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【希望の勇者】アイ

元の名前は立花アイ。16歳の時まで内に秘めた禁忌を隠しながら、天性の才能で完璧無敵の超人を装って過ごしていた。 ある日弟と共に異世界に勇者として召喚され、それに彼女は歓喜した。地球社会における倫理が不要な場所である異世界において、彼女は内に秘めた愛を惜しみもなく”弟”へ向けることが可能になったのだ。 弟は普通の感性をしていたが、異世界という特殊な環境、自分のために命を張って戦う姉を見ているうちに惹かれていき、やがて2人は結ばれた。 2人は仲間を集めながら力をつけてゆき、遂に魔王と対峙する。激戦の中、魔王は己の野心を昇華させ、魔王として完全になりアイを圧倒する。そしてアイに向けて放たれた一撃を弟が代わりに受けた。震える手で弟を抱きしめたアイは最後の言葉を交わし、そして弟は息絶えた。弟を失ったことで魔王を倒す物語から弟と再び出会う物語へと【運命循環:愛】によって捻じ曲げたアイは勇者として完成し、人類の希望を集約した聖剣アイリスで魔王を一撃で葬り去った。 魔王を倒した勝利の歓声が響く中、弟がいない世界など既にアイにとっては苦痛でしかなかった。 地球への帰還後、アイは両親に包み隠さず全てを話した。異世界への召喚、地球社会における苦悩、弟を失った悲しみ。数年越しの娘が語る荒唐無稽な話を遮りもせず聞いた両親はただ、おかえりなさい、よく帰ってきたね、と抱きしめた。 包まれる温もりに確かな愛を感じて、アイは内から溢れる涙と共に恋愛以外の親愛をようやく理解することが出来た。そしてアイは家族という唯一大切なものを手に入れ【魔王】として覚醒した。 その後、弟ともう一度会う方法を探しながら、地球を襲う厄災や悪意を全て跳ね除けていった。 身に秘めるチカラから多くの国や人に狙われ、とても平穏とは言えない日々ではあったが、両親との日々はそれなりに幸せであった。いつしかアイの見た目は変わらなくなっていた。 勇者と魔王を手に入れ、既に亜神と成っていた彼女に存在限界は悠久の果てにしかない。 叶わぬ願いを抱いて足掻く度に傷つく彼女に両親は痛ましいものを感じながらも、決してアイの頑張りを否定することはなかった。 やがて両親は共にこの世を去った。アイと弟にまた会えるのをお父さんとずっと待ってるわ、と言い残して。 両親の死に嘆き、それでも止まることはせず、彼女は世界を救い続ける。いつか最愛の弟と再び巡り会うために。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 人の蘇生は全知全能の存在でも不可能な事象であり、世界そのものであっても叶えることは出来ない。 故に叶えられない願いを叶える対価として、"叶うことがないように"アイは果たすことの不可能な「宇宙全体の全生命の守護」が契約として課されている。