この世には現世では到底理解できないような空間が確かに存在する その名を混沌世界 ソレが現世よりはるかに大きく、大量にあると言うのだから、全く気が遠くなる話である 【混沌世界 第?層】 「…………」上下も分からなくなるような真っ暗な闇の中で、ソレは産まれた 「…………」混沌世界ではごく稀に"生物に限りなく近い超常現象 "が突如として発生する、これらは決して生き物ではない、天井の木目がたまたま人の顔に見えるように、耳元を通った風がたまたま誰かの声に聞こえるように、これらもただ"たまたま"が幾重にも折り重なり、生き物のように見えているだけなのだ 「…………」あまりに突然の事なので当の本人もまだ自分が産まれたことに気づいていないようだ そして万を超える月日が経つ 「…………!」ようやく気がついたようだ、いや、気がついてしまった 「…………」生物に限りなく近い超常現象…長いので混沌生物とでも呼ぼうか、混沌生物は皆、産まれ意志をもっと、ある方向に向かって移動を始める 「…………」なぜそうしているのかは自身でも分からない、だが、そうするべきだと肉体が、精神が言っているのだ 「…………?」しかし、気軽に移動を許すほど混沌世界は甘くは無い 「…………」混沌世界は所謂"常識の通用しない世界" 彼が産まれたような方向感覚を失う闇の層があれば、死んだ方が楽な痛みを常に味わい続ける層や精神と身体を無理矢理分離させる層などなど… まるで"混沌生物がある場所にたどり着くのを阻止しようとしている"かのように混沌世界は広がっている 「…………」だが混沌生物もただ翻弄されるだけでは無い 「…………!」向かうべき方向は分かる、だが環境がそれを邪魔する、ならどうすればいいか…簡単な話だ、耐性を付ければいい 「…………」身体が環境に慣れるまで、精神が環境を克服するまで、何年も何千年も何万年も、何度も何度も何度も何度も… 「…………」生物が何世代もかけて克服するような行為を、ただ己が身一つだけで 「…………」 1つ層を克服すればその分強くなる 2つ克服すればその倍 3つならまたその倍 足し算ではダメだ 掛け算でなければ適応能力が環境の変化に追いつかない 「…………」幾千万の年月がたった頃、混沌生物にふとした違和感が湧く 「…………」似ているのだ、自身がわけも分からず、ただ肉体と精神に任せて目指した、あの場所に、"現世の法則"に 【混沌世界 第5層】 「…………」まず初めに視界に捉えた現象と実際に起きている現象の差が無くなる 【混沌世界 第4層】 「…………」次に重力を正常に感じる 【混沌世界 第3層】 「…………」音と電波により五感を感じるようになる 【混沌世界 第2層】 「…………」"現世の生物"に限りなく近い超常現象が活発に発生している 【混沌世界 第1層】 「…………」現世との差はほとんど無くなる 「…………」ああ…やっとだ…一体いくらの年月をかけたか…違和感の正体もやっと分かった、あれらの層はあの場所へと行くまでの"慣らし"だったのだ…ここに来てなぜ自分はあの場所に行きたがっているのか分かった、ようやく…ようやくだ…ようやく現世を"堕望"に落とせる 「!!!!」混沌生物が混沌世界と現世の境目にヒビを入れ、現世に侵入した…いや、現世に帰ってきたと言うべきか "記念だ、名前をつけよう そうだな…"イッカクガミ"なんでどうだ、"私が授けたもの"にも似ているし、洒落ているだろう? ん?お前はなぜ混沌世界や混沌生物の全てを知っている上に混沌生物の名付けまでできるのかだって? はっはっはっ、面白いことを言うじゃないか そんな事が出来る者なんてひとりしかいないだろ? ■■■■だよ、この事は忘れなさい" 「!!!!」混沌生物が混沌世界と現世の境界にヒビを入れ、現世に侵入する、辺りには何も無い空っぽの宇宙が広がっている 「…………」混沌生物が現世にどんな影響を及ぼすつもりなのか、"堕望"とは一体何なのか、知るものはいない 「イッカクガミ……」混沌生物は現世に現れると必ず、不可解な単語を発し、それを自身の名前とする 「…………………」少しの静止の後、ゆっくりとその身体を動かし、現世の環境に適応していく、そしていつか自然が彼を地上に降り立たせる時まで、じっと待つのだ 識別ナンバー:18782番 授物ナンバー:OT9-大角 個体名:イッカクガミ "最も堕望に近い混沌生物"の誕生である