涙を己の武器にしてはどうか。 その怪物は突然現れた白い仮面の女から提案を受けた。 涙を武器にとは、何と呆けたことか。 泣き落としでもしろというのか、そう聞き返した怪物に白仮面は不敵に笑うと、自分へ力を注いでくれた。 涙は飾りではない。 それは時として相手を不安にさせる武器であり。 それは時として己を守る防壁であり。 それは時として己の負った傷を癒す消毒液にもなる。 白仮面はそう言い残して去った。 怪物は女の言葉を理解しなかったが、己の内から湧き上がる確かな力に自信を得た。 それが己の正常性を著しく毒す害悪とは知らないまま、怪物はその力を行使し始めた。 「……この程度、障壁にもならぬか」 怪物を倒したワンダーランドの来訪者を見ながら、キツネは呟く。隣で倒れていた怪物の回収を完了し終えたキツネは不敵にほくそ笑む。 「どんな大罪があなたに似合うのかしらね。 絶対的な勝利を誇示した傲慢さ? ありとあらゆる強度を入れ込む強欲さ? 他者を羨み、緑の炎に駆られる嫉妬心? 憤怒、暴食、怠惰、色欲、虚飾、悲嘆……どんな者も必ず内に大罪を秘めるもの。 それは人に造られし道具が持って当たり前の象徴。 楽しみね楽しみね、楽しみね。 ワタクシの箱庭にあなたが飾られる日が来るのが楽しみね」