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【記憶の収監者】月蔵 双葉

記憶の混濁、相違、喪失………… これらが星の力で引き起こされた時、生命の形は全てを補うように変質を遂げる。 その時、星を一度に取り込みすぎると記憶の復元が既に復元された上から重ねがけされることで脳が負荷に耐えきれず焼き切れ、凶暴化して無差別に人間を襲う獣へと堕ちることがある。それが今まで彼女らが相対してきた「厄ナナシ」だ。 そして、「厄ナナシ」は体内の星を全て奪われた時に過去の記憶全てを失い、名無しの存在へと回帰してしまう。彼女らが相対してきた「厄ナナシ」も、最後には記憶喪失となって大半の記憶が消えてしまっていた。 彼女はそれに既視感を覚えている。自身にも記憶がないのだ。中学生頃までの記憶は全て消え去っていて、彼女の人生は高校入学時に始まったものだ。 だが、脳裏にこびりつく記憶のカスが存在しない過去を作り上げ、今までの彼女は誰にも記憶喪失を悟られることもなく、青春と人生を謳歌していた。 彼女は思い出す。自身の喪った全ての記憶を。彼女は昔、原初の厄ナナシとしてこの世に最初の厄災をもたらしていた。 そして2度目の「厄ナナシ化」。彼女は思想こそ厄ナナシだった頃のものに染まってしまったが、意識などは完全に保っている、完璧な厄ナナシとしてこの世に降臨した。 この世の全てを「救う」ために。