ーーーーー ある施設の中。 部屋の中に一人の管理兼担当者が来た。部屋には小さな幼女が机に寝そべるように眠っている。 🩺「……。(一花ちゃん、がんばっているんだろうね。でもこんなところで寝てたら姿勢も悪いだろうし…)」 🍒「……えへへ………zzz……。」 一方の一花ちゃんはぐっすり眠っていた。机で微笑みながら眠っている様子。ふと…机の近くに置かれているファイルに目が留まった様子。 🩺「……うん?」 ファイルを持ち上げて、中身を捲る。 🩺「……これは一花ちゃんのデータファイルだ。久しぶりに見てみようかな。」 そう言ってファイルを調べる担当者。さてさて…データの中身はどうなっているのだろうか。 まず最初に目に飛んできたのは、一花ちゃんを作り上げた一人の男に関する記憶データだった。 ーーーー 【DATA1】 私はピサーロ。非力な旧人類の科学者。 異星人。奴等は私達旧人類と似た姿の存在。しかし奴等に血など通っていない。 奴等は私達の一族を皆殺しにした。私達はただ新たな故郷といえる異次元世界で生きたかっただけだった。 …それなのに、彼奴らは我々を不気味やら目障りだと罵り、終いには駆除と題して大量殺戮を目論んだ。 そしてその目論みはすぐに実行された。それは当に阿鼻叫喚の地獄絵図だった。 一族の皆は苦痛で泣き叫び、静かな夜は一瞬にして火の海と化した。 私は自らの非力さに苦しみながら、ただ建物を背に隠れていた。 そして火の手が来れば燃え盛る森の中を走り抜け、火の手が広がりにくい地面の窪みに隠れた。 やがて地獄のような夜が明けた。火の海は消えたが、周りには一族らしき者達の骸で覆われていた。 中には炭どころか灰にまでなる者まで。たった一日にして一族の大半が死んだ。 生きている者もいたが、肉体も精神も朽ち果て狂うように彷徨う者ばかりだ。まともなのは私一人だけだった。 私は泣き叫んだ。ただただ…非力な自分が情けなかった。 阿鼻叫喚の状況の中で…ただただ動けない癖に身体を震わせ、自らに危機が迫れば一目散に逃げた。 ……私はあまりにも臆病で軟弱だ。 私は自身の足に罪が縛り付けられているかのように、重い足取りで自らの研究所に戻った。 そして直ぐ様…機材や材料の確認をした。幸い殆どが無事だった。 私はふと…その材料の一つを手に取る。その材料はとても黒かった。漆黒のように黒い材料だった。 この材料…いや物質は、生物の肉体に突発的な変異を促すモノだ。かつて異星人と取引した際に手にした。奴等もどこかソレを手放したそうにしていたので案外容易に手に入った代物だ。 しかし本来この物質は保持すること自体、タブーに近いモノだと知っていた。だが私は今の今まで保管しておいた。異星人共には『危険性を憂慮して厳重に保存しておく』という言い分でだ。 異星人の奴等でさえ扱い切れなかった物質。奴等も手放したい程の代物。 ……私の中で黒い何かが蠢く感じがした。ドス黒い何かが心を埋め尽くしていく。 この物質を扱い切れれば…私は…。 自分の心が闇に染まる感覚が怖かった。しかし…それ以上に復讐心が煮えたぎる感覚が気持ちよかった。 早く復讐がしたい。復讐が待ち遠しい。 ーーーー 【DATA2】 昨日。私はある夢を見た。 それは私が幼かった頃に原住民達と遊んだ夢だ。なんとも懐かしい夢だろうか。 異次元世界。そこは原住民達にとっても我々旧人類にとっても唯一の居場所だ。 この地に来る前、私が幼少期の頃だろうか。我々旧人類は嘗て母なる星で生活を営んできた。そこは様々な自然が共存し、どの種族も平等に生きる星だった。 それは周りのどの星よりも美しく、どの星よりも住心地が良かった。 だがそんな我らの星を破壊せんとする者が現れた。我々はその破壊者の目的を打ち砕く為にあらゆる手を尽くした。 しかし現実は非情だった。我々の星は崩壊してしまった。 だが唯一そんな我々に手を差し伸べる者がいた。その者は神のような存在だった。 その者のおかげで私達はある場所へと送られたのだ。それが全ての悲劇の始まりだとも気づかずに。 そこは異次元世界だった。しかし当初は我らの母なる星とは異なり…大地は裂け、空は紫色に染まっていた。 植物も動物もいない枯渇した地。我々はそこで食料と水を得る為に歩き続けた。 ただただ歩き続けてどれほど経っただろうか。気づけば私達はある人々に出会っていた。 疲弊し過ぎたのかあまり覚えていない。だがそこで出会った原住民は、我々に手を差し伸べてくれたのだ。 私達はただただその手を握ることしかできなかった。それしか生きる術がなかった。 彼らは私達と非常に友好的だった。衣食住も与えてくれた上に、私達旧人類を家族とまで思ってくれた。 本当に嬉しかった。仲間達が生き生きとしているのが、思わずあの世にいるかのようだと感じる程だった。 しかしあれもこれも全て真実だった。 私達は原住民の人々に恩返しがしたかった。この地を更に住める星に変えるために。 ここからは非常に大変だった。だが原住民達の技術は非常に便利だった。実際彼らの技術は私が科学者になった要因の一つでもある程なのだ。 原住民達と我々の人手の多さによって、ほんの数十年で星は緑で生い茂る地へと変わった。 我々は喜んだ。我らの新たな故郷の完成だと。我々の繁栄は不滅だと。そう考えた矢先だ。 現れたのだ。嘗て手を差し伸べるフリをした神のような存在が。 そして奴が現れるが否や、あろうことか別の星より連れてきたのであろう異星人共を投下しだしたのだ。 投下された異星人共は折角、長い時をかけて我々が生まれ変わらせた地を突然侮辱しだした。そして無理矢理大開発を始めだしたのだ。 私達は理解できなかった。我々は原住民と共に奴等を止めようとした。 しかし奴等は大開発を続けた。今思えば奴等が現れたあの時点から、分かり合えなかったのかもしれない。 それから少しの月日が経った。そして…あの大量殺戮が始まった。奴等は我々がこの地にいることすらも目障りだと言い出したのだ。 我々は非難した。しかし奴等は言い続けた。やがて奴等は我々を虚偽の話ででっち上げるようになった。 我々の技術が、我々の行為が異星人共の危険を晒すと。そしてそんな虚偽の話を言い分に大量殺戮が行われたのだ。 ふざけるな。たかが奴らの勝手な感想で、私達の家族が奪われてしまったというのか。私達を大切にしてくれた彼らが。 もういい。私は知らない。寧ろ彼奴らを地獄に陥れてやる。もうそれだけだ。 ーーーー 【DATA3】 異星人殺戮を図る為、私は密かにある計画の準備をしていた。 自らの存在を変幻自在に変えられる究極生命体を完成させるという、新たな試みを。 しかしその試みには大きな欠陥があった。生物の肉体に突発的な変異を促す黒き素材ならあったのだがな。 先ずそれを作り上げる為のベースがない。私自身が生物を1から作ればいいだけの話かもしれないが、生命を己の手で作ることは大きなリスクを伴う。 そしてなんと言っても、それを1から作るためのDNAサンプルも材料もない。 少なくとも…その時の私は、究極生命体を作るというスタート地点にさえも立てていなかった。 私自身が材料を集めればいいだけの話だが、研究所の周辺には生命を完成させるほどの材料がなく、あったとしても十分なDNAサンプルが集う程の生物がいない。 後は私の仲間達の亡骸をベースとする方法だがこれは明らかに不可能だ。先ずこれに手を出せば間違いなく私は狂いかねない。その上に彼等の肉体は既に朽ち過ぎている。サンプルを取ったところで劣悪なモノしか得られないかもしれないだろう。 ならば後は周囲の虫や微生物、爬虫類を集める方法だろうか。だが仮に実行したとて集め切れる前に、私の寿命が先に終わり尽きるだろう。 他にも様々な方法を模索してみたものの、どの方法も合理的ではなかった。私の究極生命体を作るという目的は、私の夢に過ぎなかったのだろうか。 否、そんなことはなかった。 それはある日の出来事だ。私の研究所近くの荒れ地。嘗て私以外の旧人類達や原住民の者達が暮らしていた崩壊した跡地に、偶然にも幼子がいた。 酷く痩せ細って煤や土で汚れた幼き少女がだ。本来なら手を差し伸ばすべきなのだろう。だが私は別にしようとは思わなかった。 分かりきっていた。この幼子は私の憎むべき敵である異星人であることを。私は私以外の仲間達が死んだのをこの目で見た。そして亡骸を処理したのも私だ。 だから分かっていた。姿形も肉体的な特徴もほぼ全て、私達旧人類と酷似しているにも関わらずだ。最初は殺すにも面倒くさいと考え、無視を貫き通してやろうと考えた。 だがあの幼子は、いつまでも大声で泣き喚いていた。『パパ、ママ』とほざきやがって。私はそのパパもママもとっくに死んでいるのだ。そして私と同じ種や世話になった原住民の者達さえもだ。ふざけるんじゃない。 私は自らの苛立ちを抑えるために、泣き喚く幼子の頭を蹴り上げようと思った。だがやめた。これでは彼奴らと同じだ。 泣き喚く声がうるさいのを渋々我慢して、私はあの子供を家に連れていった。周りにはその子供の両親も、同じ異星人の種も居なかった。 私は先ず帰宅した途端にお菓子でもあげようと考えた。この手の子供はお菓子でもあげれば泣き止むだろうと考えたからだ。 その通りだった。幼子は泣き止んだ。だが最終的な結果は、私の予想の斜め上をいってしまった。その子供は私に懐いてきたのだ。そして私に甘えるように構ってきた。正直不愉快だった。蹴り飛ばしてやろうとも考えたがやめた。 原住民達が私達旧人類にしてきたことを思い出したのだ。彼らは何もかも失った幼き私達を助けてくれたのだ。だがその時の返しを憎むべき異星人のガキに、やらねばならないというのは皮肉にも程がある。 とはいえ苛立っても仕方ない。少なくともあの子供は友好的だ。少しは面倒を見てやるとしよう。 ーーーー 【DATA4】 私の元に異星人の幼子が来たものの、私はそもそも子供を育てたことなどない。ご飯や水は適当にやった。私が毎日食べているろくに味も調整されていない非常食をだ。 しかし彼女は美味しそうに食べていた。どうやら食事云々に関しては異星人共も私達旧人類達も然程変わらないようである。 とはいえ渡したのは決して美味しいとは言い難いモノだ。まあ酷く痩せ細っていた時点で食糧にありつける事自体奇跡に近いモノなので、不味いも何もないのではないかと言われれば、ないのかもしれないが。 だが食事を与え続けた結果、現在は普通に走れる程まで回復していた。子供の回復力には驚かせるものだ。 ふとある日の事だが、その少女は私に話をしてくれた。私は忙しいので軽く聞き流しただけではあったが。 深くは聞いてないが、彼女は私と同じく両親や仲間を失ったという点では境遇が合致していた。水も食糧も尽きていた状態で遠くから来たそうだ。 私は軽く聞き流す筈だったが、ふと疑問に思った事があった。『他の異星人共は手を差し伸ばさなかったのか?』と。だが彼女の話ぶりからして、『それは無かった』と考えざるを得なかった。 全く。同じ種である上に幼子に手を差し伸ばさない時点で、究極生命体というある種のタブーに触れながら復讐を企てる私よりも、血が通っていないようだな、彼奴らは。 まあ彼女は異星人共の中でも、運が良かったのだろうなと感じる。『彼奴らの敵である私に拾われた事以外は』だが。 それにしても、最近はどうもやる気がない。究極生命体を作成する為の素材は、私の推測以上に着々と集まってはいる。しかし、いまいちモチベーションが上がらない。 仲間達を失ってから然程時が経っていない事と、異星人の幼子が私の住処に居座るせいで、精神的に余裕がないのが原因だろうか。 …とはいえ、異星人の幼子に関しては私の責任だ。だが彼女は未だに私の服を引っ張っては甘えてくれと言わんばかりに無垢な目で見つめてくる。 無視しようと考えるも良心が痛む。私とて人間だ。彼女が異星人という敵種族とはいえ、あんな純粋無垢な眼差しを無視するのは少々心が痛む。 ……少しは構ってあげるとするか。 ーーーー 【DATA5】 あれから私は暇な時に限り、彼女に構っては遊んであげる事が増えた。私自身は彼女の事をなんとも思ってはいない。宿敵である異星人であることには変わらないのだ。 だがあの幼子と遊ぶにつれ、私の心はどこか前よりも丸くなったように思えた。今までは異星人の幼子など、適当に育ててしまっても問題ないとばかり思っていた。 しかし今はどこか違うのだ。どこか彼女を愛らしい存在だと思い込むようになったのだ。私は彼女に愛情が芽生えてしまったのか? …分からない。いや分かりたくない。 私は何度も彼女と遊ぶ度に、脳内で自問自答を繰り返した。 だが答えを出す前に。その日々は突然終わりを告げたのだ。 あの幼子は生まれつき身体が弱かった。肉体的な異常は見られなかった。どうやら私は見逃してしまったらしい。 前までは元気だったのだが、彼女が研究所に居候して一ヶ月後くらいだろうか。突然弱りきってしまった。 私は別に彼女が死んでも構わないと思っていた。それどころか邪魔で喧しい存在が消えるのだから、嬉しいとばかり感じていた。だが私は自らの意に反して、彼女にできる限りの手を尽くした。 彼女への情か。もしくは異星人共のような血の通っていない存在になるのが嫌だからか。 しかし、彼女は虚しくも死んでしまった。正直あの幼子が死んだ時は、嬉しいとも悲しいとも思わなかった。ただ、研究所が前の静寂した頃に戻ったとだけ。 私は淡々とその幼き亡骸を処分しようとした。だが一つの方法が脳裏に過ぎった。いや、一つの悪魔の囁きといったところか。それは『あの幼子の亡骸を究極生命体のベースとして利用してしまえばいいのでは?』と。 我ながら人の心を持たぬ事を考えたものだ。自分自身がまるで異星人共と同じ様に変わったかのようだ。本来であれば、このまま楽にさせるのが道理である。 しかし私にはこれしか方法が無かった。ベースとなるモノの確保など、この方法しか浮かばなかった。 仮にこの世界に神がいるのなら、私は間違いなく裁かれているだろう。だがやらねばならないのだ。 全ては復讐の為に。 ーーーー 【DATA6】 幼子は私に何度も『おじさんの為になりたい』と何度も告げてきたことがあった。私はその度に悩んだ。 あの幼子を復讐の為に使うべきかと。何度も悩み葛藤した。彼女は私の憎む異星人共に過ぎないのだが、彼女もまた彼奴らに裏切られた存在。 同情などしたくはないが、究極生命体のベースに使うのはやや抵抗がある。 しかしその程度で復讐を諦めるとでも? 否、断じてあり得ない。 私は彼女を元に遂に究極生命体の作成に移ったのだ。究極生命体のコードネームは『PZ-007 CEREZA(セレーサ)』だ。 あの幼子は度々、私にサクランボが食べたいという要望を語っていた。両親がいた頃の大好物だそうだ。正直あの幼子の願望などどうでもいい。 だが私は自分で言うのも何だが、何かにネーミングを付ける事が苦手だ。だからサクランボが好きという願望から名を付けた。究極生命体のコードネームとして採用したのだ。 今思うと何故、私は彼女がサクランボ好きであるというどうでもいい事を今でも覚えていたのかと何度も考え込む。 …気にしないでおくか。さてそれよりも準備といかなくては。 方法を端的に表すなら、あの幼子の亡骸に様々なエレメント(魔力や超能力の祖となるモノ)、そして例の『生物の肉体に突発的な変異を促すモノ』の2つを組み込む。 そして異星人共が開発していた『時間軸間転移ワープ装置』を基として、私が改良した『物質時間逆行装置』を使用。 幼子の肉体成長・生成プロセスを初期化。受精卵の状態に戻すのだ。 その後、『物質時間逆行装置』をリセットさせることで瞬時に受精卵を胎児の状態、最終的には死んだ幼子と同年齢の肉体状態まで成長させるという事だ。 『時間軸間転移ワープ装置』は異星人共が降り立つ際に発生させるエネルギー技術の一つだ。 まだ彼奴らと衝突していない頃に学んだ技術だったが、まさかこの技術を彼奴らへの復讐の為に使うとは思わなかった。 彼奴らが我々を嘲笑い虐殺するような真似をしなければ、こうはならなかった筈だ。これで彼奴らが亡き者へと変わるのなら、当に因果応報と言ったところか。 彼奴らの顔が青ざめる様子は私は楽しみにしている。 ーーーー 【DATA7】 セレーサの肉体は徐々に形成しつつある。現在は受精卵の状態から、胎児の形態へと移行している。 骨格や肉体は既に完成されており、通常の人間の胎児とほぼ同等の姿となっていた。 ふと私はこの胎児を見た際に、嘗て異星人共と開発した万能生物のプロトタイプを思い出した。 万能生物のプロトタイプは、成体の異星人の肉体を使用したモノである。異星人と旧人類である我々との兵器開発協定の礎として、新たな生物兵器を作成するプロジェクトが開始されていた。 生物兵器自体は完成した。破壊性と防御性に特化しており、リミッターを解除すれば小さな小惑星を破壊するレベルに匹敵する程だった。 だが肉体が予想以上に肥大化しており、更には当初予定していたコストを大きく上回るモノとなってしまった。計画の再実行を余儀なくされたものの、資金不足等からプロジェクトが凍結。 以降の素材や技術は、私のような当時のプロジェクトの参加者へと送られた。今思えばそれが彼奴らの最大のミスとも言うべきだろう。 だがこの素材や技術を見る度に思う。『既に私の手は汚れていると感じざるを得ない』と。 宿敵である異星人とはいえ、幼子を兵器として生成している現在、そして生命を離反した生物兵器を作り出してしまったプロジェクト。 私は天国には行けないだろうな。そして仮に生まれ変わったとしても、二度と人の世には戻れないだろうな。そんな気がする。 ーーーー 【DATA8】 セレーサはやがて本来の乳児の姿となった。培養液の中に小さな赤ん坊が漂う。 容姿はあの異星人の幼子と同様だ。だが正直な感想、元が愛らしいからか一概に悪い姿である気がしない。 …こんな事を思い始めている私は、あの頃から明らかに変わっているだろう。自分自身で気持ち悪いと思う程に。 それはそうと今日はニュースを見た。どうやら異星人共に謎の伝染病が流行っているというモノだ。 次々と日々日々に多くの異星人共が散っているらしい。 …私の復讐はどうなったのか?彼奴らが私の復讐を行う前に死んでいく。彼奴らがいなくなれば、その怒りと憎しみはどこにぶつけたらいいんだ? 私は戸惑った。私は何も考えられなくなった。だがそんな中、カプセルに映るセレーサの姿が目に留まる。 ……私は何のためにここまでしたのか?この幼子を強くする為か?幼子を生き返らせる為か?セレーサという新たな名を付けて。 この状況がただの杞憂として終わってほしい。さもなくば、ここまでやってきた事が全て水の泡となるだろう。 ーーーー 【DATA9】 遂にセレーサの肉体年齢が、通常の人間換算で5歳程度になった。 私は手早く臍の緒を切った後、培養液から取り出す。培養液から取り出せば、その時点で肉体成長が止まる。 つまりは寿命が尽きるまで、この肉体年齢を維持し続ける。老化することなく永久に保ち続け、寿命となれば全てが機能停止する。言うなれば不老だ。 私は取り出した後、すぐさま肉体等の機能確認をした。欠損や未発達な部位はない。成功した。究極生命体『セレーサ』の誕生だ。 だが喜ぶのはまだ早い。未だに彼女は目を瞑ったまま眠りについている。彼女の眠りが醒めた際に、能力面及び精神面、性格面等の確認としよう。 それまでセレーサは、生体保護用カプセルに保存しておくとする。 ーーーー 【DATA10】 今日はセレーサの能力面及び性格面の確認をした。 セレーサは非常に誠実かつ穏やか。年相応の天真爛漫な様子を交えた予測通りの性格だった。 またデータ上の確認では、身体能力面に関しては基準値を遥かに超える性能だった。当初の目的である肉体形状の変形及び、種族を超えた複数種の生物擬態も可能だ。 完全に私の願望通りの究極生命体ができた。我ながら本当に素晴らしい傑作を生み出したものだ。そう思える時があった。 だがそれは違った。唯一欠点と言える箇所があったのだ。慈悲に溢れ過ぎているという点だ。 確かにセレーサは様々な点において私の想像以上に卓越していた。だが唯一、破壊行為や殺戮行為に関しては躊躇が見えた。それも余裕があるから等ではない。 ホログラムで形成した偽の生物や無機質に対しての模擬破壊訓練の際、終了後に泣き崩れながら自らの行いを反省している様子があった。 また訓練前の精神状態解析の際に、明らかにに基準値を超える程のストレスを感知していた。 折角、能力が強大であるにも関わらず、破壊や殺戮への躊躇という致命的な欠点が発覚してしまったのだ。 だがこの程度であれば、前頭葉へのエレメントエネルギー付与で簡単に"是正"することが可能だ。 しかし、私には出来なかった。 そして同時に、彼女を兵器として運用していいのだろうかという考えが脳に過る。 あり得ない。そもそもあれは異星人の幼子をベースとして作り上げた究極生命体。言うならば生物兵器なのだ。感情や慈悲が籠もってようが関係ない。 …なのに、それなのに。 いつから私はこんなにも狂ってしまったんだ?いや、いつから私はこんな性格になってしまったんだ? 私は一体。 考えても何も浮かばない。もう寝よう。寝れば気が変わる筈だ。あんな究極生命体に愛情など持つ訳がないと。 ーーーー 【DATA11】 起きたものの、変わらなかった。依然として私は彼女へのエネルギー付与を躊躇してしまう。"何故か"出来ないのだ。 ふと私はセレーサを見つめる。 彼女は前々からそうだが、私に対して何かを思うような表情を浮かべることがある。 だが我慢しているのか、私の方を見ては悲しそうな表情を浮かべ、言葉を飲み込んでしまっているように見える。 私はセレーサに聞き出すも、彼女はただ『なんでもない』と言うだけだった。なら何故あんな表情を浮かべるのだ? セレーサは私に何か思う事でもあるのだろうか。まさか私が悩んでいることが… いや、断じてある筈がない。私はそのような事を表に出す性格ではなかった。顔に出すなどもってのほかだ。 …なのに何故? そういえば前に、彼女が何故か独り言を発していたのを思い出した。『手伝いがしたいのに、分かってあげたいのに』と。 私は気づかぬ間に、あの事を顔に出してしまったのだろうか? 私は… 私は見ず知らずのうちに、セレーサに愛情を与えていたと言うのか? 確かにセレーサは私の自信作だ。自身で言うのも何だが、私は彼女を大切にしてきた。常に健康面や精神面にも気を配った。 だがそれは彼女が、私の復讐を担う存在になる訳であり… いや、もう言い訳が出来ないかもしれない。ここまで断じて彼女への愛情を否定するのも馬鹿馬鹿しい話だと思えてしまった。 私は、私はもう、彼女を一つの生物兵器として見ることができなくなりそうだ。 もはや、一つの娘としか。 ーーーー 【DATA12】 あれから少し時が経った。 セレーサはいつもの通り、私の手伝いをしてくれる。彼女が完成して1ヶ月が経とうとしていた。 残念ながら後々聞いてみたが、彼女は幼子だった頃の記憶を完全に失ってしまっているようだ。 これは『物質時間逆行装置』の唯一の弊害である。物体の時間を巻き戻す事は出来るものの、その際に物体が保持しているであろう記憶は、パラドックスによる影響から完全に消去されてしまうのだ。 だからこそ彼女は幼子だった頃の名前も家族も、そして好きなモノも全て覚えていない。 だが私は数日かけて、彼女の記憶の大半を思い出させてあげた。いや、実際には記憶として叩き込んでおいたとでも言うべきか。 家族や異星人という知識は教えず、あくまで彼女の人格や人柄、好物や趣味嗜好のみを叩き込んだだけだ。 だが勘違いしないでほしいことは、これはあくまで究極生命体であるセレーサとコミュニケーションを簡易的にする為なのである。 愛情を育もうとも、仲良くなろうとも考えてはいない。そう決してだ。 ……この言い訳も何時までやればいいのだろうか。今回で最後にするべきだろうか。 それはそうと、私はセレーサの要望でカプセルから解放してあげた。私の性格も随分丸くなったものだ。 彼女の要望は『私の手伝いがしたい』というものだった。何とも親孝行の出来る娘だと改めて感じた。こうしてみると何とも愛らしい。 セレーサは私の手伝いをするたびに、嬉しそうな表情を浮かべる。完全に親と子の関係みたいだ。 自分でも言うのも何だが、もはや究極生命体というのが、ただの肩書きとしか思えなくなってしまった。 もう究極生命体ではなく一人の家族、娘として見ていたくなってしまった。 私自身正直おかしくなっている気がする。 だが正直、とても嬉しい。 私以外の旧人類達も原住民達も、全員死んでしまった。それ故に私は孤独の中で、ただ異星人共への復讐に身を投じては、ずっと耐え忍んで生きてきたのだ。 私にはもう仲間も家族も居なかった。だがそんな中で彼女は現れた。セレーサという唯一の存在が。 今思えば、あれは天からの贈り物だったのかもしれない。 この際は異星人の幼子がどうだとか、もはや関係ない。私の心の拠り所を埋めてくれる存在が、幼く愛らしい娘が側にいるのだ。 彼女の笑顔が私の研究にも日常にも、今まで無いに等しかった活力を与えてくれる。 血の繋がってない親子ではあるものの、ここまで私とセレーサは仲良くなれたのだ。もう復讐の為の憎しみも怒りも、今では克服できそうな気がする。 復讐よりも大切なモノが学べたからだ。 だが、あの娘の表情を見る度に、私の表情が穏やかになってしまう癖はどうにかしたい。 あれは正直、自分でやってて気味が悪いと感じてしまう。 …つい、熱くなってしまった。 久しぶりに愛情に触れたからか、気が緩んでしまったようだ。流石に冷静にならなければな。 ーーーー 【DATA13】 最近、異星人共のニュースがない気がする。何時もは彼奴らの電波を勝手に受信した上で確認しているのだが、最近はニュースどころか電波すら入らなくなった。 一時は故障かと感じたが、そうでもないようだ。私はセレーサを置いて外に出てみることにした。 本来足を踏み入れることがない、異星人共の中心街に向けてだ。 結果はと言うと、誰もいなかった。もはや廃墟と化していたのだ。 私がセレーサと一緒に遊んでいる合間に、ニュースの確認を劣っていたのが確認が遅れた原因ではあるが、一体どうしたのだろうか。 私は外の物質を調査してみた。結果は伝染病の菌だった。どうやらあの菌で彼奴らは絶滅したらしい。 とはいえ、アレで絶滅したとは言い難いはず。ならば他の星に移り住んだのだろうか? そういえば、ふと外に出かけた際に墜落したと思しき宇宙船が、いくつか転がり落ちていたのが見えていた。 まさかこの異次元世界から脱出を図ったのだろうか。 …だとすれば、ここにいるのも時間の問題だろうか。食糧や水に関してはまだ十分あるとはいえ、伝染病の危険性を憂慮すれば長くは居続けられない。 そして伝染病の菌が、我々にどう影響するのかすら分からない状況で、蔓延している地域から水や食糧を手にするなどもってのほかだ。 そう考えれば、他の星に移住しない限りは手に入れにくいだろう。 そんな時にふと、私の脳裏で小さく思い出した事がある。それはこの研究所の本来の使い道だ。 嘗てこの研究所は、異星人共が宇宙船として運用していたモノだった。生物兵器のプロジェクトを行う為に改良を施し、現在の形となったのだ。 そして私はこのプロジェクトが行われた場所を自らの本拠地とした。現在はプロジェクトを知っている者しかこの場所は知らない。 だからこそ虐殺をしてきた彼奴らも来なかった。私はこの場所を自身の居場所としても避難所としても使えた訳だ。 …話が逸れてしまったが、私はここである計画を考えたのだ。 この研究所を宇宙船として再改造し、それで空に飛ばすことを。多少期間がかかるが仕方あるまい。それに私の娘が側にいるだけで、私は何度でも立ち上がれる。 さて、取り掛かろうか。 ーーーー 【DATA14】 長らく経ってしまったが、宇宙船が完成し最終的には空に飛び立てた。 セレーサも宇宙の光景には、思わず目を輝かせながら見つめていたものだ。何とも愛らしい娘だ。 さて私達はここから移住可能な星を探す訳だが、そう簡単には問屋が卸さないのは十分承知だ。 だからこそ、先ずは周囲の星を確認した上で、緑がある星を目視で探そうと思う。 しかし、あまりに現実的ではない方法だ。だとすれば、どうすればいいのだろうか。 ふと、私はあることを思い出した。それは我々旧人類がいた母星だ。 あの星は確かに崩壊した。しかし私の推測上であれば、異次元世界とあの星が存在する時空間のサイクルが大きく異なると考える。私は敢えてこれを利用しようと考えた。 つまりは我々が異次元世界にいる間に、一つの星が生まれるまでの期間が空いている可能性に踏んでみた訳だ。 これもまた現実的ではないが、実際に異星人共のニュースで、異次元世界から脱出した上で他の星に移り住めた内容が飛び込んできたことがあった。それも異星人共が飛来する前には滅んでいた星がだ。 情報を鵜呑みにすることは良くはないとはいえ、何も事実がない今だからこそ唯一できる事だと感じている。 やるしかない。 悩むよりも手を先に動かすべきだと。 ーーーー 【DATA15】 私とセレーサは宇宙の真ん中にいた。宇宙船兼研究所が我々の星に訪れるのは、大体一ヶ月後の話だ。 食糧や水は十分にある。とはいえ仮にこの可能性に賭けたことが運の尽きであるならば、私達は諦めざるを得ないが。 セレーサに頼んだところで、セレーサができるのはあくまで一部の擬態のみ。水分も食糧もセレーサから取り出すなど考えられない。 仮にしたところでセレーサが先に死ぬだけだ。それでは私だけが生き残る事になる。私はそんな事をしたくはない。 私はセレーサと共に生きたいのだ。 そう生きたかったのだ。 ある深夜の出来事だ。 私はセレーサが眠ったかどうか確認するべく、宇宙船のコントロールルームから出て研究室へと向かった際に起きた出来事だ。 セレーサは何時も大体、同様の時間に就寝する。なので気にしなくてもいいとは考えていた。しかし何故か今日は胸騒ぎを覚えた。 何か言葉では形容し難い何かが。 そして私は研究室に着いた。 そこには、小さく踞るセレーサの姿があった。私は直ぐさま駆け寄ってセレーサの様子を診る。 呼吸が小さい。鼓動も弱くなっている。 まさかカプセルの外に出しておいたのが、いけなかったのだろうか? 私は直ぐにセレーサをカプセルの中に入れる。そしてカプセル内に備わっている生命維持システムを作動させた。 だがセレーサは弱りきったままだ。治る気配がない。ただただ苦しそうにしている。 くそ、何故私はもっと早くに気づいていなかったのか。ずっと後先の事を考えていた結果、セレーサの事などあまり考えていなかった。 完全に私の責任だ。 今思えばセレーサの願いを断ってでも、カプセルの中にずっと入れておけばよかったと、私は心から反省した。 しかしもう遅い。今は最善を尽くすのみだ。私はとにかくセレーサの身に起きた原因の究明に当たる。 だがこの臓器も筋肉も異常なし。なのにも関わらず機能が徐々に停止していく。 まさか寿命だとは言うまいな。寿命に関しては一番念入りに見た程だ。 だがそれ以外に原因が見つからない。 神頼みするしかないのだろうか? ただただ時が解決してくれるのを待つしかないのか? 仮に極悪人である私が、神に願ったところで無駄だろうが、私はセレーサの病態が安定することを願った。 どうか死なないでくれ。生きてくれ。 私の娘よ。 私を置いて行かないでくれ。 ーーーー 【DATA16】 …私は未だに手を尽くすばかりだった。 だが彼女を治すことはできなかった。時間が解決してくれもと思った。それもなかった。 セレーサは徐々に弱りきっていった。私は最後まで原因究明に当たった。でも何も見つからなかった。 強い不安と焦燥感に駆られた。だがそんな中でも唯一慰めてくれる者がいた。 セレーサだ。 彼女は自らが一番苦しいのを知っている筈なのに、敢えて私を慰めてくれたのだ。 『わたしは大丈夫だよ。そばにいるよ。』と。カプセルの中から微笑んでくれた。 お前が一番苦しいのは、私が一番理解しているのだ。そんな目で見つめないでくれ。 慰めたい気持ちは分かる。でも。 私は何もしてあげられないのだ。治療も何も。ただ神に頼むしかないのだ。 究極生命体を作った私への神からの裁きだろうか。やはり究極生命体を作るという思想そのものがいけなかったのか。 だが、せめてでも彼女だけは生きてほしいのだ。私はどうだっていい。 彼女は何も悪くはないのだ。どうか彼女への慈悲を与えてやってくれ。 私が頼むこと自体が、間違っているのかもしれないが。 ーーーー 【DATA17】 …あれから何が起きたか、 正直あまり覚えていない。 ただただ心が痛い。 セレーサは自らの最期を悟った様子でいた。消えそうな程微かな声で私にこう言ってくれたのだ。 「わたしを育ててくれてありがとう」と。 やめてくれ。 お前も行ってしまうのか? 家族も仲間も消え、私にはもう何もないと思っていた。だがこうして折角手にした貴重な娘がいたんだ。なのに。 これ以上、私から奪って何になるというんだ? お願いだ。やめてくれ。 そう思う時があった。 だが彼女は、その言葉を残してこの世を去った。幼き命が目の前で消えたのだ。 彼女はよくよく考えれば、異星人の幼子だった。究極生命体だった。本当は死んでもショックを受ける事などないとばかり考えていた。そして死ぬ事もないと。 だがそれに直面した時。 何故か私は泣き崩れた。心があまりにも痛かった。 ただただ心に大きな穴が空いた。大切なものを失った。その感情だけが残った。 私の脳裏に、セレーサといた頃の記憶や感情が去来する。一緒に食事をして会話をして、寂しい時は私が側で寝かしつけた事もあった。 何もかもが懐かしかった。何もかもが嬉しかった。なのに。 『私のことを唯一愛してくれた娘を失った』その事実だけが私に突きつけてきた。 私はここまでセレーサに、親子としての情を抱いてしまったと言うのか。 私には何も残っていない。復讐も愛情も全部失った。そんな私の目の前には大きな星があった。 遥かに蒼い生命の星だった。 私の憶測通りだった。今ではここに今を担う人類がいるのだろう。所謂、新人類が。 私達旧人類は、この私の命を以て消え去るだろう。でも私には何も残っていない。何もないのだ。 新人類と共存を図りたい気もしない。どこかの惑星に飛んだのかも知らない異星人共への復讐の情も今はない。 ただただ悲しい。 ただただ切ない。 ただただ恋しい。 ただただ苦しい。 もう私は。私は。 生きる術を失った。 だが最後にせめてでも、あの蒼い星に着陸しよう。セレーサや私が夢見た星の光景を。 生き返った星の光景を。 ーーーー 【DATA18】 宇宙船は着陸態勢にかかろうとしていた。セレーサはカプセル内に放置しておいた。 私には、直ぐに彼女を処理することなどできない。着陸するその時もその後も、私は彼女の顔を見ておきたいのだ。 だからカプセルに備わっていた、肉体状態を死後直後の状態に保ち続ける機能を押しておいた。 だが、カプセルは内部の生命反応が切れてしまうと、一定期間後に完全停止するようにプログラムされている。 カプセルの機能が完全に停止するのは、カプセル内の生命反応が消えて一ヶ月後だ。 もし仮にこのメッセージを見ている者がいるのならば私は伝えたい。 もしこの究極生命体を。私の娘を世に出したいのならば、中央のスイッチを押せ。 そうすればセレーサは時間逆行で蘇るだろう。しかし今までの記憶は消えている筈だ。 私との記憶も何もかも。 …今思えば、セレーサが異星人の幼子だったあの時から、大切にするべきだったと悔やむ。 憎むべき異星人共、しかしその幼子というのはどんな存在であれど、愛らしいに他ならないのだ。 それに彼女は私と同じ、異星人共を憎んでもいい存在だった。彼女は異星人に捨てられた存在なのだから。 なのにもかかわらず私はしてしまった。 究極生命体を作って数ヶ月が経とうとしているのに、今でも思うことがある。彼女を実験体として使うべきじゃなかったと。 最初から親子の関係として、快く受け入れていれば、もっと長く楽しく暮らせた筈だったのだ。 …今更後悔しても遅い。それにこの切っ掛けがなければセレーサはいなかった。彼女は死んだままだった。 私はどうすればよかったのだろうか。 …宇宙船に異変が起きた。 着陸態勢への変形に不具合が生じたらしい。結果、今から宇宙船は急加速し不時着する。 軌道からして海へと落ちると推測する。 これは最後のメッセージとなるだろう。そして本来は今にメッセージを残すべきではないのだろう。本来は焦るべきであって、何か策を練ればいけないのだろう。 しかし今は何故か落ち着いている。何故か死に対する覚悟が芽生えていた。 …私が死んでも、同じ場所には行けないだろう。 だが私は、お前が一人楽しく天国暮らしていれば、もうそれで十分だ。 たとえ元の姿であってもいい。異星人であってもいい。もうそれで十分なんだ。 愛してる。 私の娘、セレーサ。 どんな姿であろうと。 どこに居ても。 私の事を覚えていなくとも。 決して私の想いは変わらない。 ーーーー 【調査レポート#1xxx】 こちらxxx-7。 私達は現在、不時着したPZ-02号の内部調査を終えた。 PZ-02号の内部に危険物等の反応なし。武器等の反応なし。 生命反応に関しては、1つ目に一人の身元不明の遺体を発見した。男性だと思われる。 そしてもう1つ目は内部の研究データに記載されていた究極生命体『PZ-007 CEREZA』の存在を確認。 こちらからの指示で時間逆行装置のスイッチを起動。PZ-007 CEREZAの生命反応を確認後、カプセルから解放。 PZ-007 CEREZAは受け答えが可能。こちらの会話を理解し、声を発することが可能。また身体的な外傷は一切なし。こちらに危害を加えるリスクもなし。 よってPZ-007 CEREZAを保護対象とし、速やかに当生物保護センターでの監視対象とする。 尚、倫理的側面より実験対象とはせず、確認ができ次第、監視状態を課した上で人間と同等の生活を営む権利を与える。 監視期間は一ヶ月間とし、監視期間時に何かしらの影響がない場合は、通常の人々と同等の扱いとし処理する。 追記: 当施設での保護終了後、PZ-007 CEREZAには別名を与えることとする。 現在の候補名は、天女目 一花(なばため いちか)のみとなっている。 こちらはデータの断片より入手した情報である。恐らく開発時にセレーサとは異なる名を付けるつもりだったのではと推測する。 仮に他の候補がない場合は、この名前をPZ-007 CEREZAの正式な名前とする。 ーーーー ………。 一花ちゃんの担当者はゆっくりとデータファイルを閉じた。思わず涙が溢れた。一花ちゃんに会う前から、何回かファイルの内容には目を通している。 だが、なかなか慣れないものだった。何度も目を通した事があるものなのに。 🩺「(……お父さんと一花ちゃん。久しぶりに見るけど…やっぱり慣れないな……。)」 ファイルを元の場所に仕舞おうとする担当者。すると…人に気づいて起き上がる一花ちゃん。少しだけ眠たそうにしている様子。 🍒「………あれ?あっ…担当者さんどうして?」 🩺「あっ、ごめんね。大丈夫だったかな…?」 🍒「あっ、いえいえ…大丈夫ですよ!…ってそれよりも、ハンカチ入ります…?」 🩺「ううん、大丈夫。それよりも急に起こして悪いけどさ…。」 🍒「いえ…!大丈夫です!むしろちょうど起きなきゃいけない時間だったので!」 🩺「そうなんだ。そういえば一つ質問なんだけどさ。……やっぱり一花ちゃんは、あの頃の事は覚えてはいないよね…?」 🍒「あの頃…?」 🩺「一花ちゃんのお父さんのこととか。」 🍒「……いえ、全く覚えていないです…。お父さんの事も何も…」 🩺「そう…(やっぱり記憶は取り戻せないか…)」 🍒「でも、今でもこのデータを見る度になんだか懐かしいなって思うんです。なのにお父さんと遊んだことも一緒にご飯を食べたことも全く覚えてません。 お父さんの顔も話し方も。何もかも。 …なんか不思議ですよね。 でもこのデータを見てると、わたしって、お父さんからいっぱい愛されてたんだなって。お父さんの心を変える存在になれたんだって…そう思うんです。」 🩺「…そうなんだね。」 🍒「はい…!あ…でも正直、お父さんはちょっと素直じゃないなって感じます…!(……大好きってちゃんと言えばいいのにって、何度も思ってしまいますけどね……!)」 🩺「ははっ…そうなんだ。」 🍒「……だけどお父さんは、わたしを本当に究極生命体として見てた訳じゃなくて、本当に娘として見てくれたんだなって。話を聞いてるとそう感じるんです。 それだから度々思うことがあって…。……どうして最後にお父さん、あんなに後悔しちゃったんだろうなって。」 🩺「……。」 🍒「わたしは、もともとお父さんがわたしを復讐のために作ったからあんなに後悔したんだろうなって感じます。 でもそれだけじゃない気がするんです。 お父さんはきっと、わたしを究極生命体としてじゃなくて、家族としていっぱいいたかったから、あんなこと言ったんだろうなって。 一分でも一秒でもずっといたかったからって。そんな感じに見えました。 だからわたしを究極生命体として作ることも後悔してしまったんだろうなって。だけどわたしが究極生命体になれなかったら、あのままずっと死んでしまっていたままでしたし…。 ……。 だけどわたしは、究極生命体でよかったと思います。 わたしは確かに、異星人の皆さんへの復讐のために生まれた存在だったのですが、それがきっかけでお父さんは、それ以上に大切なことを学べて、変われたんだろうなって。 この機会がなかったら、きっと学べるチャンスも変われるチャンスも、何もなかったかもしれませんし。 …それに正直わたしは、お父さんとの記憶も全部消えちゃったのに、それでもどこかにお父さんとの家族の愛があったからこそ、すぐ人を愛することを思い出せたのかなって。 こうして皆さんと楽しく話せて、施設の皆さんとも繋がれたのも。 全部お父さんのおかげだって。そう感じるんです。」 🩺「……なるほどね。」 🍒「………私はもしも、もしもお父さんが生まれ変わってて、また会えたら…恩返しがしたいなって思ってます。」 🩺「恩返し?」 🍒「はい。あまりにも現実的じゃないですよね。すみません…。自分でも何言ってるか正直分からないです…。 お父さんはもういませんし、もし会えたとしても、人じゃなくて違う生物として、生まれ変わってるはずですから…。 あの頃の記憶だって、生まれ変わっているのなら、確実に覚えていないはずですし…。 混乱すると思います…。 だけど。 だとしても。 もしまた会えたら。どこかで生まれ変わっていることに気づけたら。 真っ先に会いに行って、伝えたいなって思うことがあるんです。 『わたしを育ててくれてありがとう』って。」 ーーーー 𝑭𝒊𝒏 ーーーー エンディングテーマ曲: https://youtu.be/fw4W5puUZk0?si=XDOEzeHtvNeOkwzo (非公式和訳歌詞) https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22081476