ハロルド・ディスターが書き残した物語、「魔王物語」。 3章まで書き上げることが出来たものの、ついに終章を書くことが出来ぬままハロルドは息絶えた。 ーーーーーーーーーーーーーー 『この花、本当に貰っていいの?花の絵を描いてたんじゃないの?』 『好きにしろ。気が変わったところだ』 『じゃあ有難く貰っていくよ』 『やあ。何か書いてるの?見せてよ』 『勝手にしろ』 『ぱらぱらっと』 『面白いだろ』 『うん。特にこの広がる白さが』 『今から書くんだよ。出てけよ』 『で、なんでこんな穴ぐらの中に住んでるのさ』 『出てけよ』 『やあまた来たよ。話の続きが気になって』 『白紙の続きがか』 『いいことを思いついたんだ。ぼくが話のネタを提供してあげよう』 『あいにく物語はすでに俺の中にある。他人の手を借りる余地はない』 『まず第1章は、そうだね。高いところを目指して登る話ってのはどう? ぼくをモデルにしていいよ』 『どんなずうずうしさなんだあんた』 『じゃあぼくの体験でも話そうか。あれはどこだったかなぁ。大陸の……』 『勝手に話せばいい。俺は聞かないが』 『やあ久しぶり。見せてよ』 『ほらよ』 『すごい。白くない。……塔に登る話にしたんだ』 『感想はいらない。俺は他人に見せるために物語を書いているのではない』 『じゃあ何のために物語を書くんだい』 『さあ、なんとなくかな』 『じゃあぼくが唯一の読者ってことか。それはそれで嬉しいかな。 今回も勝手に話していいかい』 『ああ、是非、勝手に話してくれ。俺は聞かないが』 『ぼくの知り合いでアイリッツという奴がいるんだ。 これがまた悪人だか善人だか分からないやつでさ……』 『やあ。何か痩せた?』 『べつに』 『2章は海の話にしたんだ。この話の主人公悪人系?てかアイリッツだよね』 『誰だ、それは』 『うわ、ずるい。敵は白い鯨かぁ。この鯨の白さは善を象徴してるとか、 それをダークな主人公が打ちのめす、人間のあり方を問うテーマなのかな』 『何か強そうな敵を、主人公が倒す。それだけだ。解釈は勝手だが』 『適当だなぁ。そういえば、赤ちゃん生まれたよ』 『おめでとう。誰の』 『前あんたから貰った花、安産祈願ですってそこの村の妊婦さんにあげたんだ。 女の子だって。赤ん坊にはあの花の名前をつけるそうだ』 『安産祈願の花だとは知らなかったな』 『ぼくもだよ』 『適当だな』 『勝手な解釈でも誰かが幸せになれればいいんだよ』 『そうだな』 『じゃあ今回も独り言で色々話していこうかな』 『ああ、そうしてくれ』 『僕の知り合いにフロドナってやつがいるんだ。 こいつが、それはそれは巨大で頑丈な奴で……』 『やあ、また来たよ。また痩せたね。3章は……あれ、まだ殆ど書けてないじゃん』 『悪いな。いまいち筆が進まなくてな』 『まあ無理は禁物だね』 『ただ問題があってな。俺の余命が幾ばくもない。もってあと10日かな』 『じゃあ無理しないとね。完成するの?』 『完成させる。残るは3章の竜の話。そして終章だ』 『終章はどんな話なんだい?』 『終章は……』 ーーーーーーーーーーーーーー 「魔王物語」は星空の中でヒマリたちを待っていた。 彼女達が近づくと、「魔王物語」は物語の敵役を呼び出してヒマリたちに立ち向かう。 第1章。「塔の悪魔」がヒマリたちを誘惑する。 第2章。「白鯨ゼルガイゼル」がヒマリたちを押し流そうとする。 第3章。「竜」がヒマリたちに容赦なくブレスを吹きかける。 その全てをヒマリたちが押しのけると「魔王物語」はついに魔王を顕現させた。 ヒマリは「魔王物語」に対峙し、己の物語を握り締めながら剣を向ける。 「あなたが魔王を名乗るのならば 我々は剣を取り、英雄を演じてみせましょう!」 「魔王ハーディス」に剣を向けているのはヒマリではなかった。 ヒマリは1章の英雄、セラを演じる。 ルドルフは2章の英雄、ランドルフを演じる。 姿の無い3人目は3章の英雄、ツィーリアを演じる。 ルドルフの持つフロドナの剣は伝説のドラゴンスレイヤーへと変わり、 姿の無かった3人目の姿は、まさに英雄の余裕を持つ笑みを浮かべた好青年へと変化した。 そして「魔王物語」の結末は…… ーーーーーーーーーーーーーー 『終章は1章、2章、3章の英雄達が強大な魔王と戦う。 その強大な魔王というのは、俺だ』 『あんたかよ。でも、ワクワクするね。ぼくを含む3人と、あんたが戦う訳だ』 『お前らが英雄と呼ばれるのなら、俺は魔王を名乗り全てを滅ぼしてやろうじゃないか。 現実の俺はこんな体だが、空想の世界なら、お前らなんかひとひねりだ』 『じゃあ、残り少ない時間を邪魔しちゃ悪いから。10日後に、また来るよ』 『ということは、これで最後になるな』 『あ、そうだ。10日後の話だけど。きみの物語を「流し」てもいいかい』 『勝手にすればいい。ところで、何だ。「流す」って』 『川に流す、だけ』 『本はどうなるんだ、それ』 『さあ。途中で沈むかもしれない。大陸に辿り着いて、誰かに拾われるかもしれない』 『ああ、それは面白いな。どうなるか分からないあたりが面白い』 『気に入ったみたいだね。じゃあ10日後に。結末を、楽しみにしているよ』 『あっ、最後にひとつ。その物語の結末では、どっちが勝つんだい?』 『秘密だ。結末が分かった物語なんて、面白くもないだろ』 『それもそうだね。まあ終章でのぼく達の頑張りに期待するか』 『せいぜいあがけ』 『簡単には負けないよ』 『俺だって』 『絶対、完成させてよね』 『当たり前だ』 『ああそうだ、最後に。この物語の題名を教えてよ』 『ああ、まだ決めてない。折角だから、あんた考えてくれ』 『これは重大な役割を背負っちゃったな。 じゃあ、終章にちなんで、 「魔王物語」 ―― 』