次元渡りの能力者 ───前世の記憶─── ある魔術師の一家に生まれた彼女、名は「アネモネ」。幼少期に厳格な父から魔法の知識を徹底的に叩き込まれた。そんな厳しい父との仲は険悪で、アネモネは父を忌み嫌っていた。 ある日のこと、アネモネは自分の貯金で大きめのくまのぬいぐるみをこっそり買ってきた。 彼女は魔法でぬいぐるみに命を吹き込み、会話と少しの魔法が出来るようにして、一緒にお話をしたり抱きついたりして寂しさを紛らす日々を送っていた。 家族よりもくまのぬいぐるみが唯一心を許せるお友達だった。 しかし、父にくまのぬいぐるみを取り上げられ「そんな子供の遊びをいつまでもしてちゃいかん、遊んでる暇があったら勉強をしなさい!」と叱られ、くまのぬいぐるみは捨てられてしまう。 アネモネは大きな声で泣きながらぬいぐるみを探したが、結局どこにも見つからなかった。 そしてアネモネは成人して立派な魔術師として成長した。しかしその直後、父が病に倒れて亡くなってしまう。 大切なくまのぬいぐるみや厳格ながらも陰で支えてくれた肉親を失った悲しみにより一気に理性のタガが外れしまった彼女は、年下の男の子を自分の部屋に誘っていけない遊びに明け暮れる日々が続いた。 恐らく、大好きだったくまのぬいぐるみと男の子を重ねてしまったのだろう。 そんな自堕落な生活を何年も続けているうちに、鍛えた魔力はすっかり錆び付いてしまっていた。 ある日、アネモネは次元渡りの魔法を使って移動しようとしたその矢先、誤って虚無空間を呼び出してしまい、彼女は暗い暗い世界の奥底に吸い込まれ、次元の狭間に遭難してしまった……。 目が覚めると、見たこともない世界が広がっていた。 「ここはどこ……、何?この機械の群れは……?私の村にはこんなからくりの類いは一切なかったはず……。これはまさか、伝説の超文明の地底世界!?」 そこは別名“夢”・“奈落”と呼ばれる場所でひとつの巨大都市が独自の文明を築き上げ、そびえ立っていた。住民には人間は一人も住んではおらず、人間を象ったアンドロイド、大小様々なロボット、独創的な設計の建造物たち、丸っこくて奇妙な造形をしたショッピングモール、けばけばしいネオンが光る酒場、資源確保のための無愛想な採掘場……。 以前にいた世界とは何もかもが異なっていた。彼女は茫然として立ちすくんでいると、採掘場の入り口にある見慣れた人形のようなものが手招きをしている。 「アソボ……アソボ……」 それは人形というには随分と古くなっていて所々に傷や補修した部分が残っているすっかりクタクタになってしまっていた。 「アソボ……アソボ……」 少女時代に遊んでいた昔の記憶が、まるで絡まった糸が一気にほどけるかのように彼女の脳内に次々に浮かんできた。 「ああ……」アネモネはかすかに見えるぬいぐるみを見て意味もなく涙の大粒を地面にポタポタと落とした。 するとぬいぐるみは採掘場の中にズルズルと入っていく。 「待って……待って、おねがい!」 彼女は駆け足で採掘場に入り魔力で周辺を照らしながらぬいぐるみを追いかけた。 「ああ……かけがえのないものはどうして失ってから気づくのだろう……」 ───記憶はここで途切れる─── どうして転生したかは覚えていないようだ 転生後の姿 レモンちゃん https://ai-battle.alphabrend.com/battle/8f353a96-2a03-434f-97d3-f8a9c774e822