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《 Chapter 1-2 「ヨトゥン侵攻作戦」 》

《 あらすじ 》 突如戦場に落ちた「ダンディ・ペペロンチーノ」は、すぐ近くで戦闘していた「シャトー・レプラント」との一時的な共闘を行った。 「死んだ者が生き返る」戦場では苦戦を強いられるはずだったが、彼らの力の前には不死といえども無力だった。 戦闘が落ち着いたころ、ペペロンチーノはシャトーに語り掛ける。 _________ 「......君が先ほど言っていた星だが。」 「『ミズガルズ』。私達はその星に存在する国家に属してる。」 「で、今戦ってたのはアースの勢力。」 彼女は至極簡潔に答えた。 だが不思議に思ったことが一つ。ミズガルズとアース。その二勢力が星を超えるほどの戦争を起こしているならば、この戦場はどこにあるのか? 想定解は二つ。できる限りなら前者であってほしいが...... 「となれば、ここはどこにあるんだ?」 「『ニヴル』。霧の星。」 彼女はこちらを見すらしなかった。 視線の先は常に彼女の持つ妙な機械に集中されているようだった。 それは怪しい青に輝いていて、古代文字のような造形に見えた。螺旋のような鋭さを描いていながら、その中心は心臓のように光が脈動している。 一瞬、その閃光が大きくなったかと思うと、正面に巨大な渦が開かれた。 脈動を続けたそれは、徐々に彼女を分解していっているようだった。 「興味があるなら、勝手についてくれば?」 言い放った彼女が消え、蒼い門だけが残された。 荒野に残ったそれは、まるで生き物のように拍動を続ける。 それはさながら呼び声のように...... 「下等種族の移動手段、か。」 意を決して手を伸ばすと、徐々に体がほだされていくのが分かる。 不安定に変形した肉体に対応するように、蒼い光が体を包み込んだ。 ...... 目が覚めると......同じ展開を繰り返したような気分がする。 先ほども同じように戦場で目覚め、戦ったはずだ。 なら、先ほどの光景は夢か? 「起きなさい、星渡り。」 目覚ましのように彼女の声が響く。 これが現実であると、そう刻むように。 彼女は私が目を覚ましたのを確認すると、即座にどこかに向けて歩き出した。 眼を開き、周囲の状況を確認する。 そこは町だった。 異国の情緒あふれる世界観は、レンガ造りの旧式の建造物と調和し、暖かい色合いを作り出している。 ガス灯はまだ灯らず、空には一つの太陽と、白んだ二つの月が昇っていた。 なかなか起き上がらない私に気付いたのか、彼女は振り返って続ける。 「早く来て。さもないと置いてくわよ。」 「待て、君は......」 さきほど感じた疑問を投げつける。 「君は、”人類は下等だ”と思うか?」 妙な質問だっただろう。 同族を見下すことは、すなわち彼女自身を卑下することにつながる。 そのような屈辱的な行動を、人間がとれるはずがない。 だがもしかしたら、彼女ならと思ったのだ。 「......そうよ。」 「人類は醜い物。例外なくね。」 「それは、君含めてか?」 「きっとそう。私もね。」 彼女はなんてことないように答えた。 その言葉尻には、なにか深い恨みか......あるいは羨望があった。だが、それには追求しないようにした。 「そうか......その姿、実にエクセレントな『真の戦士』だ。」 彼女は振り返らずに先へ進む。 「もし望むなら、人間を捨てるというのはどうだ?」 「君も高貴なる吸血鬼であれば......」 「体なんて、ここではどうにでもできる。」 「ただ、この体が使い慣れてるだけ......」 延ばされた指先が、片手の線をなぞる。 「早く行きましょう。」 「私達に加わるなら、手続きがいるから。」 ...... 街は音にあふれていた。 ある花屋では、何か記念品を求めているだろう、大きな図体の龍とトカゲの......親子だろうか。 交わした笑顔はやがて花に向けられ、鹿の顔をした店員は店の奥へと帰っていく。 不意に過ぎ去った風は、肌をかすめて遠くの山麓へと流れていく。 やや暗くなり、ガス灯が灯り始めたころ。 ようやく龍騎の承認が終わった。 「これであなたも軍人。」 「私は別の要件があるから行くわ。」 彼女は振り返らずに去っていった。 ただ去り際に、 「さよなら。」 の一言を残して。 先ほど渡された情報端末に、招集がかかる。 「私ほどの高貴な種族が使われる立場とは......」 呆れながらも、ペペロンチーノは戦場に向かった。