲れちゃった?」 「どうしたんですか?ソフランさん」 ソフランは剣王に見つからないよう隠れている少女の頬をぷにぷにと突いていると、剣王も回り込んで顔を見てしまう。 「ね、姉さん!?」 「〜〜ッ!!!!」 少し顔を赤らめ、剣王をビンタしてから走り去ろうとする少女をソフランが引き留めた。 「どしたの〜?なんか急ぎの用でもあった〜?」 「あたしは弟が苦手なんだよお〜!!!離しておくれ〜!!!」 「クエストは報告するまでが帰り道だからまだ離さないし、帰れないよ〜?」 ソフランはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら少女をハグして協会まで猛ダッシュする。 __________ 「…終末獣を討伐しに行った数と比べ……相当減ってしまったな。」 協会の偉い人は頭を抱えながらそう言う。そして立ち上がり、生き残ったソフラン達に報酬を渡した。 「君達の名前を遺してやりたいのでな…ソフランとフォスカリはわかっているんだが…A級の君の名前も教えてくれないか?」 「私はシーナ。家名とかはないの。ただのシーナ。」 シーナはスラッと答える。家名がないという嘘すらも誤魔化せるほど自然と話した。 「そうか、シーナか。ありがとう、シーナさん。ソフランさんの言う話だと君がいなければ全滅も有り得た…と。君のような勇敢な者に、私は敬意を表するよ。」 「い、いえいえ…私は報酬と「高難易度クエスト成功率100%」〜みたいは名誉が欲しかっただけですし……」 「これ以上に難しいクエストなんて今後あんまり来ないだろうから、最大の壁は超えてるじゃん、良かったね〜」 ソフランがそう茶化し、死者への墓参りなども済ませてそれぞれが別れ、別の道へ歩み出す。 _________ 「で、なんで私の方に来てるの?」 シーナは不思議そうに聞く。 「だって、暇なんだからさ〜?仕方ないじゃ〜ん……あ、そうだ!」 いきなりソフランは耳をピンっと立たせ、尻尾を振りながらシーナに近づく。 「君の冒険する理由とかも含めて、君といればあんまり退屈しなさそうだしさあ?ボクも君の旅に着いていっていーい?」 「まあ、いいけど……?」 「やった〜、これでボクもフリーのS級じゃなくなる〜」 ソフランは軽く伸びをし、シーナに寄りかかる。シーナはそのソフランに構わず今日泊まる宿へと歩いていく。ソフランはそのままシーナに抱きつき、おんぶされる形で宿へと向かった。 「なんか、あたしたちあんな凄惨な場所を見たのに…凄く冷静だよね。夜ご飯も食べれたし。」 「ん〜……ボクは敵側がこうなってるのをよく見てたから別にって感じかな〜……」 「顔と喋り方と性格似見合わない体験し過ぎじゃない?大丈夫なの?それ……」 「大丈夫大丈夫、シーナちゃんもそのうち慣れるよ〜」 「慣れたくないなぁ……それ………」 ______________ ソフラン 27歳 191cm 72kg 好きな食べ物:草食竜の生肉 嫌いな食べ物:昆虫食 好きな人:シーナちゃん 嫌いな人:変な所で威張る人 尊敬する人:いない