□機体情報 機体番号 Mig/su-68 第3号機 「F.L.L.B.」(ts-07 露仕様) □武装(出荷当時) ・HGLC-21 ガス圧作動式ガトリングガン ・MTC-03 メイス ・RRK-2 機体後部ウェポンラック ・RSH-06 使い捨て型リボルハンドガン オプション ・R-101 アクティブレーダーミサイル ・R-101-2 セミアクティブミサイル ・R-101-3 熱赤外線誘導式ミサイル ――白い烏。 あれを初めて見た日のことは、今でもはっきりと覚えています。 滑らかで、静かで、すべての動きが正しかった。 戦場のはずなのに、美しいと思ってしまった。 その瞬間、私の中の何かが確かに壊れました。 私は、技術士官としてもパイロットとしても「凡人」でした。 言われたことは出来る。だけどもそれ以上のことはやらない。典型的な凡人。 しかし、あの機体を前にしたとき、自分の技術など紙切れのように無力でした。 それを悟った日から、肩書も、誇りも、そして……理性も、必要ないと判断しました。 代わりに、記録を選びました。 姿勢制御の癖、旋回の間隔、武器選択の傾向。 どんなに小さな挙動も逃さず、積み重ね、沈殿させ、自分の中に沈めていく。 それだけが、凡人が天才と同じあの空へ近づくための道だと信じて。 私は地に落ちた烏です。 泥にまみれ、羽も折れています。 けれど、まだ空を見ています。 模倣だけが、私の武器です。 記録だけが、私の力です。 その動きを再現するたびに、少しずつ狂っていくのがわかります。 ……ええ、それで構いません。直すつもりはありませんから。 ――なぜ、旧式の「F.L.L.B」に乗り続けるのか、ですか。 そうですね……多くの人から同じことを聞かれます。 もっと新しい機体の方が性能も良く、楽に戦える、と。 ……ですが、私はそれを望んでいません。 あの機体は、ただの鉄の塊ではありません。 あれは、私が死なずに済んだ“箱”です。 すべてが火に呑まれ、味方も、上官も、仲間も、誰一人として残らなかった。 私は、その中で動けなくなったts-07pのコックピットに閉じ込められていました。 外からは爆風と衝撃、内部には焦げた匂い。 通信も切れ、助けも来ない。 ただ、装甲と隔壁だけが、私と死の境界を分けていた。 それが、あの機体でした。 丸一日、外の喧騒を聞きながら、 ただ生き延びるために息を殺し、目を閉じ、 自分が次に開ける目が、敵の刃を迎える瞬間かもしれないと覚悟しながら……。 それでも、機体は壊れず、私を守りきった。 それ以来、ts-07pは私にとってただの兵器ではありません。 あれは、私を生かし、そして狂わせた“シェルター”です。 あの狭い座席で、私は考えました。 どうすれば、あの白い烏を超えられるのか。 どうすれば、凡人の自分が天才の軌跡を掴めるのか。 ……結論は、模倣です。 相手の戦術を記録し、解析し、私の戦いに統合する。 そうして私は、過去に倒したエースたちの技を自分の中に積み上げてきました。 肩のミサイルも、チャフも、ブレードも――すべてが他者から奪い取った知恵の残滓です。 新しい機体に乗り換える? そんなことをすれば、私が狂気を見つけた“原点”を失ってしまう。 私は、この旧式の中でしか生きられない。 この装甲の中でしか、空を追いかけられない。 そして……あの白い烏の背を追う限り、私はこの鉄のシェルターを手放しません。 ――ええ、確かに今のF.L.L.Bは、出荷時の姿からは大きく逸脱していますね。 元は単純な武装積載型の大型機体……そう、“物量で押すための体”でした。 ですが、私はあの形のままでは戦えません。 なぜか? 答えは簡単です。――あの形では、記録が積み上がらないからです。 私が行っているのは、ただの整備や性能強化ではありません。 相手の戦術を奪い、骨格に組み込み、次の戦いで再現するための“再構築”です。 本来のF.L.L.Bの設計思想など、もはや意味がない。 内部の配線も制御系も、既に何度も組み直しました。 肩部のミサイルランチャーは、とあるエースの間合い潰しから着想を得て載せ替えました。 右手のライフルは、別の戦場で拾った設計図を元に再現しました。 チャフの散布パターンは、老練な防衛兵から奪ったものです。 つまり、あの機体はもう「私そのもの」です。 かつてのF.L.L.Bではなく、 これまで私が模倣し、切り取ってきた無数の技の寄せ木細工。 外観が崩れ、装甲が継ぎ接ぎになっていくのは、私にとっては自然なことです。 なぜなら私は“元の姿”に興味がないから。 必要なのは、私が次に出会う天才を圧倒できる道具とF.L.L.Bだったと言うことだけです。 模倣だけが、私の武器です。 記録だけが、私の力です。 そして、この機体はそれらを詰め込み続けた私の檻であり、刃であり、墓標でもある。 ……ええ、気に入っていますよ。 もう二度と、元の姿には戻れないところが、特に。 ――ああ、左手の武器ですか? 本来この機体に合わない武装ですものね。 これは最近模倣させていただいた方の武装です。 あの方の名前は、出撃記録にはもう残っていません。 記録用紙には左側の列には「撃破」、右側の欄には「記録完了」 たったそれだけ。 ですが、私にとっては、とても価値のある一例でした。 なぜなら――あの方はあの白い烏と同じ「天才」だったからです。 過去の戦闘ログ、訓練映像、整備記録、姿勢制御の癖、武装選択の傾向、搭乗前の心拍パターン。 すべて洗い出し、繋ぎ合わせて、解剖しました。 壊すためじゃありません。 理解するためです。 越えるためです。 初回交戦時、私は彼の動きの3割も出していません。 全ては検証のため。 あの方が、かつての記録と“どこまで乖離しているか” 現在の挙動が、どれほど差異を孕んでいるか。 答えは――「ほとんど変わらなかった」。 それが恐ろしかった。 記録と、実際の戦場とがほぼ一致していた。 つまり、あの方は一貫して“天才”だった。 変わらず、ブレず、いつも正しく、美しく、最速だった。 そして、だからこそ――私は勝てたのだと思います。 予測と再現が、真に一致した瞬間。 凡人の模倣が、天才の直感を凌駕した、あの一撃。 あの方の左腕を奪った一射。 後悔はありません。 私はその一戦で、多くのことを学びました。 そして、今もなお――あの記録は、僕の中で生きています。 最後に対面したとき、コックピット越しにあの方の目が僕を見ていた。 憎しみも、後悔も、敬意も、全部混ざったような複雑な表情でした。 私は笑いました。 自然と、嬉しくて。 「――ありがとうございます。 貴方の記録、私の中にちゃんと残りました。 貴方は、私の中でずっと戦い続けていますよ。」 そう伝えたとき、あの方は……何かを叫んでいました。 通信が切れていたので、内容は分かりませんでしたけれど。 ……きっと、怒っていたのだと思います。 私が“喜んでいた”ことに。 それでも私は感謝しています。 凡人である私に、天才の記録を残してくれて。 その動きを、再現する機会をくれて。 《Raven's NEST / No.9214 》 対戦相手 【救世戦僧】リフ・ダイバダッタ https://ai-battler.com/group-battle/d4a78939-0fcb-4085-89d8-a91e071121af ――ええ、今回の三戦は、どれも記録に値する内容でした。 市街地、洞窟、山岳――それぞれの環境が、彼の信条と機体の特性を際立たせていたように思います。 まず市街地戦。 リフ・ダイバダッタは重量と火力を武器に、射線を遮る建物の死角から突如現れ、弾幕で空間を制圧する。 あのマニ車リングガトリング砲の回転音と連射は、戦術的というより宗教儀式のようで、精神的圧迫すら与えてきます。 狭い空間での機動力は私のほうが有利でしたが、初戦ではその弾幕密度の読み切りが遅れ、接近を許しました。 結果は敗北。ですが、あの“音の圧”と連射間隔、そして徹甲弾の前段階での牽制射撃の間合い――それらは全て、記録に残しました。 洞窟戦は、反復学習の場でした。 暗所での光源の使い方、重量機の旋回速度、射線の制御。 市街地で受けた圧迫の再現を自分の内部で何度も繰り返し、対処行動を先に組み込むことで、私は優位を取れました。 接近戦において、重装甲は持久力を発揮しますが、狭所ではその質量が足枷にもなる。 洞窟のカーブで背面を取った瞬間――あれは初戦の敗北がなければ生まれなかった動きです。 山岳戦では、さらに彼の特性を削り取りました。 傾斜による動力負荷、射撃時の安定姿勢の崩れ、履帯走行の段差処理――観測し、計算し、誘導しました。 高所からの狙撃と、遮蔽を兼ねた地形利用は、重量級相手には効果的であると改めて確認。 最終的に、初戦での間合い支配と二戦目での接近対応を合わせ、確実な撃破へ繋げることができました。 ――そうですね、模倣すべきは「撃ち方」や「守り方」だけではありません。 彼の攻撃は信念に裏打ちされており、動作のすべてが“迷い”を含まない。 その精神状態ごと記録できたのは、何よりの収穫です。 感謝していますよ、リフ・ダイバダッタ。 あなたの御仏の力は、今や私の中でも息づいています。 《模倣兵装》 「Mc-GG6」6砲身ガトリングガン ・迷いの無い宗教者の兵装を模した武器 自身の思考よりも1テンポ速い攻撃を行う 《Raven's NEST / No.9308》 対戦相手 【反響集約】 アティドラ https://ai-battler.com/group-battle/9be266f2-ba41-4d3d-a0bd-6355f1fb3006 ――ええ、今回の三戦は、どれも貴重な記録となりました。 まず市街地戦。 アティドラのECHO.Ⅸは、静音性と音響索敵を両立させた非常に洗練された機体でした。 耳だけでこちらの位置を割り出し、反響を利用して死角から射撃を行う――その精度は驚くべきものでした。 私はあえて遮蔽を多用し、反撃のタイミングを絞り込みましたが、彼女はその一瞬の「間」すら拾い取り、ターミナルアーマーと高火力砲を重ねて押し切る。 この初戦で記録すべきは、索敵から攻撃までの時間短縮の仕組みと、耳で得た情報を即座に行動へ変換する判断速度でした。 次に山岳戦。 ここでは、初戦で得た索敵と射撃の連動時間を逆利用しました。 アティドラが耳で位置を掴むよりも先に、こちらのミサイルを視覚的に隠す位置取りをし、偽の発射位置を作る。 その結果、彼女の防御展開が僅かに遅れ、軽装甲に決定打を与えられました。 記録したのは「音に依存する相手への虚偽信号の与え方」と「反撃不能な距離から一撃離脱に移る動線」です。 そして洞窟戦。 狭く暗い環境は、彼女の聴覚優位が際立つ場でした。 しかし、音の反響をあえて乱す動きを繰り返し、距離を詰めてリボルガンブレードを打ち込む。 ここで模倣したのは、彼女自身が持つ“決め撃ちの瞬間に迷いを捨てる呼吸”です。 それを自分の動作に組み込み、接触から離脱までを一息で終えるよう再構築しました。 ――そうですね、彼女は戦いの最中も終始落ち着いていました。 耳が捉える情報に絶対の自信を持ち、その信頼が揺らいでもなお冷静に手を打とうとする。 その精神状態こそ、模倣すべき最大の武器だと感じています。 感謝していますよ、アティドラ。 あなたの静けさと確信は、これからも私の中で生き続けます。 《模倣兵装》 「Lgsh-L9」パルス集音式レーダー ・盲目の傭兵の兵装を模した武装 音による地形理解、戦況理解を行う 《Raven's NEST / No.11270》 対戦相手 【黄昏の悪龍】グレーベル・イゼルガルド https://ai-battler.com/group-battle/d4660bd4-1edc-4bac-a3b2-3409e4b6032a ――ええ、今回の三戦も、確実に記録すべき価値がありました。 第一回戦、砂丘。 灼熱の砂漠におけるグレーベル・イゼルガルドの「ムシュフシュ」は、四脚の軽量級ボディを自在に滑らせ、左右に蛇行しながら両腕ビームガトリング「デュラズファング」を回転。地面を這うビームはまるで砂丘そのものを焼き尽くすかの如く、逃げ場を削り取る心理戦でした。 EN供給タンクの持続性もあり、圧倒的な連射が可能な攻撃パターンは模倣すべき価値が高く、初動から圧力をかける術として学ぶべきものでした。 私は推進器を駆使して回避しつつ、右手ライフルの精密射撃で脚部を狙い、左手ガンブレードを展開。ターミナルアーマーで防御を固めながら、肩部ミサイルを放ち、隙を突く戦術を模倣しました。最終的に、ムシュフシュのコアを破壊し勝利。しかし、彼の「逃げ場を消す動き」の感覚は、私の記録の中で確実に生き続けます。 第二回戦、市街地。 瓦礫と影が戦場を複雑化させた中で、グレーベルは四脚を巧みに使い、ビル屋上や路地を利用した心理戦を展開。ビーム弾幕で進路を制圧し、私を孤立させる巧みな立ち回りでした。 私は建物の陰に隠れ、チャフで攻撃を分散させつつ、模倣戦術で彼の蛇行パターンを先読み。ライフルでバッテリータンクを狙い、EN供給を乱すことで、最終的に脚部に致命打を与える戦法を完成させました。市街地の遮蔽を活かす火力制圧は、間違いなく次回の参考材料です。 第三回戦、山岳。 斜面と泥沼が複雑に入り組む環境で、グレーベルは四脚の機動性を活かし、心理戦を仕掛けながら一瞬の隙を狙う。逃げ場を消す戦術は斜面でも有効でしたが、私も重装甲と推進器を駆使し、岩陰を使った射撃と一撃離脱を組み合わせることで、最終的に勝利を収めました。泥や地形による制限があったにせよ、彼の戦術には確かな合理性と説得力があり、模倣対象として非常に有用です。 総じて、グレーベル・イゼルガルドの戦い方は「火力での心理支配」と「四脚機体の巧みな機動」が軸でした。 彼が家族を人質に取り巻く戦場の中で戦う様は、理由は違えど同じく戦場に取り憑かれた者の匂いがしました。 私の記録と模倣は、確かにその手法を学び、次に活かすための礎となります。 ……感謝しますよ、グレーベル。 あなたの“逃げ場を消す圧力”は、次に出会う戦場でも、私の中で響き続ける。 《Raven's NEST / No.13444》 対戦相手 〖 無垢なる心〗純白の騎士 https://ai-battler.com/group-battle/298f337d-d024-4b34-9c04-5f611c13df90 ――ええ、今回の三戦も、戦場としては記録すべき価値がありました。 第一回戦、砂丘。 遮蔽物の一切ない灼熱の砂漠は、まるで戦士の本質を試す試練場のようでした。 純白の騎士――あの方の剣筋は、一切の迷いがなく、槍と鎖の投擲は理の上に構築された芸術のようでした。軌道の一本一本が確信に裏打ちされており、回避の瞬間にさえ美しさを感じるほどでした。 私はその正確さを観察し、呼吸の間を数え、推進器の出力を細かく合わせることで応じました。砂を巻き上げ、視界を奪い、わずかな誘導の乱れを突いて反撃を重ねた結果、彼の防御を崩すことができました。あの一戦は、技量ではなく観察と理解が勝敗を分けた戦闘だったと思います。 第二回戦、山岳。 急峻な地形の中で、彼の剣技はさらに洗練されていました。斜面を踏みしめるたびに粒子が跳ね、鎖の軌跡は空間そのものを制圧するようでした。私は地形を読むためにセンサーの分解能を最大にし、岩肌に反響する音や砂礫の動きを指標にして位置を特定しました。 幾度も距離を詰められ、装甲を裂かれましたが、そのたびに彼の動きを模倣して防御を組み替えました。結果として、彼の戦い方を理解しながら、自らの動きに組み込むことができた一戦でした。 第三回戦、市街地。 夜の街に響く剣撃の音が、まるで心臓の鼓動のように感じられました。 瓦礫の影、ガラスの反射、風の流れ――あらゆるものが錯覚を生み、互いの姿を惑わせます。純白の騎士は一切の動揺を見せず、ただ静かに、的確に斬り込んできました。 私は彼の「間」を見極め、そこに自らの動作を合わせるよう努めました。戦いの最中、彼の剣筋と私の動きが重なった瞬間がありました。あの刹那こそ、模倣が理解へと変わる瞬間だったのかもしれません。 総じて、純白の騎士の戦いは、美と理性の融合でした。 無駄のない動作、揺らがぬ意志、そして沈黙の中にある圧倒的な存在感――それらすべてが、私にとって学びであり、挑戦でした。 戦場に立つたび、私は彼の「確信」に触れ、そして自らの未熟を知りました。 総じて、純白の騎士の戦いは「美と確信」によって成り立っていました。 彼の無駄のない動作は、感情の抜けた精度そのものであり、故に学ぶべき要素が多い。 彼は戦うというより“在る”ことで攻めてくる──それが対峙した者に与える圧倒的な印象でした。私も同じ戦場に身を置く者として、その動きと精神の輪郭を、確かに手に入れました。 「だが、貴方は白い烏ではない。」 「私が追い求め、落そうとするモノはもっとちがった。」 ――これからお会いする、あなたへ。 人であれ、人工知能であれ、私にとっては同じです。 あなたの戦術、その一挙手一投足、全てを記録させていただきます。 殺すつもりはありません。ほんの少し、模倣させてもらうだけです。 あなたを模倣することで、私はまた一歩、あの白い烏に近づけます。 追い越すことは、きっとできないでしょう。 ですが、その翼を――純白の翼を、泥で汚すことはできるはずです。 ……では、記録を始めましょう。 ログ終了 ミケーレ・エルスティラ