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まさお/Lv.11.5 ファントム・シャドー改

少年は10歳にも満たない頃から、祖父と危険な忍び修行に明け暮れてきた。最初は川、山。その次は谷、洞窟。 やがて街に降りてくる頃には、少年は狼のような鋭い目つきに変わっており、夜な夜な狼藉者を罠に嵌めては仕留める日々を送っていた。 ある日少年は考えた。 「もはやこの街に、俺が斬るべき者はおらん。では… 何者を斬るべきか?」 少年には心当たりがあった。 梟も鳴かぬ夜のことだった。少年の祖父が床について丑三つ時になった頃。 「……」 祖父は狸寝入りしながらも警戒していた。 どうもおかしい。外が静かすぎる。それに、何か音がする。動物でもない、人でもない。なんの気配だ? 「…… …… …!!!!」 咄嗟に転がる祖父。今まで背中をつけていた敷布団には3本のクナイが突き刺さっていた。それも、先端に毒が塗ってある代物だ。 「ククッ… クハハハハハハ!!」 祖父は笑い声をあげる。 「子どもの狼が、血迷ったか?」祖父は布団を払い除け、立ち上がる。 天井から蜘蛛のように軽やかに降りてきたのは、今まで修行を共にした孫であった。 孫は無言で忍刀をゆっくりと引き抜く。祖父も腰から忍刀を取り出す。孫と祖父の、命をかけた忍者としての斬り合いが始まった。 刃と刃が命を取ろうと弾き合い、間隙を縫おうと闇の中で月光を反射して閃く。 (遅い… そして脆い…!) 孫は確信した。この勝負、勝てる。斬り合いの中で相手の力量を測っていた。もはや少年は、親を殺せるレベルの技量に達していた。街で覚えた掴みどころのない感覚が埋まるのを体で感じている。 孫が斬り合いのスピードを上げる。 「ヌっ…!くぅぅ…!!!」祖父は粘る。 「終いだ!!」孫はさらに速い手つきで刃を振るう。斬撃の合間にも、手刀や拳が祖父の体に食い込む。 「ぐぉぉぉ…おお…!!」祖父が血反吐を吐きながらも斬撃は防ぐ! 「南無三!!!」 孫の手刀と拳の疾さたるや、一秒の間に三撃は叩き込むほどだった。体をくの字に曲げる祖父の背中に素早く回り込み、容赦なく忍者刀の尖先を叩き込み、引き抜いてはさらに、二連の斬撃を見舞う。 「…か…ハァッ……見事……な…り………」 倒れ伏し、血まみれの祖父を尻目に、小さな狼は確かな手応えを感じていた。 この夜、後にファントム・シャドーを名乗る忍者が誕生したのである。 すべては祖父、ミスティック・シャドーの計らいであった。子に喰われるほどの修行を経てこそ、忍の業は初めて受け継がれるのだ。 翌日、発見された老爺の遺体は、惨たらしい状態とは正反対に安らかで、満足げな表情のまま荼毘に付されたという。