この世に生を受けたときから、私の裡には呪いが渦巻いていた。本来、本家の当主が授かる天与呪縛。分家の私にとってはあまりにも重い荷物だ。 立ち上がるのが辛い。一歩進むだけで骨は軋み、内臓は悲鳴をあげる。眠るのが辛い。心臓が勝手に止まり、私の身体が私を殺そうとする。呼吸が痛い、あれも痛い、これも痛い。生きるのは───あまりにも苦痛が過ぎる。死んでしまおうかと思ったこともあった。けれど私の呪縛は逃げを許してくれない。私を殺すこと無く、痛みを与え続けるのだ。 当主修行が始まってからはさらに大変になった。人の目が、悪意が突き刺さる。多分この家の人はみんな私のことが嫌いなのだ。母も、父も、私を蠅か蚤かのように見る。たまに話す言葉は聞くに耐えない粗悪な呪い。早く死んでくれないか、だって。プライドだけは高いけれど、それで本当に呪術師の名家なの?って笑ってしまう。本家の人はもっと怖い。鋭利な刃のように、素早く、丁寧に、私の身体を壊していく。 猫だけが私の友人だった。不細工な、名前もない野良猫。世界に居場所の無いこの子の傍でなら、私も癒される気がした。 ───そう言えば、一人だけ私に悪意を向けない人がいた。いつも私が一番辛いときに限って現れて、しょうもない話をしに来る人。星の名前や、車の名前、最近あった不幸なこと。全部つまらなくて、馬鹿らしくて、暖かい話だった。私の話を聞いてるときは、ずっと泣き出しそうな顔をしていて。私よりも辛そうだから、恨み言も吐けなかった。当主の息子、天から与えられなかった少年、私を呪ってしまった人。名前は御堂一という。 ある日、私が偶然留守にしていたときに、家が襲撃された。犯人は不明──十中八九本家の人間だろう。私を煩わしく思っていただろうから。踏み入れた屋敷の中は真っ赤っ赤だった。母も、父も、姉妹も弟も侍女も、猫も。全員等しく赤に染まっていて、その血の酸味だけで私は壊れてしまいそうだ。意識を取り戻したのは少し経ってから。とは言え、あそこで死んでおいたら良かったかもと思い、少し残念がる。建前上の家族は死に、私の居場所は無くなってしまった。多分もう少し経ったら今度こそ私は殺されるだろう。もう私に未来は無い。いや、産まれたときから既に未来なんてものは無かったのだ。もう諦めよう、生きるのはただ辛いだけだ。瞼を閉じて、暗闇に心を浸せば─── ───戸が開いた。月明かりが入ってきて、少年の横顔を照らす。眩い、美しい瞳と目が合った。 現れた御堂一は私に彼の全てを打ち明けた。既に知ってる情報ばかりだったし、もうリアクションを起こす気力もない。だから、私は微笑んで告げた。 「もう、いいの。私は疲れちゃった。私には未来はない、力も、助けてくれる味方もいない。そして、これ以上生きている理由も無いんだ」 諦めると思った。もう彼にできることはない、助けてもらう気もない。理解できるように言ったつもりだった。しかし、御堂一は私が計算できるような人ではなかった。 「じゃあ俺がお前の兄貴になる。お前の家族に、生きる理由になってやる!だから、俺の手を取ってくれ!」 何を言っているのだこの男は。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが筋金入りか。あり得ない、合理的ではない、この手を掴む理由にはなりはしない。───だけど。私は彼の瞳から目が離せなくなってしまった。付いていきたい、信じてみたい、彼と生きてみたい。この世でただ一人、私を呪わず、この世でただ一人、私を呪ってみせた人。永遠にも感じられる迷いの末、私は彼の手を掴んだ。───産まれて初めて人と手を繋いだ。 私は一葉の後に咲く二葉になった。私の兄、たった一人の家族。御堂一と生きることを決めた。彼が望むならば人を守ろう。彼が歩むのならば修羅の道だろうと喜んで付いていこう。だから、どうかお願いだから、私を置いて逝かないで欲しい こういう娘が明るい性格演じてるのすき 結局家族ができて情緒を得たからめちゃくちゃ弱くなってるの凄い良い。本人なりに全力で人を助けてそう 兄に対する感情が家族愛なのか恋愛感情なのかすら分からなさそう。人間初心者 幸せになって欲しいですね