「相変わらず変なのばっかでるな〜もう…。 音の鳴らないギターなんてどこで使うこと になるんですか!」 彼女の力は不思議だった。 というより、ちゃんと制御できているのか 疑問さえ湧いてきた。ここに至るまでにも 多くの[ヒント]が出されたが、その珍妙で 不可思議な品々は彼女の理性を乱すには 充分な様だ。それでも、彼女は私の話を 親身に聞いてくれ、真っ先に依頼に 乗り出してくれた。それだけで少しだけ、 僅かながらも心が軽くなった。 それが嬉しかった。 だから気になったのだ。 仕事とはいえ、彼女がこんなにも熱心に なるその理由がなんなのか。終わりが 見えないこの捜索劇に身を乗り出した その理由が。 「あの、…一ついいですか?」 「? どうしましたか?あ、やっぱり ギターは弾いてこそギターですよねぇハハッ…」 「あいや、その、……」 「?」 「…閃芽さんがここまで親身になるのって 何か…その、あるのかなって…」 「それはまぁ、困ってる人がいたら 見逃せないじゃないですか!」 あぁ、実に彼女らしい理由だ。きっと 彼女は底抜けに優しくて、根っこから正義 の為に動いてるのだろう。そう納得させた 時、不意に声が続くのを聞いた。 「それに、…辛いじゃないですか。 大切な人が、帰ってこないかもって 思いながら過ごしていくのって……。」 彼女の顔が曇るのが見えた。事務所の人に 振り回されてた時や、役に立たないヒント に苦悩してた時とは違う、思い出す様な目。 深く踏み込むのはきっと 悪いことなのだろう。 それでもどこか他人事に思えなくて、 私は勇気をもって何かあったのか聞いてみた。 「もしかして、何かあったんですか?」 「いやぁ!別に何もっ、………」 「……」 「いえ、こうして会ったのも何かの 縁ですよね。ちょっと暗い話になるんです が、大丈夫ですか?」 どこか悲しげな顔を前に、肯定の意を示す。 「ちょっと昔の話しになるんですけど、 中学生の頃、私には友達がいたんです。 小学校からの友達で、一緒に遊んだり、 泣いたり、喧嘩とかもしたけど、 辛い時とかは側にいてくれた、いい友達 だったんです。」 だった、か… 「でも、ある時から全然学校に こなくなっちゃって、最初は風邪か 何かかな?って思ってたんですけど、 家族にも連絡が届かないみたいで…。 クラスでもちょっとした話題になりました。 夜逃げしただとか、ただ旅行にいっただけ だとか、皆勝手に想像してて…。 ふざけたこと言うなぁって思いつつ、 私も何があったか気になってたんです。」 「だから…、だから、あんなことになった のが許せなくて。」 何かを思い出す彼女の顔は次第に曇り始め、 怒りからか恐怖からか、どちらとも 読み取れる震えが微かに強くなる。 無理をしないでと私が言うと、自分が 始めたからと言わんばかりに彼女は再び 口を開く。 「…その日はいつもより先生が来るのが 遅かったんです。朝のホームルームに 先生が遅刻するのは珍しかったんですが、 先生が来るまでの自由な時間に皆ワイワイ してたんです。でも、…しばらくすると、 先生の代わりだって人が教室に来て、 一つの動画を見せたんです。 それに映っていたんです。身動きが取れなく なっていた私の友達が。 巷じゃ【風船事件】なんて呼ばれてる みたいですね。知って…いますよね?」 【風船事件】。一時テレビを賑わせていた のを覚えている。 【絵依合町川下一家惨殺事件】、通称 【風船事件】。たちの悪い能力者による 猟奇殺人で兎に角酷かった記憶だ。 「それからはもう酷かったです。 叩かれて、蹴られて、お待ちかねと 言いたげにゆっくり苦しめて。 腕が風船みたいに膨らんだと思ったら、 割れて、…飛び散って…っ、抵抗した お父さんを、見せしめに爆発、…して、 … . ... . ..、 …ごめんなさい。取り乱して しまいましたね。これ以上話しても 仕方ないですよね。だからその、何で 親切かっていうと、私と同じ目にあって 欲しくないからなんです。私はもう 会えないけど、あなたのお姉様はきっと 生きているから。」 まだ震えが収まらない彼女は、私の為に 笑ってくれた。きっとその絶望は 深いのだろう。それでも彼女は前を向いて、 誰かの為に頑張る事を選んだ。 私の姉もそんな人だったのを思い出したが、 今更気付いても仕方ないのだ。 その強さに触れたかったのは あの時だからだったから。