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倉敷 冥夜/明るくもキテレツな骨董品店主

とある商店街の裏通りに、変わった骨董品屋があると言う 何でも、店という体のくせに非売品しか置いてないうえ、客が店主にお金を払って品を渡すというらしい 店主はうら若き乙女で、扱う品はいわゆる曰く付きのものだとか ある日、その店に一人の男が訪れる 今回はその男の視点のお話 スーツケースを押しメモを片手に向かった先は、裏通りとはいえ昼間にしては暗すぎる印象を与える店だ 何となく気圧され一瞬帰ろうかと考えた 「あーやっと来た!いや、概ね予測通り?」 背後から声がかかり振り向く。振り向きざまに何かをぶつけられた 「うわっ。何なんだアンタ」 「えへっ!驚いた?だいじょーぶ、ここはそんなに怖くないよ、たぶん」 度を越えたフランクさに少しびっくりしつつも、ぶつけられた何かに文句を言ってやろうと自分の体をみる 特に何もなかった 「ささ。入って入ってー。至って普通の高級なお茶出したげるから!」 背中を押され店に案内される アポイントもとってないのやたら準備がいいな、と思いつつ、気づけば先程感じていた不気味なプレッシャーが感じられなくなっていた 「さて、お茶を用意してくるから座って待っててねー」 店の中はよく見るアンティークショップのように見えた 瀟洒な内装に統一性のない品揃え。なんの変哲もないはずなのだが、本能がなぜか警鐘を鳴らす 店主は男をテーブルに案内させ、奥へと引っ込む 先程まで感じていた恐怖は、店主と話すうちにどこかへ行ってしまったようだ 手持ち無沙汰になった男は店の中を見て回ることにした 謎の仮面に古びた木箱。商品名に値札すらない品々はそのどれもが本能的恐怖を感じるが、なぜか心は軽かった 男はひとつの品の前で足を止める ソフトボール大の正20面体の置物のようだ 何となく興味を惹かれ、手を伸ばす。あれはRIN……? 「ダメだよー触っちゃ」 いつの間にか背後に立ってた店主にびっくりし、手を引っ込める 「えへへー驚いた?今お湯沸かしてるとこー」 いたずらっ子の笑みを浮かべた彼女に男は呆れた 「はぁ、初対面ですし俺の方が年上なんですが……」 「かたーい!敬語よりも崩した方が楽なんでしょ?」 「……ま、じゃあ遠慮なくそうさせてもらうわ」 店主に手を引かれ椅子に座らされる ここに座ってろと言わんばかりに男の両肩をバンバンと叩き、再び店の奥に引っ込んだ 程なくしてお茶を持って戻ってくる 男の前に1つ、2つ、3つ 向かい側に店主の分が1つ 「俺は一人だし、連れもいないんだが」 「いーのいーの気にしないで。それよりも本題に入る前にお喋りしよーよ」 「はあ、お喋りと言ってもな……。そうだな、あれらは何なんだ?」 男は店内の品々を指さす。店主は妖しげな笑みを浮かべ答えた 「ふふっ分かってるくせに」 何故だか背中がぞくりと感じた。恐怖を誤魔化すかのようにお茶を一気に煽る 味は分からなかったが、丁度よいぬるさだったので一気飲みした。氷でも入れたのだろうか ぬるい、と文句を言おうと湯呑みを置く。すると男の隣にあった湯呑みが割れた 「は?」と驚き店主をみる 店主は驚きもせず、割れた湯呑みを目を細めて見る 「……ふーん、124秒か……」 何やら意味深な言葉を吐く 「まあいいや、じゃ本題にいこー」 「いや、これは……?」 「ほっとけーい!」 何度目かになるため息をつき、男はスーツケースを開ける 取り出したのは西洋人形だ 「これは先日……」 「あ、背景説明はいいよ。N県の■■だよね」 「あ、あぁそうだ……」 店主は目を細め楽しそうに人形をいじる 「引き取って貰える……よな?」 「んーもちろん」 「よかった。じゃあ俺はこれで……」 お茶ご馳走様でした、と席を立とうとする 「まだ終わってないよね」 店主の一言に男は止まる。料金か?確か法外な額を吹っ掛けられるという噂が…… 店主はこちらに目を向けず心底愉快そうに人形をいじる。何故だか怪しい雰囲気が店を支配する そして男の腰あたりを指さす 「この子は引っ張られただけ。本命はそっち」 「は……?何を……」 「そのベルト。この子と同じ場所で買ったんでしょ?」 「あ、あぁ。壊れたからちょうどその場にあったベルトを買ったんだ」 店主は男の目を見る。何もかもを見透かすような、先の見えない穴を思わせるような、得体のしれない瞳に男は吸い寄せられる 「買ってからずーっとそのベルトをしている。着替える時、寝る時だって掴んで離さない。そんなに大事?そのベルト」 囁くように語る店主 いや、ベルトは俺が買ったものだし。買ったものを大事にするのは当然だし失くしちゃいけないから肌身離さず持つのは当然だしベルトはひとつだけでいいから他を捨てるのも当然だしベルトは輪になるのは当然だし俺の体くらいなら耐えるのは当然だし木の幹に バチン、と店主が手を叩く 先程まで醸し出していた不気味さはどこへやら、いたずらっ子のような笑みを浮かべる 「はーい、考え事しない!で、質問の答えは?」 「あ、あぁ。まあ普通に。大事って程でもないけど」 「あっそ。じゃあそのベルトちょうだいよ」 「は?なんで」 「いやー欲しくなっちゃった。ベルト譲ってくれたら今回はただでいいよ」 マジ!?、と心の中で喜ぶが、かっこつけたい男は渋々といった体で「やれやれ」とベルトを脱いだ 「わはーやったー」 「じゃ、もう本題は終わり!おかえりはあちら!」 あれよあれよと席を立たされ背中を押される 「ベルトないと不便?」 「そりゃあな。ここに置いてないのか?」 「ここのはダメだよー。商店街の○○さんとこに売ってるからそこで買いなー」 「あ、ここから出たら振り向……。いやこれはフラグか……」 「なんの話しだ?」 「んーん。ここの近くにでっかい建物があったでしょ?ここは迷いやすいから、商店街着くまでの目印にしたらいいよ。通りに着くまでずっと目を逸らしちゃダメだからね」 「俺は迷子にはならん」 「いーからいーから。地元の人間の言葉は聞いていくもんだよー」 後日、骨董品屋に封筒が届く 中身は、お礼の手紙が一通、それと封筒をパンパンに膨らましていた札束だ 手紙は男からのようだった。あれから事業は上手く立て直したどころか業績がうなぎ登りになったという近況報告とお礼だった 「お代はいーよって言ったのに……」 手紙をヒラヒラさせながら店主は独りごちる 彼女の前には先のベルトがあった 「ねぇ。キミは何人殺してきたの?どれくらいの時間をかけてあの男の手に渡ったのかな?」 ベルトに声をかけるが、もちろん返事などない 「あの男も幸運だねぇ。なまじ忙しいばっかりに実行するタイミングがなかった」 店主はベルトを輪にする そのまま自分の首にかけた 「まぁ、何にせよ。これで私のモノになったってワケ」 店主はベルトを思い切り閉めた 「じゃーん!チョーカー!」 「ねーねーびっくりした?って、うわ!めっちゃ怒ってる!!」 店主は独りハイテンションで騒ぐ 「いやー、あたしの趣味にあうデザインでよかった」 ベルトを商品棚に無造作に置く 「おー、かっこいい。ねね、君もそう思うでしょ」 店主は“独り”ハイテンションで騒ぐ 「『お前』に聞いてるんだよ、{u}」