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無名の胎児

アブノーマリティ記録 胎児の姿をしたアブノーマリティ。 その肌は粘着質な液体に覆われ、うっすらと静脈が多数浮いている。 異常に膨張した目は普段は閉じられている。 常に欲求不満のように見えるが、何を求めているか正確には分からない。 それは『餌』に強く執着している。 定期的に『餌』が与えられないとそのストレスレベルは急激に上昇する。 あるレベルに至ると、周囲の人間の精神に危害を加える大声で泣き始める。 <インタビューログ #2-49からの抜粋> 職員F2706: あれが笑みを浮かべるのを見たことがありません。 いつも何かを欲しがっているようですが、それを満たすことはできません。 満たされない欲求が強いためか、その泣き声も非常に破壊的になるのだと、私は思っています。 私が新人の頃、先輩は誰も『餌』が何であるか教えてくれませんでした。 結局のところ、酷く気持ち悪いことを除けば、あの化け物は赤子と変わりありません。 小さな子供が飲むようなミルクか何かだと思っていました。 しかし見た目とは違って、あれは人間の肉しか食べません。信じられますか? 泣くのを止めるために、私たちは毎回くじを引かなければいけない。 これが何を意味するか分かりますか? <観察ログ1-431> 無名の胎児に『餌』を与えると最初に聞いたとき、スプーンで与えるように食べさせるのかと思った。 それは弱々しくて何もできないように見えたし、口は全く未発達だった。 それが肉を食べると分かった時には、誰かが噛んで柔らかくする必要があると思った。 私がそのことについて同僚に聞くと、彼は笑って言った。 「いや、そんな馬鹿げたことはしないよ。ただ餌を置いて立ち去ればいいのさ。」 だけど、私はそれでも、赤ん坊がどうやって物を食べるのか考えていた。 社食でも出されていないような柔らかいステーキでも出すのか? 好奇心から、私は給餌作業を隠れて覗くことにした。 作業にはランク3以上の職員しか割り当てられないが、誰かの代理だと偽って参加することができた。 そして、私は恐る恐る見た。私の嘘には、それだけの価値があっただろうか。 数人が大きなビニール袋を持って現れた。そんなに食べるのか? そして彼らが袋を開いたとき、私は恐怖に呆然とするしかなかった。 人間の死体だったのだ。 そして、赤ん坊はそれを食べた。 どうやって? 思い出したくもない。 子供の胃のあたりに大きな傷があった。……本当に傷だと思っていたんだ。 巨大な花のように、腹が開いて、粘液が滴った。それは世界で最も貪欲な生き物だった。 その夜、私は菜食主義者になった。 私はパウリー。2日前からロボトミーの仕事を始めた。 両親は、こんな大企業に入社したことをとても誇りに思っているし、友人は私を羨ましがっている。 今はミスしてばかりだが、いつか同僚と同じくらい仕事をしてみせる。 私たちの会社には職員専用の特別なイベントがある。 このイベントがいつ、何のために開催されているかは誰も知らない。5年間勤めている同僚でさえも。 イベントが始まると、すべての職員の名前が書かれた巨大なルーレットが回転する。 誰もが作業を中止して、ルーレットを見つめ、誰が選ばれるのかじっと見守る。 誰が選ばれるのかは分からないが、それが誰であろうと、非常に幸運な人だ。 当選者の家族には想像を絶する大金が与えられ、当選者は昇進した後、別の支部に移る。 それは「中央本部」と呼ばれている。 中央本部では、アブノーマリティによる被害に苦しんだり、死んだ同僚との別れを悲しむ必要は無い。 私の上司の[削除済]は自分が当選することを切望していた。 最近、彼の父親は事故に遭い、その治療に大量のお金が必要だった。 私はルーレットが[削除済]を選ぶことを心より願っている。 ルーレットが[削除済]の名前を選ぶと、私は心から彼を祝福した。 しかし、彼は幸せそうに見えなかった。 彼は周囲の人々と抱擁を交わし、感極まったのか泣いていた。 彼は涙を流れるのを抑えながら、何とか笑みを浮かべ、私にさようならと言った。 それ以来彼の姿を見ることはなかった。 私は彼が今よりはるかに良い待遇と賃金で働いていると信じている。 しかし、私が彼について話をしようとすると、皆はすぐに口をつぐみ、首を横に振る。 まるで私が何か言ってはいけないことを言ってしまったかのように。 彼が私にくれた最後の言葉がまだ忘れられない。 「いつの日か君も知るだろう。ルーレットが回転したとき、彼らの表情に浮かんだ絶望の意味を。」 管理人は、具体的要因なしで職員を対象に特別なイベントを開催する権利があります。 イベントが始まると、巨大なルーレットが回転し、職員の名前が1つ選ばれます。 選ばれた職員は昇進し、他の支部に異動します。(詳細は下記参照) その家族は年金を受け取ります。 イベントを開催する管理人の権利は誰にも侵害されません。 下記は、一般の公開を厳重に禁じられている情報です。 【イベントが開催される条件】 ― データ非公開 ― データ非公開 ― 無名の胎児の泣き声がピークに達したとき ルーレットは以下のいずれかの条件を満たす職員を選択します。 会社の目的に疑問を持つ者 アブノーマリティを無許可に実験した者 アブノーマリティについて過度の好奇心を持ち、無許可の観測を実施または計画した者 身体的または心理的な損傷のために働くことができなくなった者 ※「無許可」とは、「会社またはアンジェラの許可の無い状態」を意味します。 ― 選ばれた職員に対して下記が実施されます 職員に関する会社の記録の削除。 職員はアブノーマリティのための犠牲になる。 職員の家族に、別の支部に異動されたことを知らせる。