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【翔拳の格闘少女】エィ&【四神の格闘家】顧菟(こと)

よその子”格闘少女”のエィちゃん! https://ai-battler.com/battle/558e13df-b1d2-4d17-b829-e8f6dd1e8bb3 うちの子”四神”格闘家の顧菟! https://ai-battler.com/battle/f5663166-90e2-40ad-a5b9-eb0e03183d73 <邂逅>  某所。特に何の変哲もない街角でバスが留まり、バス停で待っていた人々と、乗客が入れ替わる中、その少女はいた。  健康的で長い四肢。肌にしっかりと沿った動きやすそうなスパッツにサンダル、それから少々丈余りのパーカーを着た燃え立つ鳳凰を思わせる赤い髪をした生命力に満ちた姿。ショートヘアの毛先を結った彼女は、眼前に広がる知らない街の光景に大きく伸びをして楽しそうに背伸びをした! 「あ~、やーっと着いたッス!! やっぱり新しい街に着くと気持ちいいッスねー!」  大きな深呼吸で新鮮な空気を体の隅々まで行き渡らせて軽く柔軟をすると、足取りも軽やかに街を進んでゆく。その少女、琴野顧菟(ことのこと)は近場で買ったウーロン茶のキャップを開くとくぴくぴと飲みながら、ゆったりとした様子で歩いてゆく。それまでのトラブルとは無縁に見える新天地にさて、来た理由はそう多くはない。 「ん~~……たしか、住所はこの辺ッスね……」  ペラリ、とパーカーのポケットから折り畳んだパンフレットを取り出して紙面を眺める。『未来へ羽ばたく人類保証機関!アルファ・ベイト研究所!』と大きな見出しで描かれた賑やかな記事。たくさんの華やかな成果を見せてきた若き大科学者アルファ・ベイトの本拠地であり、昨今格闘界隈を騒がせているという『格闘少女シリーズ』という特異な存在達が住んでいるとも聞いたことがある。 「どんな人達かな~。ウチ、凛は使えるけど本格的な格闘家ってわけじゃないから楽しみだな〜」  別段、格闘大会にたくさん出るわけでもない顧菟だが、よくよく名前を聞く『エィ』とか『シィ』とかなんとなく可愛らしい響きのそれが気になって、興味が膨らんでいたものだ。曰く格闘少女はプロの格闘家でもボコボコにしてしまうどころか、彼女ですら耳にその勇名を聞く挟む『境地の格闘家、鳳 風香』や『豪脚のフォンメイ』、あるいは『生まれる時代を数百年間違えた无二打星人、華』や『閃光魔術回し蹴りの武藤』や『スーパータフガイ、ガリレイ』といった怪物中の怪物の領域にあるらしい。  だが、わざわざ乗り継いでまでここに来た理由はそれだけでもない。  ――この間ブッ潰した研究所で言ってたッスから、見に来たッスけど……どんな人達なんだろ?  顧菟は、以前の記憶を軽く頭に浮かべる。この平和な町並みの裏にも闇はあろう。その闇の中で戦う彼女の戦いの中で、明確に『格闘少女シリーズ』に既に迎撃された話を聞いて、何処か通じるものを感じてここにやってきたのだ。琴野顧菟は、超能力者である。両儀の如く存在する『力』を引き出し、それを『陽』に変えて己のものとして格闘技という形で行使する事で戦う、いわば正義の味方である。  かつて自分を実験体として使い、今なお悪行三昧を重ねるとある『組織』を討ち果たして平和を作ることを目標として日々、独り戦い続ける――それが、彼女であった。彼女を守るのは遥か古来より存在する瑞獣たる四神。そして、平和の為に授けたその力が彼女の力の源であり、そして、その経緯から人を巻き込むことができずに己の正義と勇気を友にしていたのだ。  彼女を改造した『組織』は極めて強大な組織だ。だから、いつ終わるかもわからない戦いがあるからこそ――顧菟はありふれた幸せに憧れながらも、己の指名に殉じて未来を信じ抜くのだ。ここに来たのは、そんな一人の人間として戦う日々を送っている中の出来事であったのだ。格闘少女も正義の為に戦っているのか?それともそうでもないのか?それも相まって、彼女達に会ってみたくなった――のもあった。 「うーん……住所は確かこの辺のはず……ん?」  街を歩む内に大きめの公園に顧菟はたどり着いて、足元にサッカーボールがコロコロンと転がってくるのを見つけて反射的につま先で蹴り上げてリフティングする。 「すみませーん!!」 「あ、このボール、キミたちのモノっスか?」 「はーい!! こっちにお願いしまーす!!」 「ウッス!」  リフティングで強めに蹴り上げたボールを軽く飛んでサマーソルトキック気味に蹴り飛ばすと、ポーンと軽やかに飛んで子どもたちのところへ飛んでゆく。「うおー!?」「あのお姉ちゃんスゲー!!」なんて響く声を聞きながら、宙返りして着地した顧菟は微笑ましげに微笑んで、公園の入口から子供たちを見つめていた。  ボール遊びや砂遊び、縄跳びだとかジャングルジムに夢中になる子供たちはとても可愛らしくって、見ていて飽きない。今さら、一緒に遊ぼう!なんてできる歳でもないけど顧菟はこの平和的な風景が大好きだった。 「よっ、さっきボールをけりかえしてくれたのはネーチャンか?」  ふとかけられた声に視線を向けると、そこにはヤンチャそうな面構えをした女の子が腕組みをして仁王立ちをしていた。何となくチョコレートを思わせる褐色肌と、おへそを惜しげもなく晒した黒基調のミニスカート姿のアイドル風の洋服姿。とても小さいけど豊かな金のツインテールといい、成長したら美人になりそうなよく目立つ少女であった。ギザギザとした鋭い歯を笑みに変え、人懐こそうに歩み寄ってじいっと見上げた。 「そッスそッス。さっきのお友達といっしょに遊んでたッスか?」 「おうよ! オレのコブンどもがセワになったな! ありがとな、ネーチャンよ!」 「どういたしましてッス!! なかよく遊ぶッスよー!」 「アンタもな!このへんクルマがトバしてっからきィつけろよー!」  ウーロン茶を飲みながら、親分っぽく振る舞うその幼女と言葉を交わしてから――ワイワイと騒いでめいいっぱい遊ぶ子供達を見つめ、静かにその場を後にしようと踵を返し―― 「こんにちは!」 「ん?」  かけられた声に脚が止まる。振り向いた先にいたのは、お洋服を着たなんとも可愛らしい妖精のような容貌をした幼女だった。ふわふわしたピンク色の髪の毛に、薔薇色の眼差し。スラリとした未成熟で華奢な身体は触れてはいけない硝子細工のような細さで、まるで花が人になったような印象を感じさせた。公園で遊ぶ子供たちの中でもかなりちっちゃいほうだろうか、身長もさほど長身でもない顧菟の胸くらいまでしか無い――113cmくらいだろうか? 優しげな垂れ目を無邪気に微笑ませ、顧菟が手に持っていた 「いきなりはなしかけてごめんなさい! おねえちゃん、そのラボにいきたいの?」 「お、知ってるんスか? そうなんスよ、バスを乗り継いで色々と見学したいなって思ってここまで来たッス!! 格闘少女って」 「あれ、けんがく? かくとうかさんみたいだから、てっきりファイトにきたのかとおもっちゃった!」 「……ファイト? あそこ、ジムとか道場みたいなこともやってるッスか?」  顧菟は訝しげに眉をひそめた。あんなクリーンな研究所に攻め込むような雰囲気って微妙に合わない気もしなくもないけど…… 「あはは……わりとあるんだよね。たいかいとかおべんきょうとかいろいろあるから、さいきんはおことわりしてるんだけど……それでもサイキョーになりたいからってよくくるんだよねぇ」 「格闘少女シリーズのウワサは格闘技の大会とかよく知らないウチも色々知ってるくらいッス。エィアッパーとかC.Q.C(シィ・クイック・コンビネーション)とか形拳・疾風居合とかすっごいって」 「あはは……ユーメーなのはうれしいけど、みんなウデダメシにきちゃうからね……たまにこまっちゃうの」 「大変ッスねぇ……気持ちはわからないでもないッスけどちょっとそういうの感心しないなー」 「ま、ね……えへへ」  てへへ、と幼女は笑う。苦笑というか愛想笑いというか。なんというか、頭を撫で撫でしたくなるような可愛らしくて柔らかい笑顔だった。 「そだ! おじょーさんのお名前教えてもらってもいいッスか? ウチは琴野 顧菟! よろしくッス!」 「わたしはエィ! 格闘少女シリーズのおねえちゃんだよっ!」  ――エィ。決して怯まず勝利を掴む勇気の格闘家。多くの強敵を一撃のもと打ち砕いてきた必殺の拳、エィアッパーはあらゆる艱難辛苦を打ち砕く!――この間読んだ、格闘雑誌のコラムより。 「えええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっ!!??!!!!???????」 「おちついた?」 「ウッス。……そっかあ……格闘少女シリーズって、ちっちゃい女の子だったんスね」  いっしょにタピオカミルクティーを飲みながら、街角のベンチで二人は腰を下ろしてゆっくりと過ごしていた。 「……おどろいてるね」 「ウチとおんなじくらいか、もうちょっと歳上のすっごくカッコいい女の子を想像してたッス。こう、オープングローブが似合う総合格闘家とか、桃プロのお姉さん達みたいな感じの……」  と、言いつつ顧菟はエィの頭のてっぺんからつま先までを改めて見つめた。しっかり着込んだお洋服の上からでもわかる、その桜色の印象が強い彼女はふわふわとした柔和な雰囲気で、声も優しくて幼いもの。かつて、顧菟がK-0と呼ばれて『誰か』に助けてもらうまで暴走して暴れていた頃――無力だった7歳の頃よりも更に幼くて、本気で戦うことそのものがなにかの冗談としか思えなかった。……ていうか、筋肉も脂肪もついてなさそうな身体付きは『格闘少女エィ』のウワサ話と何一つ繋がらない。というか、纏う雰囲気もまるで戦う者のそれに思えない。 「あのー……」 「ん? どうしたの?」  にぱっと花咲くような笑みを返して、 「……エィちゃん、英愛高校の黒江さんって知ってるッスか?」 「あ、李衣おねえちゃんのこと?」 「うん。じつはこの間、軽くスパー相手に付き合ったんスけど、愚痴られたんス。またエィさんに負けたって……」  ――とは言うけど、本当は愚痴ってレベルではない。「何も通用せずに負けたの……」と彼女は憂鬱に語っていた。英愛高校の生徒会長、黒江李衣は超高校級のキックストライカーであることで有名な人物だ。実際、『凛』無しで気晴らしのスパー相手になったときも素早く鋭い脚技の数々にオッとなったものである。そんな彼女にそんなこと言わしめるって……ある? しかし、エィはいつものように微笑んで 「あー、まえのどようびのシアイだね! うん、3ラウンドせいだったけど、カウンターでイイのがオナカにはいっちゃってそのままびょういんにいっちゃったの」 「…………????」  宇宙顧菟。いくら『あくまで能力も凄まじい身体能力も持たず、格闘技を極めたわけでもない一般人の中での最高格』である黒江であるとはいえ、こんなちっちゃな子供に病院送りにされる黒江なんか想像つかない。手加減をした結果……でもない。 「……黒江さん、包帯巻いてたッスけどホントにエィちゃんがケガさせちゃったんスか??」 「うん……いまはこう、すごくわるかったなっておもってるよ……」 「…………」  顧菟は今までの常識が崩れるような気分であった。いや、もしかしたら『凛』のように超能力が使えるのかもしれない。あの組織とは別口のサイキッカーなのかもしれない。色々と湧いていた興味が更に深まり――口を開こうとした瞬間、遠くから人の悲鳴が聴こえた。 「このこえって!?」 「……これは間違いない、奴らの気配ッス!!」  顧菟は持っていたタピオカミルクティーを 「やつらって!?」 「エィちゃん、危ないからここにいて欲しいッス!! ウチがすぐに倒してくるから、動いちゃだめッスからね!!」 「えっでも!」  顧菟は返事を聞かず、ベンチの背を蹴り飛ばしてサンダルを脱ぎ捨てつつ舞い上がり、街の看板や停車中の車、街路樹と次々と蹴って街の『空』を自由に飛翔して飛んでゆく。一切、遮るものもなく宙返りを交えてビルの屋上にまで飛び上がり――摩天楼に霞む天空から、遥か眼下に霞む街へとダイブしていった。 —――  町中で『ソレ』は暴れていた。歪に発達したボルトが突き立てられた歪に発達した筋肉の塊のごとき、毛のないゴリラを思わせる怪物だった。コンクリートを破砕しながら、中型バイクを掴み上げると投げつけて商店を打ち砕いてゆく。 「は、早くこっちに!!」 「お、俺のバイクが!!」 「そんなもん気にしてる暇なんかねえ!! 早く逃げるぞ!!」  その怪物が果たしてどこから現れたのかは不明だが、突如として現れたそれから逃れるべく人々が逃走する。 「あっ……」 「サナ!!」  その雑踏に揉まれて、一人の少女が転んでしまう。母親がその少女を助けようと駆け出すが――既に、怪物が少女の方に向けて進み出す。それを救える者はいない。ただ、一人を除いて。 「でりゃあ!!!!」  遥か空の彼方から、純白のオーラを纏った人影が流星の如く墜ち――一撃のもとに怪物を踏み潰した。完全な死角から超高速で急降下してきたソレは、白虎の如きオーラを露わにしながら、優しい眼差しを鋭く変えて今しがた踏み潰し、トマトのように飛散させた怪物から飛び降りてポカンとする母娘の方を見た。 「――大丈夫ッスか? さあ、早く今のうちに逃げるッス!!」 「あ、ありがとうございます!!」  二人は突然の救世主にお礼を言うと、足早に駆け出してゆく。そうして、顧菟は背後から現れた複数の同じ怪物を見て目を細めた。 「数は……多いッスね。雑な失敗作を投薬と電極で強化したアレだから基本は一撃必殺で仕留めて……この分だと恐らく他のエリアにもいるし、ソッコーでケリつけて……」  ブツブツと口の中で考え事を呟く彼女を踏み潰すように、丸太のように太い腕を振り上げて道路ごと叩き潰さんと振り下ろす!! しかし、果たしてその一撃は彼女を捉えることはなく、高らかな宙返りで鳥のように回避した顧菟はその眼に紅き光を宿し――その身は青いオーラを纏っていた。 「よし!!」  考えは纏まった。刹那、彼女は風となる。物理法則をねじ伏せて、急降下した彼女は鈍重な怪物の胸板を蹴りぬき、くぐもった声が響いた次の瞬間それを踏み台にしてその頭部を飛び膝蹴りで貫いた! 巨体が倒れて轟音――が響くよりも早く、たまらず仰け反った怪物の体を踏み台にして飛び出し、急襲して次々と飛び蹴りを放ち、三角飛びの要領でまるでピンボールのような軌道で次々と移動し、一撃の元に的確に人誅を蹴り抜いて空を舞う。体格差や筋肉量など関係ない。鋭い蹴りは人体の急所を撃ち貫き、一撃必殺を可能とする。組織が投入した雑な戦闘用クローンだから、彼女はそれの無力化の仕方も熟知していた。  ――それにしても、なぜこの街にこんなものを?  疑問を抱きながら、軽やかに降り立つと轟音と共に巨体が倒れてゆく。その音はほぼ同時、一瞬でカタをつけるというのは実際に可能なこと。 「グモオオオオオオオオオオッ!!」 「新手!」 「やっとおいついた。いきなりとんでっちゃうんだからビックリしちゃったじゃない」  響く幼い声。離れた場所にいたのは――エィだった。そして、彼女が立っていたのは何と間の悪いことに、怪物共が現れた場所にほど近い。  避難を呼びかける!? 否、それじゃ遅い! そう一瞬の中で思い脚に力を込めた瞬間―― 「えっ!?」  彼女は見えた『未来』に困惑した。  エィを認識した怪物は新たな獲物に向けて、襲いかかる。しかし――その拳はするりとすり抜ける。最初から軌道などわかっていたかのように。そして、彼女の小さな身体は回避と同時に重心の移動一つでするりと回り込むように懐に入り込み、怪物がその小さな女の子を見失ったコンマ1秒後に 「エィアッパーーーー!!」  重く、鋭く、高らかな打撃音が鳴り響いた。空を目指す昇龍のように全身のバネを使った爆発的瞬発力のアッパーカットが、質量というものを無視して何倍もの大きさを持つ怪物の顎を撃ち貫き、吹き飛ばしていた。隙になりえる予備動作はあるが、完璧な回避行動から相手の隙に突き刺すべく、流れるように繋がったがゆえにそれは隙にはなっていない。  無思、無躊躇、無雑念。心技体を合わせなくては決してあり得ぬコンマの攻防。それを朱雀の神眼で見据えていた顧菟は、少し見惚れていた。なぜならばそれは、無能力者が行った純粋な格闘技であり、エィの眼差しには顧菟が憧れてきたヒーロー達と同じ、燃えるような勇気が宿っていたからだ。  進化する勇気の格闘技、エィ。その噂と一瞬の静寂の中で舞い降りる幼女が――重なった瞬間だった。 「おねえちゃん! これ、たおせばいいんだね!?」 「あ!……うん、もちろんッス! ウチがやっつけるッスから、エィちゃんは無理しない程度に!」  怪物が倒れたその音でハッと我に返った顧菟はその言葉に即頷いた。それを聞いたエィは背後から迫っていた怪物に向けてバック転で回避しながら、大振りなカカト落としでスタンさせ、ほぼ同時に放つ膝蹴りで挟み込んで打ち砕く!  顧菟はそんなエィを見つめ、静かに頷いて戦場へと駆け出した!  ――そこからは当然、一方的な戦いとなった。空を舞う風と、地を駆け抜ける風。躰道で幻惑されれば鋭い柔術やボクシングが足元から崩し、エィを狙えば顧菟が四神の如き格闘技で仕留めてゆく。動きが人間とは思えないほど素早く、完全な攻防一体を実現するその立ち回りは単純な力任せで振り回す暴力など触れることさえできないのだ。『凛』で発現する朱雀の神眼はエィの動きを見極めてはいたが、同時にその幼女も顧菟の動きを見ながら動きに幻惑されて置き去りになってしまわぬように、先へ先へを見定めて立ち回っていた。  顧菟は不思議な気持ちだった。誰かを助け、助けられるこの環境は初めてだったからだ。それも――純粋な格闘技で共に肩を並べて戦うのが、幼女だとは!! 圧倒的な戦略性と身体能力で追い込まれた怪物達は防戦一方となり、最終的には恐怖さえしていた。 「はあっ!!」「おわりっ!!」  最後の一体に、二人同時に飛び蹴りを打ち込んだのも、数瞬後だった。蹴りの反動でくるくると回転しながら着地した顧菟の前で、エィは可愛らしくビクトリーポーズを決めて誰に示すでもなくウィンクした。 「いやー……すごいッスねエィちゃん!? ま、まさか本当にあのエィだったなんて……」 「えへへー、みなおしたでしょ? わたし、こーみえてけっこうつよいの!!」  そして、エィがここまで強いとなると……顧菟は静かに目を閉じ、凛を用いて感覚系を研ぎ澄ませて『悪しき心』を探る。この街に蔓延る悪意、暴れ回る暴威の気配は先程まではかなりあった。今は――  ……無い。ひとつもないッス。これ、やっぱり……  代わりに、各エリアに小さくも強く輝く無数の気配があった。暴力的なまでに燃え盛る命、動いていないと思うほどに静かな命、何処か『凛』に似た気配を帯びた命、決して消えぬ不屈の命、或ることは確認できるけどなんかさっきから明滅してる変なの。そして、統制が取れたたくさんの命とひときわ輝く命。  そして、それらの命の気配は――眼の前で轟々と燃え盛り、光り輝く命と同じものだった。ゆっくりと目を開いた顧菟は、何処か神妙な眼差しでクリクリした目で見上げて来るエィを見つめた。 「どうしたの?」 「ん、何でもないッスよ。危ないのに戦って……えらいッスね、エィちゃんは」 「そう? でも、あんなのでてきたらやっつけなきゃ! そうでしょ、お姉ちゃん!!」  パッと輝く無邪気な笑顔。裏表もなく、真っ直ぐで、優しいその笑みは顧菟にとっては何となく懐かしくて、そして守りたいと願うものではあった。不思議な気持ちだ。憧れたあの光と、守りたいと願った光が目の前の幼女にあるということを。そして、ひとつの気持ちも浮かぶ。 「ところで、エィちゃんはこれからどうするッスか?」 「んーとね……おねえちゃんをラボにあんないして、そこからいろいろかな?」 「つまり、未定ってトコッスか?」 「そうともいうなぁ……てへへ」  顧菟は少しだけ考え込み……そして、微笑みを浮かべて、エィの頭を優しく撫でた。 「エィちゃん、もしよかったら……あとでお姉ちゃんと軽くお手合わせ、してみないッスか?」 「いいの?」 「もちろんッス! ちょっと、エィちゃんのお手紙を見てみたくなったッス! よければ、ッスけど……」 「ううん、とんでもない! おねえちゃん、すっごくつよかったしわたしもきになってたんだよー! えへへ、たのしみっ♪」  ぎゅっと顧菟の手を両手で握って、エィはとてもうれしそうに笑った。その手のぬくもりと小さな柔らかさに少しだけ困惑するけれど、悪い気はしない。だから受け入れて――引っ張られるままについてゆく。  ……なんか、これ……なんだろ。心がぽかぽかするッス  無邪気に先導するエィの背中は、なんだか大きく見えた。 烈風さん、二人の馴れ初めの物語…ありがとうございます!