魔王城にて__ 「「雷光の勇者」と呼ばれたアリスも…俺には敵わぬということだな。どうした?雷光の勇者の腰巾着ども。先程までの希望に満ちた瞳は?俺に対する憎悪は?……はははは、貴様ら腰巾着には俺に対抗する手段すら無いのだろう?無様だな。流石は金魚の糞、どれだけ集まろうが俺の足元にすら及ばぬ烏合どもめ。」 魔王が両手を広げ、拳で突き飛ばされて壁に打ち付けられ、ピクリとも動かなくなったアリスを見つめながら笑う。 「…黙れ……!」 仲間の1人が杖を向ける。しかし魔王は無防備な姿、もはや「撃って来い」とでも言っているようにも思えるほどの隙を晒し続けている。 「ダメだ、感情に任せて撃つな。アレはきっと罠だ。」 怒りに打ち震えている仲間をなだめ、剣を構える他の仲間。 「やるなら…『同時に』だ。奴も僕たち3人の攻撃に同時対応はできないはず。あんな化け物でも生き物には違いなくて、腕は二つだから。」 怒りに震えている仲間、それをなだめる仲間の間に割って入り、そう伝える。 「そして、僕たち2人で奴の腕を無力化する。腕を抑えても魔法があるから、攻撃を通すなら…魔法に1番理解があって、耐性のある君だ。」 「私……うん。わかった……」 「じゃあ、行くよ。3……2……1……………」 先程まで怒りに打ち震えていた少女に大役を任せ、3人は横一列に整列し、合図と同時に全てを賭けて駆けていく。 __________ 「…………ここ、どこ?」 金髪の少女は周囲を見渡す。辺り一帯光。眩しくて、何も見えない。 「……声かな。なんか聞こえるんだけど………」 光の反響が声のように響いている。「願え」と。光はそう告げている。 「願え……?よくわかんないけど……そうだね。」 アリスは目を瞑り、自慢げな表情で目を見開き、光の向こうを見つめる。 「来世でも、この力を使えるようにして!」 光の中で響いたその声は、戸惑いの音となって帰ってくる。それにアリスは「変な勘違いをされたのでは」と思って必死に弁明を始める。 「来世もこの力があったら面倒事があっても簡単に解決できるし、人助けにも使えるかな……って!」 光はその音を反響させ、「本当にそれでいいのか、生き返るべきでは」と呼びかける。しかし、アリスは自慢げな表情を続ける。 「何か勘違いしてるね。まだ終わっちゃいない。」 そう告げたアリスは光の中を歩き始める。まるで道が見えているかのように。振り返りもせず、脇目も振らず、歩き出す。 ____________ 「う゛ゥ゛ッ!!」 少女は魔王の打撃を受け、なんとか致命傷は避けたものの壁に打ち付けられて体の骨が複数折れる。 「……両手を封じても…追加で生えてくる………クソじゃないか………。」 壁に打ち付けられた少女を少年が見つめ、右肩を抑えながら愚痴を漏らす。その肩から下は何も無かった。腕が拳で殴られた時にぶっ飛んだのだ。 先程少女をなだめていた男は少年をかばい胴を拳で貫かれて殺されてしまった。蔓延る絶望。無駄に繋がれた命。誰も、勝ち目など無いと思っていた。 突如、魔王の背後で一筋の光がアリスの死体に直撃するまでは。 「…………まさか。」 死んだはずの勇者の死体がむくりと起き上がり、少し儚げな表情を見せたと思いきや、その顔は一瞬で不敵な笑みに変わる。 「そのまさか、だよ。雷光の勇者アリス…時間差で炸裂する雷を心臓に仕掛けておいたお陰でセルフ心肺蘇生のち、ここに再臨…ってね。」 陰鬱、絶望、恐怖……蔓延っていた全てが覆っていく。希望が彼女を軸として広がっていく。 「……遅いよ、ばか。」 少女が壁にもたれながら少し微笑み、涙を流してそう言う。 「……ごめんね。自分がいつ死ぬかなんてわかんなかった…もっと粘れると思ってたんだけど……」 そしてアリスは魔王の方へ向き直り、折れた剣を突きつける。 「さて。あんたを困らせる方法で頭がいっぱいなんだけど……解消させて、くれるよね?」 「……俺に接戦とも言えぬ一方的な蹂躙を受けた勇者に、今更何ができると?」 「復活前提の戦闘だったって、気づいてる?」 「ならば見せてみろ。貴様の実力を。」 その言葉にアリスが応えるように身体を電気で覆い始め、折れた剣の刀身が雷光で作られる。 「さ、ラウンドツーだよ。」 「簡単に終わらせてくれるなよ……雷光、いや…救世の勇者、アリスよ。」